髙田郁 『星の教室』 ― 2025/03/17

大阪に住む潤間さやかは、中学1年生の二学期半ばに、同級生の暴力により肋骨を骨折し、ひと月入院した。
苛めのことは親にも教師にも言わず、不登校を通し、卒業証書は受け取らず、中学校を中途退学した。
高校を卒業する歳になり、アルバイトでもいいから働こうと思ったが、履歴書を求められる度にバイトを辞めた。
今のバイト先のレンタルビデオ店「アガサ」は珍しく三ヶ月も続いている。
そんなある日、さやかは七十前後の女性に夜間中学校が舞台の映画があるかと訊かれる。
店長の緒方が知っていた。
その時、緒方から隣町にある河堀中学校に夜間中学校があると知らされる。
さやかは夜間中学校に行ってみた。
まだ中学校に行くことが怖い。学校の中には入れない。
フェンスで囲まれた校庭伝いから帰ろうとしてグランドを見ると、体育の授業をしていた。
服装も年齢もバラバラで、とても学校の授業とは思えなかった。
それから一週間毎日、バイト後にさやかは河堀夜間中学校に行き、フェンス越しに授業の様子を見ていた。
ところが、あることがきっかけとなり、さやかは河堀夜間中学校に入学することに・・・。
さやか、二十歳の春だった。
さやかが仲良くなった生徒たちには様々なバックグラウンドがある。
グエン・ティ・スアン:日本人と結婚して日本に来た。英語はさやかと同じ授業だが、識字クラスで学んでいる。
正子ハルモニ:在日。車椅子で学校に来ている老女。
遠見巌:宮古島出身の腰痛持ちの初老の男性。
山西蕗子:中国残留孤児。面倒見がよく、さやかが夜間中学校に入るきっかけを作った恩人。
松峰健二:23歳の五分刈りの青年。料理店に住み込んで修行をしている。
先生方も個性豊かだ。
江口先生:さやかのクラス、二年三組の担任で体育教師。
鈴木先生:みんなから慕われている養護教諭。
田宮先生:社会科教師。
吉村先生:1年4組の担任。国語教師。M教(問題教師の略)
用瀬裕という漫画家が取材に来る。
彼は二十年以上も前、高校一年生の時に苛めに遭い、高校を中退。その後、漫画家としてデビューし、『ハイスクールぶるうす』を描き、一世を風靡した。
人生を『生きなおしたい』と思い、東京から大阪に居を移している。
いい仲間たちと信頼のおける大人たちに囲まれ、さやかの頑な心がほどけていき、やがて叶えたい夢を持つようになる。
髙田郁さんは時代小説を書く方だと思っていましたが、そうでもないのですね。
あとがきによりますと、この本は漫画原作者時代の2001年に連載したものを土台にしているそうです。
ですから2001年から2002年のお話です。
夜間中学校に通う人たちは、AIがまとめてくれましたが、戦後の混乱期に学齢期を迎えたため学校に通えなかった人や不登校などの諸事情により、学校に通えないまま中学校を卒業した人、日本や本国で義務教育を修了していない外国籍の人、経済的な困窮などの理由で昼間に就労や家事手伝いを余儀なくされた人などがいます。
2020年の国勢調査によると、義務教育未修了者は約90万人。
2024年10月では全国で53校の夜間中学校があります。
2024年5月の生徒数は1969人で、外国籍の生徒が1256人(中国やネパールが多い)で日本国籍は713人。39歳以下の若年層が1114人。
今はこの本の夜間中学校と少し様子が変わっていると思いますが、こういう人たちがいるということを心の片隅にでも置いておいてください。
本の中のいい言葉。
「『学び』とは、誰にも奪われないものを自分の中に蓄える、ということなのか。
誰のためでもない、自分のために。自分の人生のために」
なお、夜間中学校が舞台の映画とは山田洋次監督の「学校」です。
もし夜間中学校に興味を持ったなら、この本を読んで、映画を見てみてください。
若い人たちに読んでもらいたい本です。
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