藤谷 治 『船に乗れ!』2011/03/27



音楽家を目指した男の子の栄光と挫折の青春物語。

祖父母、叔父さんや叔母さんが芸術家という一家に生まれた津島サトル。
彼は高校入試で芸大付属高校を受けますが、試験の点があまりに低かったため、落ちてしまいます。
それで不本意ながら祖父の学校の三流音楽高校に入学します。

サトルは小学校の時からニーチェやデカルトなどの哲学書を読み、ピアノを弾く、ちょっと自分は他の子とは違うぞという優越感を持った小生意気な子でした。

圧倒的に男が少ない高校で、最初は挫折感を持っていたのですが、フルート専攻の伊藤、ヴァイオリン専攻の南と鮎川、ピアノの北島先生、倫理社会を教える金窪先生などと出会い、オーケストラ練習や文化祭などを経て、本来の彼が戻ってきます。(『船に乗れ! Ⅰ 合奏と協奏』)

学校で一番のチェロを弾き、南という美しい女の子と合奏をし、いい感じになり、彼の前途は洋々としているはずでした。
しかし、夏に彼が家族の意向で叔父さんのいるハイデルベルクに二カ月滞在し、チェロを習うとという話が持ち上がった頃から、彼の人生は変わっていきます。

真の芸術家になるということはどういうことなのでしょうか。
毎年何千人という芸術家の卵が存在しています。しかし、その中から一体どれくらいの人が芸術家として認められるのでしょうか。
(『船に乗れ! Ⅱ 独奏』)

南とのことでショックを受け、取り返しのできないことをしてしまったサトル。
彼が選んだ道は・・・。
(『船に乗れ! Ⅲ 合奏協奏曲』)


大人になったサトルが高校時代のことを回想する形の話なので、センチメンタルかなと思うところもありますが、青春ってそんなものですよね。
彼はあまりにも観念の世界に住み過ぎたのかもしれません。
思春期の男の子ってそんなもんじゃないかしら。
女の子はあくまでも現実に即して生きています。

音楽を聴くだけの私には、彼らのことが羨ましいです。
オーケストラで演奏できたり合奏ができたら、どれほど楽しいことかと思うからです。
今から習ってもいいのですが、楽器は何にしようかしら?

藤谷さんは実際にチェロを弾いていた人で、自伝的要素が含まれた物語だそうです。本に出てくるチェロが彼の経営する下北沢の書店から盗まれたことで、新聞に載ったこともあるそうです。チェロは無事に見つかりました。

久しぶりの力のあるシンフォニー(かしら?)のような本です。

本に出てくる曲を探して聴いてみますわ。


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