川瀬七緖 『クローゼットファイル 仕立屋探偵 桐ヶ谷京介』2022/10/21

仕立屋探偵、桐ヶ谷京介シリーズの二作目。
前作は長編でしたが、今回は6つの短編集。


桐ヶ谷京介は高円寺南商店街で仕立屋を営む服飾ブローカー。
彼には美術解剖学と服飾の深い知識によって、服を見ればその人の受けた暴力や病気までもわかる特殊な能力がある。
その能力が事件解決の糸口になると気づいた杉並警察署の未解決事件専従捜査対策室の警部、南雲隆史は桐ヶ谷のところに次々と未解決事件を持ってくる。
人気のゲーム実況配信者でヴィンテージショップの雇われ店長の水森小春は、そんな桐ヶ谷のことを面白がって彼について回り、いっしょに事件解決に乗り出す。
今回は新しいキャラ、南雲の部下の三十二歳、長身でイケメン、八木橋充巡査部長が登場。

「ゆりかごの行方」
十二年前、南雲が拾った杉並署の裏道に捨てられていた赤ん坊は、児童養護施設で生活をしているが、未だに両親ともに名乗り出てこない。
十二歳になった少年は南雲に母親を探してほしいと頼む。
南雲が桐ヶ谷のところに持ってきたのが、大人もののTシャツの脇を縫い詰めて作ったベビー服の代用品だった。

「緑色の誘惑」
桐ヶ谷と小春は正式に警察から捜査協力を依頼される。
その一番最初の事件は、十五年前に起った六十五歳の女性の殺人事件。
女性は活発で社交的な人間で、友人知人が非常に多く、恨まれるような性格ではなかった。しかし彼女は死の三年ぐらい前から『緑のおばさん』と揶揄されるほど、全身緑色の服を着るようになったという。
桐ヶ谷は彼女のワードローブを見たいと言い出す。

「ルーティンの痕跡」
小春が下着泥棒の被害にあう。残されていたのが古びた使用済みの男性用下着。
同一人物の犯行と確定されるものは五十九件もある。
桐ヶ谷と小春たちが杉並署の会議室で残されていた男性用下着を時系列に沿って並べていくと…。

「攻撃のSOS」
買い物に出かけた桐ヶ谷は池袋で四人の少女たちの右端を歩いている少女から目が離せなくなる。
彼女は明らかに日常的な暴力の犠牲者だ。
桐ヶ谷はそういう子を見るたびに、通報をしていたが、無駄に終わっていた。
彼らはなんとしても助けなければならなかった命だった。
今度は…と思いつけていくと、桐ヶ谷に気づいた少女は公衆電話を使って匿名で通報し、桐ヶ谷はやって来た警官に警察署に連れられていく。
なんとか容疑は晴れたが、南雲からだれにも気づかれずにつけまわすように言われ、小春の助けを借りることにする。
小春がつけていくと、少女は駅のトイレで私服に着替え、ある空き家に入っていった。そこには別の中学校の女の子が2人いた。

「キラー・ファブリック」
十六年前、蕎麦アレルギーのある女性が自宅でアナフィラキシーショックによる窒息で死んでいた。死亡時に第三者が家にいた形跡はなかったので、事故と見なされたが被害者の夫は納得せず、どうやら南雲も事件性を疑っているようだ。
現場にはトウモロコシの粒が残っており、それは1950年前後のアメリカで生産されていた種ではないかと推定された。
彼女は手作りで「ブサカワ」で「ヘタウマ」なぬいぐるみを作っており、ネットやハンドメイドフェスで人気だったという。
桐ヶ谷たちはハンドメイド仲間で特に親しかった五人と話しをしに行く。

「美しさの定義」
十年前の二月、荻窪のアパートで一人暮らしをしていた、服飾専門学校に通う女子学生が裁ちばさみで刺されて殺されていた。
争った跡がないので、被害者の顔見知りの犯行と思われたが、全員にアリバイがあり、目撃者もいなかったという。
桐ヶ谷は被害者が死亡時に来ていたトレーナーからは何も読み取れなかった。
そのため栃木にある被害者の家に行き、彼女が制作したものや学校に提出したレポート類などを見せてもらうことにする。

六作とも、「へぇー」以外の何も言えませんでした。
被害者が身に付けていた服とか小物とか物から真相に迫っていくなんて、そんなことが可能なのですね。
ホント、世の中、知らないことがいっぱいありますねぇ。

桐ヶ谷は年寄りだと思って読んでいたら、若くて、34歳でした。
彼は何故か暴力を受けている子どもに思い入れがあり、手を差し伸べようとします。見えてしまうと、何かせずにはいられなくなる人なのですね。
彼が述べていた虐待と脳の関係には驚きました。

「子どもが変死した場合、解剖医は最終的に脳の容積を見て虐待を判断しますからね。身体的暴力は前頭葉、暴言は側頭葉、両親のDVなどを目撃していた子どもは後頭葉の視野野に疵痕が残される。虐待というのは、目に見えるおぞましさ以上のものを脳に刻み込むんです」

着眼点が面白いシリーズですので、次作も楽しみです。
わたしは法医昆虫学捜査官シリーズも好きなんですが、もう続きはでないのかしら?