帚木蓬生 『賞の棺』2013/12/12



白血病になって以来、年に一回ぐらいしか新作を発表しなくなった帚木さんの新作がノーベル賞物?
と思って不思議に思って読み終わると、最後に1996年に文庫になったものだと書いてありました。

英国のアーサー・ヒルがノーベル医学・生理学賞を取ったという新聞記事を見た津田は恩師のことを思い出します。
彼の恩師の清原修平はヒルと同じ筋肉生理学者で、三年前に白血病で亡くなっていました。
もし彼が生きていれば、ヒルと一緒にノーベル賞をもらったかもしれません。
同じ分野にはロバート・アンダーソンとアルベルト・ベヴェシーもいたはずです。
何故彼らは受賞しないのか。
不思議に思った津田は<医学索引>で二人の論文を調べてみました。
奇妙なことにここ4・5年、二人は論文を全く発表していないのです。

清原教授の記念論文集をみている時に<研究の光と影>という随筆を見つけます。
そこには清原がパリで講演した時、二年前に清原と同じ実験結果を得ていたという男性が質問をしてきたということが書かれていました。
彼は実験結果の論文をヒルが編集委員をしていた<細胞生物学雑誌>に投稿しましたが却下され、その翌月、<細胞>に彼と同じ結果を示す論文が載ったと言うのです。
その論文を書いたのはヒルでした。

津田はブタペストの国際学会でポスター発表をする予定があり、学会の後、休暇をとり、パリに住んでいる恩師の娘と会い、アンダーソンとベヴェシーのその後を調べ、ヒルにも会ってみようと思いたちます。

ノーベル賞は死んだ人には与えられません。
もらうためには生きていなければならないのです。
出来る限り若い年代の研究者にあげて欲しいですね。