読んだ文庫本2024/06/25



ほしおさなえ 『言葉の園のお菓子番 未来への手紙』
一葉が亡くなった祖母が通っていた連句会「ひとつばたご」で連句を初めてから二年が経つ。
勤めていた書店が閉店し、無職になったが、今は連句仲間から紹介された谷中にある「あずきブックス」に勤めている。
ある日、一月の連句の大会で知り合った「きりん座」の城崎大輔からメールが来て、「きりん座」のメンバー数人があずきブックスに来ることになる。
そのことがきっかけになり、あずきブックスに同人誌を置くことになり、「ひとつばたご」と「きりん座」の交流が始まる。
「きりん座」の同人誌に、一葉は若い頃に夕やけだんだんを撮り、区のアマチュア写真コンクールで三席を取ったことのある父とのことを書く。
このエッセイに坂の写真を撮るのが好きな大輔が撮った夕やけだんだんの写真が組み合わせられることになる。
大輔が父の夕やけだんだんの写真を見たいというので見せると、同じ場所を撮影して、いまとむかしの二枚を並べ、そこに一葉がエッセイやイラストを描き、雑誌をつくろうという話になる。初回は谷中・根津。
さまざまな人との出会いから広がる未来。
一葉にやっと春が来るのか…。

今回出てくるお菓子の中に、「パティシエ ショコラティエ イナムラショウゾウ」のショコラがありました。ケーキは食べたことがありますが、ショコラはどうだったかなぁ?
しょうがとミルクチョコレートをつかい、夕やけだんだんをイメージしたという「谷中」は食べてみたいです。
家から遠くなったので、あまり行かなくなった谷中ですが、涼しくなったら行ってみようかしら。

仙川環 『カナリア外来へようこそ』
西武新宿線と西武池袋線の中間辺りにある街で、保泉クリニックは過敏症の人のために特別外来を始めた。
院長は保泉則子という無愛想で仏頂面の医師。看護師は優しいけれどおちょこちょいのレン君。彼女たちのところにさまざまな患者とその関係者がやって来る。

<1>においに敏感で、化学物質や人工香料のにおいを嗅ぐと頭痛がしてくると会社に言ってあるが、なかなか理解してもらえなくて悩んでいる若い女性。
<2>去年の冬から倦怠感と頭痛で起き上がれない。夫が退職して家にいる時間が長くなってからだ。夫源病か?夫とはもういっしょに暮らせない。家を出たいと思っている女性。
<3>昨年の夏に突如として味覚障害になり、塩味、甘味、苦味などを通常の何倍も強く感じるようになった料理人。
<4>かつて手足に発疹が現れ、腫れ上がった娘が日光や紫外線に弱いと決めつけ、外遊びをさせない妻に反旗を翻す夫。
<5>シックハウス症候群の対策をした注文住宅を手がけている馬塲の注文主が引き渡し後に頭痛がする、喉も痛い、この家はシックハウスだと言い出す。
家には問題がなく、持ち込んだ家財道具に問題があるのではないかと思うが…。

過敏症といっても色々とあるんですね。なかなか人には理解してもらえないものですよね。

「国や自治体、業界団体やメーカーへの抗議も必要だろう。でも、それだけでは足りない。理解してくれる人を増やす必要がある」
「無関心な人を一人理解者に変えたら、その人がさらに和を広げてくれるかもしれない」
「当事者と一緒になって、世の中を変えていく。寄り添うというのは、そういうことだ」

理解されないから、もう人に言うのは止めてしまおう、などと思ってしまいがちですが、その中の誰かが理解してくれるかもしれません。
疲れますが、言い続けることが大事なのかもしれませんね。
「カナリア」は炭鉱のカナリア、「まだ起きていない危険や、目で感知できない危険を知らせる人」のことです。

二冊ともお勧めです。
『カナリア外来へようこそ』は続きを書いて欲しいですね。