松下隆一 『侠』2024/03/29

何でこの本を借りたのかなと思いながら読み終わり、本のことを調べてみると、太田愛さんの『未明の砦』と共に第26回大藪春彦賞を取っていました。
この二冊、まったく違うジャンルなのに、同じ賞を取ったのですね。


銀平は古里の蕎麦を出す蕎麦屋を営んで三十年。元名うての博奕打ち。
半年前から腹痛が起き、父親と同じ症状ゆえ、死を覚悟している。
儲けを考えず、蕎麦を作るのは一日二十杯、一杯十文という破格な値段だ。
小さなボロ小屋の店なので、来るのは小者や夜鷹、物乞いの親子などの常連客ばかり。

ある日、銀平が昔人足として働いていた忠兵衛の息子の丑吉がやって来る。
銀平にこれから所場代を取るといった後に、久しぶりに八州博奕をやらないかというのだ。
銀平は断る。

それから銀平のところに思いもかけない人が現れる。
逃げた元女房のおようだ。おようはあまりいい暮らしをしていないようだ。

ちょうどその頃、賭場のあがりを盗んだ清太という若者が店に転がり込む。
銀平は盗んだ金を返しに行き、清太の代わりに自分の命を差し出そうとするが、忠兵衛に恩のある権蔵親分は金が戻ったからと、話を終わらせる。

銀平は行き場のない清太を蕎麦屋で働かせる。
清太は思いがけず商売っ気があり、店は繁盛していくが、常連客は来なくなる。

銀平はおようともう一度やり直そうと思い、会いにいくが…。

自分の命の終わりを意識し、若者の未来に自分の命を託そうとするのですが、若者は思慮が浅く、大馬鹿ものです。
銀平さん、一世一代の大博奕ですね。
でも、捨てたもんじゃない。お天道様はちゃんと見ている。

思った通りにお話が進み、意外性はありませんでした。
作者は脚本家の方らしく、スイスイ読んでいけます。
時代小説の初心者の方は読みやすいと思います。
人情物時代小説がお好きな方向けのお話です。