柳原和子 『がん患者学Ⅲ がん生還者たち』2009/02/23

柳原さんが、『がん患者学Ⅲ』を「この六年間で私がもっとも自分の書きたい領域に近づき始めた時期の作品」と言っているように、彼女の三冊の本の中で一番好きな本です。
がん患者の心をもっともわかりやすく書いたという意味において、がんを患っていない者にとっても身内にがん患者がいる者にとっても参考になる本です。
もちろん、がんになっていない者に何がわかるかと問われると、わからないと答える以外ありません。
柳原さんも書いています。
「痛みと哀しさが一番、共感、共鳴しにくいような気がする。病を、痛みを、弱さを共有し合うのは、とくに難しい」と。
私自身、頚椎症で辛い思いをしていた時、「健康な人は傲慢だ」と思ったことがあります。
彼女も「無知というのは、傲慢に等しい」と書いています。
想像することができても、でもそれは想像でしかないのです。
人は他人の痛みを感じることはできないのです。
自分が同じような立場になって、初めてその人の痛みを知ることができるのです。
だから私は何も言えなくなるのです。

「第十章 医師レイチェル・ナオミ・リーメンを訪ねて」は是非読んで欲しいものです。
レイチェルさんは 十五歳の時にクローン病を患い、幾人もの専門医に「四十歳までは生きられない」と告知されたそうです。
しかし、七回の手術を経て、人工肛門を装置した身体で専門医の予測を大幅に超えて五十年近くを生きています。
彼女は医師の言葉により、絶望し、自分の人生で結婚はしない、子供は生まないと決心したのです。
彼女は言います。「たった一人の医師であってもいい。アスファルトを突き破って芽吹いた草の葉のように、クローン病という障害を打ち砕くことができるかもしれない、と励ましてくれたなら」と。
医師となった彼女は患者に対して、いつでも希望を抱いて接しているそうです。

人生は謎に満ち満ちています。誰の人生にも意味があり、目的がある。ダライ・ラマはすばらしい言葉を語っています。
《私たちは病気だから死ぬのではない。完成したから死ぬのだ》
たとえそれがなんであるのかわからなくとも、その人はやろうとしたことを成し遂げた。完成した。誇りを持って、去るのだ、と。

《大切なのは他者の恵みとなれるか、他者から人生の恵みを受け取ることができるかだ》

レイチェルさんだからこそ言える言葉ですね。