「秋が来るとき」を観る ― 2025/06/02
原題「Quand vient l'automne」。
老女二人の穏やかな生活を描いた映画だと思って見に行ったら、とんでもない。
ミステリ色の強い映画でした。

80歳のミシェルはブルゴーニュの田舎で一人暮らしをしている。
パリにいる娘のヴァレリーと最愛の孫のルカが秋の休暇でやって来るという時に、親友のマリー=クロードに誘われ、キノコ狩りに行く。
やって来たヴァレリーは機嫌が悪い。夫と離婚寸前だという。
食事の時に、パリのアパルトマンをやったというのに、田舎の家も自分にくれと言い出す。
採ったキノコを炒めて出したが、ルカはキノコが嫌いと言って食べず、ミシェルも食欲をなくし、食べなかった。
ルカと森に散歩に行って、家に戻ると、救急車が来ていた。
気分が悪くなったヴァレリーが救急に電話をした後に気を失ったという。
どうもミシェルが採ったキノコが原因らしい。
ヴァレリーはここにいると殺されると、一泊もせずにルカを連れて帰っていく。
ルカと一緒に休暇が過ごせるはずだったのに、自分のせいで・・・と悔やむミシェル。
マリー=クロードの息子のヴァンサンは刑務所から出所し、マリー=クロードの家で暮らし始める。
ミシェルは彼に家の仕事を頼み、バーを開く資金を出してやる。
ヴァンサンはミシェルがルカと会えないことを嘆いているのを知り、パリに行く。
ヴァンサンがパリに行った日、ヴァレリーがアパルトマンから転落死したという連絡が来る。
事故なのか、自殺なのか・・・。
ルカは父親のいる中東には行かず、ミシェルと暮らすことを選ぶ。
やがてマリー=クロードは病気が悪化して亡くなる。
ミシェルは亡くなる前に彼女からある秘密を聞かされる。
ヴァレリーは仕事も、結婚も、何もかも上手くいかないことを母親のミシェルのせいにしています。
ミシェルの過去が明らかになった時に、ヴァレリーのミシェルに対するとげとげしい態度がうなずけました。
しかし、人生が上手くいかないのはミシェルのせいではないし、自分でどうにかしていくしかないのです。
マリー=クロードの方も子育てに失敗したと言っていますが、それでもヴァンサンは母にも、母の親友のミシェルにも優しいです。
娘と息子の違いでしょうか。
いつまでも結婚しないヴァンサンはひょっとしてミシェルのことが好きなのかしらと思ったりww。
一番の被害者は孫のルカです。
父と母は仲が悪く、離婚寸前で、大好きな祖母ともなかなか会えません。
ミシェルと暮らし始めると、学校でイジメられます。
そこにミシェルに相談されたヴァンサンが登場し、上手くおさめてくれます。
他人ではありますが、家族のような関係が築かれているんですね。
ルカ君がハンサムで眼福でしたww。
大学生になった姿もすごく似ていて、すぐにわかりました。
ネタバレしないように書いていますので、隠された秘密は映画を観て確かめて下さい。
森の景色がよく、ブルゴーニュのような田舎に住みたくなりました。
「犬の裁判」を観る ― 2025/06/03
「Le procès du chien」は2024年のカンヌ国際映画祭でパルム・ドッグ賞を受賞した映画です。
役名は「コスモス」ですが、サーカス犬でグリフォン種の「コディ」という名前だそうです。
2023年には「落下の解剖学」に出演していたメッシ君が取っていましたね。
難しい役をちゃんと演じていました。
我が家のわんこたちに爪の垢を煎じて飲ませたいですw。

裁判で負けてばかりの弁護士アヴリルは、弁護士事務所の所長から次の裁判で負けたら首だと言い渡される。
ところが彼女のところにやって来たのは、三度も人を噛んだというオス犬コスモスの弁護だ。
断っているというのに、視聴覚障害のある飼い主のダリウシュはしつこく、彼女がやるというまで諦めない。
仕方なく弁護を引き受けるが、本来なら犬は物として見なされる。
しかし、犬は「物」ではないというアヴリルの主張が認められ、とうとう勝つ見込みのない犬が被告の裁判で戦う羽目になる。
有罪なら、飼い主への罰金1万フランとコスモスの安楽死が確定する。
コスモスの被害にあった女性はポルトガルからの移民である家政婦。
コスモスが餌を食べている時に彼に触ってしまい、顔を噛みつかれ、大きな傷を負ってしまった。
どうもコスモスは食べている時に邪魔されると、噛みつくようだ。
それだけではなく、裁判が進むうちに、コスモスは女性だけを噛むことがわかる。
犬の権利から安楽死問題、障害者の差別問題、移民問題、性差別問題・・・まで広がり、裁判はカオス状態に突入していく。
さて、結末は・・・。
ホント、予告編だけではわからないものですね。
後からわかったのですが、この映画は法廷コメディだそうです。
フランスのコメディはとんでもないものだとわかっていたので、前もってわかっていたら、見なかったかも。
でも、わんこが出るので、見たかも。(どっち?)
スイスが舞台で実話に基づいていると言いますが、いつのお話なんでしょうね。
ほぼ裁判は怒鳴りあいで、耳栓が必要でした(嘘)。
つくづく日本語って静かな言語だなぁと思いました。
自分の主張したいことを相手が聞いていようがなかろうが、とにかく主張するのです。論点がずれようが、お構いなしです。
まさかフランスやスイスでは実際の裁判もこうなのか。
いろいろと考えさせられることはあったのですが、言葉のやり取りがすご過ぎて、飛んじゃいましたww。
被害者側の弁護士の女性(ポスターの右端の女性)が怖かった。
つくづく人間って醜い生き物だなぁと思いました。
犬の裁判の他に上司のセクハラまがいの言動や市長選挙がらみのこと、隣の家庭のDV、必要のないセクシー場面…と盛り沢山で、ちょっとまとまりに欠けていた感じがあります。
コディくんは達者な演技でした。

でもねぇ、人に向かって唸ったり、吠えたりしている怖い顔が映っているし、特に森の中でアヴリルとコスモスが争うシーンがとても嫌で、私は見たくなかったです。
気をつけて観て下さいね。
そうそう、犬の食事中に触っちゃいけないことは当たり前のことだと思ったのですが、そうでもないのでしょうか。
みなさん、食べている時は絶対に犬に触らないで下さい。
うちの兄犬は唸りました。この頃は取られないことがわかったのか、唸らなくなりましたけど。
そういえば映画の中に、フィンランドにある男性二人が経営する凶暴な犬を保護する施設が出てきましたが、本当にあるのでしょうか。
映画館はほぼ満席で、笑い声が起こる映画ですが、人を選ぶと思います。
私は特に見なくてもよかったなと思いましたが、好き好きなので、フランスのコメディが大丈夫という方は見てもいいでしょう。
映画としては、「落下の解剖学」の方が断然面白いので、オススメです。
沖田円 『丘の上の洋食屋オリオン はなむけの皿』 ― 2025/06/05

昨日まで涼しかったのですが、今日から暑くなってくるようです。
そろそろ梅雨が近づいているので、紫陽花も盛りになってきました。
色のついた紫陽花もいいのですが、白いのも素敵です。
夏休みを目指し、憂鬱な梅雨を乗り切りましょうね。
『丘の上の洋食屋オリオン』の続きです。

晴ヶ丘五町目の高台のにある『洋食屋オリオン』は昔から変わらぬ美味しいお料理をだすお店。お店に入ると看板猫のネロが迎えてくれる。
さて、今回はどんなお客様がやって来るのか。
「第一話 はなむけのナポリタン」
社会人四年目の花耶は、母親から急に、とっくに死んでいるはずの父親が今朝亡くなったと聞かされる。
実は花耶は不倫で出来た子で、相手が既婚だとわかり、別れた後に生まれたのだ。
行く気はなかったのだが、母親に忌引き休暇が有給だと聞き、花耶は葬儀に行く。
父親には颯馬という息子、花耶にとっては腹違いの弟、がいた。
颯馬が花耶について来たので、一緒にご飯を食べ、父親のことを色々と聞く羽目になる。
「第二話 ミートドリアと星の声」
文が飼っているキジトラの茶々は今年で二十歳。だんだんと食欲が衰え、眠っている時間が長くなり、高いところにのぼらなくなった。
茶々の様子を窺いながら、家事と仕事をする毎日だ。
たまに妹の結に茶々を見てもらい、夫の賢吾と外出することがある。
そんな時に行くのが『洋食屋オリオン』だ。
ネロと茶々は直接会ったことはないのに、ネロは茶々の体調が高齢のせいで思わしくないことを知って、気にかけてくれる。
「第三話 夏暁の野菜たっぷりカレー」
高校二年生の蓮太郎は不登校気味。一年のときに仲のよかった友達とクラスが離れ、今のクラスで最初は上手くやっていたつもりだったが、何気ない一言の後から避けられるようになった。それから学校に行ったり行かなかったりしている。
テストを受けた帰り道に晴ヶ丘の高台に行ってみようと思いたち、自転車をこいでいると、熱中症になり、高校生の男子に助けられる。
その子はなんと中学の同級生だった桐島蒼だった。中学生の頃、蒼がいじめに遭っていたのに、蓮太郎は見て見ぬ振りをしていた。
つい蓮太郎は蒼にその時のことを訊いてしまう。
「第四話 リスタートを告げる桃のムース」
ホテルのウエディングプランナーだった環はパワハラ野郎の上司を殴って首になる。実家に帰ろうと片づけをしていると、友人の開から電話が来た。
ちょうど開がルームシェアしていた相手が結婚するので家を出て行ったというので、一緒に住むことにする。
開の家があるのが晴ヶ丘の近くで、環は前にホテルで料理人をやってた子が三年前に退職して晴ヶ丘にあるおばあちゃんの店を継ぐといっていたのを思い出す。
開がたまたまその店のことを知っていたので、引越した後すぐにその店に二人で行ってみる。
「第五話 思い出の冷製かぼちゃスープ」
洋子が週に一度、『洋食屋オリオン』に通い始めて十年が経つ。
毎年夏に季節限定メニューとして出されるのが、かぼちゃの冷製スープで、洋子の大好きなひと品であり、特別なメニューでもある。
あずきさんが引退してからくるみちゃんが引き継いでいる味でもある。
これにはある理由があった。
様々な人たちの思い出の一品。
その料理を食べると、思い出すことがあり、それが辛かったり、楽しかったり、色々な思いがあるかもしれませんが、いつしかこの上もない最高の一品になることもあります。
どんな人の心にも寄り添い、心が癒される、そういうお料理が出てくるのが『洋食屋オリオン』なのです。
私の思い出の一品は何かと考えていますが、思いつかないです。
私の小さい頃に外食するという習慣がなかったんですもの。
たまに外で食べるものはお寿司とか塩ラーメン、お蕎麦ぐらいしかないですね。
これらがすごく美味しかったわけでもないですし、私の暮らしている町にイタリア料理屋とかフランス料理屋なんてなかったです(たぶん)。
今では外食や旅行が当たり前になってしまい、いい時代ですww。
読むと心がほっこりとなるお話ですので、心がささくれ立ったときに読むといいでしょう。
読むうちにお腹が空いてきて、きっと何か食べたくなりますよ。
私はナポリタンかな。あなたは?
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