辻堂ゆめ 『答えは市役所の3階に 2020心の相談室』2023/11/01



2020年1月に日本国内で新型コロナイイルス感染者が確認されてからしばらく経った頃のお話。
立倉市は新型コロナウイルス感染症流行の状況を受け、市役所三階に『2020こころの相談室』を開設する。
相談員は三十代の臨床心理士の晴川あかりと六十代の認定心理士の正木昭三の二人。

第一話:白戸ゆり(17)
ゆりは進路に悩んでいた。母子家庭で進学はせずに就職をしようと思っていたのに、コロナ禍で志望する業種の求人がないのだ。なぜ今年なのか…。
三者面談が近付いているが、応募先が見つからない。
通学途中にチラシが目に入り、いつの間にか市役所に行き、三階の会議室を目指していた。
彼女が栄えある初めての相談者となる。

第二話:諸田真之介、二十九歳
諸田は看護師の婚約者と結婚するはずだったのに、コロナ禍になり、仕事を辞めて欲しいと言ったばかりに、彼女は婚約破棄の手紙を残して出ていった。
感染を恐れて、家族にも友人にも会っていないのに、恋人までも離れていった。
孤独に押しつぶされそうだ。
そんな時にSNSのアプリで『立倉市役所広報』の公式アカウントを見つけ、『2020こころの相談室』の開設を知る。

第三話:秋吉三千穂、三十八歳
三千穂はコロナ禍で、一人で出産した。
大手コンサルティングファームに勤める彼は忙しいと言って、退院の日も迎えに来なかった。一人育児に疲労困憊し、産後鬱になる。このままだと…。
たまたま表示されたアプリに≪こころの相談室≫のことが書いてあり、行ってみることにする。

第四話:大河原昇、四十六歳
大河原はコロナ禍になりネット難民からホームレスになる。ある夜、いつものように公園で寝ていると、不良グループに写真を撮られ、それ以来毎晩、不良グループの一人に悩ませられるようになる。
どうにかしてほしくて、チラシで見た≪こころの相談室≫に行くが…。

第五話:岩西創、十九歳
創は大学生。コロナ禍になり授業はリモート。人生に意味がないと思い始めている。そんな時に、午後三時に≪こころの相談室≫に行くようにというメールが来る。不思議に思い問い合わせてみると、誰かが創を騙ってメールで予約を取ったらしい。
ひょんな流れから創はカウンセリングを受けることになる。

一つのお話の後に「昼休みのひととき」か「退庁前のひととき」があり、その中で晴川と正木が相談者の情報共有のようなことをしています。(守秘義務に該当しないのかな?)
しかし、そこで晴川が正木に話すことが思ってもいなかったことで、読みながら読者も正木と同様に驚きます。
なんと、この本、ミステリだったのです!

謎解きも面白いのですが、どのお話も明るい未来を予想させられる終わり方でよかったです。
コロナ禍は終わったとはいえ、まだまだ影響の残る毎日ですが、そういえば医療従事者に対するひどい扱いがありましたね。
都会に住んでいる人は地方に行けないこともありました。
学校生活の楽しみを奪われ、子どもたちには辛い毎日だったのではないでしょうか。
もう二度と起って欲しくないことですね。
そんなことを色々と思い返しながら読んでいきました。