岩井圭也 『夜更けより静かな場所』 ― 2025/03/28
六編からなる短編集。

「真昼の子」
夏季休暇中に暇をもてあました大学三年生の遠藤吉乃は父親の兄、茂の営む古本屋<深海>を訪れた。
伯父におすすめの小説を訊くと、ロシアの作家が書いた『真昼の子』を勧められた。
読んでみると面白くて、一晩で読んでしまった。
次の日も<深海>を訪れ、似たような小説か同じ作者の小説を読みたいと伯父に言った。
それから吉乃は<深海>に通うようになる。
ある日、伯父に読書の楽しみを共有できる機会がないことを愚痴ると、伯父は読書会を開いてみようと言い出す。
読書会は深夜〇時から二時までで、メンバーは伯父さんと吉乃を含めて六人。
課題図書は『真昼の子』。
吉乃には恋人がいた。その恋人はゼミの准教授で、妻子がいた。
『真昼の子』を読んでから吉乃のこころは変化していく。
「他人がどう言おうと、自分にとって大切だと思える一文に出会うためにわたしは本を開く」
「いちばんやさしいけもの」
真島直哉は元野球部員。プロを目指していたが、イップスになり、野球を止めたが、退部届けは出していない。親にも言っていない。
同級生の吉乃のことが好きだ。彼女が読書会のことを話しているのを聞きつけ、読書会に押しかけた。
彼が選んだ課題図書は絵本、『いちばんやさしいけもの』。
「能力と生きる価値の間には、いっさい関係がない」
「隠花」
安井京子は非正規の図書館司書で<深海>の常連客。
新卒から勤めているのに、月給は18万円から上がらない。
母から家に帰るなら、家は売らないと言われたので、それなら売れと言うと、男はいないのか、元夫とはどうなのかと訊かれる。
彼女が選んだ課題図書は詩集「隠花(いんか)」。
「自分を信じている限り、花は萎れない。誰だってそうだ」
「幸せではないが、もういい」
「雪、解けず」
中澤卓生はグラフィックデザイナーで、<深海>の常連客。
実の父親は病気の母を捨て、子を置き去りにした。
その父からSNS経由で会いたいと連絡が来る。
彼が選んだ課題図書は歴史時代小説「雪、解けず」
「登場人物への共感は、必要でしょうか」
「トランスルーセント」
国分藍は元ヴァイオリニスト。7歳でヴァイオリンを始め、大学でプロになれないことを悟り、音楽教師になるが、学級崩壊し、一年で辞めた。
緩い<深海>でバイトとして働き始めてから三年が経つ。
ある日、店主の遠藤から楽譜を渡される。
それは戦後日本を代表する作曲家が書いた無伴奏ヴァイオリン曲<トランスルーセント>の自筆の楽譜で、販売価格が二百万というものだ。
今度の読書会で弾いて欲しいというのだ。
三年間、ヴァイオリンに触れていなかったが、国分は弾くことにする。
「美しい音だけが音じゃない。がむしゃらに生きていれば、雑音も出るし騒音も立つ。それが当たり前なのかもしれない」
「夜更けより静かな場所」
吉乃は最後の読書会から八カ月経つが、伯父とは会っていなかった。
就職の内定がなかなかもらえず、やっともらえたのが七月で、それから卒論の執筆で忙しかったからだ。
久しぶりに<深海>に行き、片付けていると、伯父が書いた自伝『夜更けより静かな場所』が見つかる。
初めて知る伯父の過去・・・。
「居場所は必ずしも探すものじゃない。自分でつくったっていいはずだ」
「誰もが、選択と偶然の連続を生きている」
吉乃は「小さな選択」をする。
岩井圭也の本を読んでいないと思っていたら、読んでいました。
意外でしたが、とても好きなお話です。
読書会に参加したことがありませんが、こんな読書会なら参加してもいいかもしれませんね。
課題図書は架空の本ですので、探さないようにしましょう。
もしあるなら、私は『真昼の子』を読んでみたいです。
簡単に言うと、本の中の登場人物たちが本や楽譜などを通し、自分を見つめ直し、ある選択をしていくというお話です。
最後の伯父さんのした選択はよくわかりませんでした。
理由のない、漠然としたものからそうしたのでしょうかね。(ネタバレになるので詳しくは書きませんが)
特に本好きな方におすすめしたい作品です。
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