乃南アサ 『いちばん長い夜に』2015/03/06



いつか陽のあたる場所で』が一作目、『すれ違う背中を』が二作目、そして、『いちばん長い夜に』の三作目で完結になります。

昏睡強盗罪で刑務所に入っていた芭子は週に三日、ペットショップでバイトをしながら、ペットの洋服作りをしていました。
なんとかお客もつき、自分の店を持つという展望も開けてきたところです。
一方、DV夫を殺害した綾香はパン職人として毎朝早くに起きて勤めに出る毎日です。

一見仲の良い二人ですが、芭子は綾香が本心を隠しているのではないかと思い始めます。
同じように「一線を越えた経験を持つものだが、芭子の超えた一線と、綾香の超えた一線とは、思っている以上に違うのかも知れない」と。
綾香の中に横たわる「暗い淵のようなものの原因の一つが、生き別れになった子どもにある」と思った芭子は、綾香の子共を探しに綾香の故郷の仙台に行きます。

仙台で、芭子は東日本大震災にあってしまいます。
避難した仙台のホテルで、行きの新幹線で隣に座っていたという青年と再会し、二人はタクシーを乗り継いて東京へと帰ります。

タクシーを乗り継いて帰れるものなのかと思ったのですが、これは実際に乃南さんがしたことだそうです。
乃南さんの仙台での震災体験がこの本に描かれているのです。

震災後、芭子と綾香の人生は変わってしまいます。
綾香は毎週、東北の被災者へ自分の作ったパンを持って行くようになり、芭子はPSTDを抱えることとなり、同じ経験をした青年で弁護士の南くんと付き合い始めるようになります。

罪に重さがあるのでしょうか。
芭子と南に綾香は言います。
東北へ行き、芭子と自分とは全然違う。「人の生命を奪っちゃいけなかった」と初めて後悔したと。

3.11が風化したと言っています。
そうでしょうか。
風化ではなくて、政治家に何を言っても無駄だという諦めのような気もするのですが。

一作目と二作目とは違い、生命の重さを考えさせられる三作目でした。