高瀬乃一 『貸本屋おせん』2023/11/15



文化年間、せんは女ながらも江戸浅草で貸本屋「梅鉢屋」を営んでいる。
せんの父、平治は腕のいい彫師だったが、出版のお触書に反した咎で反木の削り落としにあう。その後、母は男と出ていき、父はせんが十二歳の時に自死した。
天涯孤独の身となったせんは周りの助けもあり、なんとかやっている。

第一話:をりをり よみ耽り
得意客の井田屋から紹介された小料理屋「大筒屋」の蔵にある本をせんは見せてもらい、写本をつくる許しを得、通うようになる。
そういう頃、地本問屋の南場屋にせんが奉行所に目をつけられていると言われる。
ある夜、せんは襲われるが、賊は一体誰なのか?

第二話:板木どろぼう
地本問屋の南場屋で、曲亭馬琴の新作の版板が盗まれる。
怪しいのが新作を相反している伊勢屋。
せんは南場屋から頼まれ、伊勢屋に探りを入れることになる。

第三話:幽霊さわぎ
美人女将として有名なお志津の店、七五三屋の元手代、新之助が中宿で血まみれになって死んでいた。世間はお志津の夫、平兵衛の幽霊の仕業ではないかと噂している。
せんは、新之助が店から盗んだ錦絵とは知らずに、隈八十から錦絵を手に入れ、その錦絵に描かれている団扇の地紙部分の文字が書き加えられているのに気づく。
ただの落書きか、由緒ある書き入れかが気になり、七五三屋を覗いていると、番頭から声をかけられる。

第四話:松の糸
せんは刃物屋「うぶけ八十亀」の惣領息子、公之介から、老舗の料理屋「竹膳」の出戻り娘お松に惚れたが、お松は『雲隠』という本を探してくれたら一緒になってもいいと言っているので、『雲隠』を探してくれと頼まれる。それが源氏物語の『雲隠』なら、幻の帖。あるかどうかわからないのだが…。

第五話:火付け
吉原で火事騒ぎがあり妓楼が焼け落ちたため、「桂屋」が東本願寺の門前で営業を始めた。せんは「桂屋」の仮宅に貸本を置かせてもらっている。
ある日、小千代というお針の娘が足抜けした。せんは彼女に式亭三馬の『両禿対仇討』を貸していた。
せんは桂屋に雇われている卑劣極まりない若い者たちよりも先に小千代を探そうするが…。

男に頼らず、自分の力で生きていこうとするせんの心意気がいいですねぇ。
幼馴染みの青菜売り、登はいつでも嫁に来いと言っているのに、せんは絶対に応じません。
そういう片意地を張ったところとか、悪党にも負けないところなどが全く嫌みがないです。同じように女で頑張っている『貸しもの屋お庸』のお庸と比べると、この違いは何でしょうね。
せんなら応援したくなります。

江戸時代に貸本屋があることは知っていましたが、本をどうやって作り、手に入れていたのか知らなかったので、読んでわかりました。
他の時代のお話が少ないせいかもしれませんが、やっぱり江戸時代は面白いですね。
少しのミステリの味付けが好ましいです。
シリーズになるといいですね。