今野敏 『一夜 隠蔽捜査10』2024/02/27



小田原署に行方不明者届が出る。行方不明者は北上輝記という小説家。
神奈川県警刑事部長・竜崎伸也のところに、わざわざ阿久津重人参事官が報告に来た。
そもそも竜崎は小説なんか読まないし、大きな文学賞を取った著名人かどうか、そんなことは関係ない。
竜崎のスタンスでは、誰であろうが、特異行方不明者であれば、すみやかに捜査するだけだ。
北上のファンである副署長が気づき、署長に報告し、あっという間に署内に広まったらしい。
竜崎は箝口令を引くように指示を出す。
しかし、その後、本部長に呼び出される。
本部長は誘拐かもしれないので特殊班(SIS)を動かそうと思っているという。
著名人というのは面倒なものだと思う竜崎。
マスコミだけではなく、身近にいるファンまでもが騒ぐのだから。

その夜、家に帰った竜崎は電話で呼び出される。
北上が車で連れ去られるところを目撃した者がいて、誘拐らしいというのだ。
捜査本部が発足し、SISの出番となる。

そこに誘拐事件の捜査の手伝いをしたいと、小田原市内に住む梅林賢という小説家がやって来る。
副署長曰く、梅林は北上と同じくらい有名だ。
課長は追返せというが、物好きな竜崎は会ってみることにする。

梅林はミステリを書いているエンタメ作家で、北上は文芸作品を書いているという。
梅林は北上の行方が気になり、出版社の文庫担当で、北上と梅林の両方を担当している赤井という編集者に電話をしたとのこと。
竜崎は警察から赤井に連絡を取ることにして、一応、梅林の携帯番号を聞いておく。

気になった竜崎は警視庁の刑事部長である伊丹に電話をして、北上と梅林のことを聞いてみると、もちろん彼は知っていた。梅林の大ファンだという。
彼に会ったことを言うと、伊丹は俺も会いたかったと言う。
伊丹は、杉並区久我山で起きた殺人事件の捜査で忙しいようだ。

誘拐事件の方は犯人から何も連絡はなく、誘拐の目的も、北上の安否もわからないままだったが、しばらくすると、SNSに北上が誘拐されたという書き込みがある。
その後、犯人を名乗る男から電話で、世間に誘拐のことを公表しろという要求が来る。

なんとも不可解な誘拐事件を、竜崎は梅林の助言を参考にしながら捜査していくが…。

竜崎、面白すぎ。東大を出てるけれど、小説なんか全く読んだことないそうです。
そもそも誰かのファンになったことがないそう。
驚いた本部長が「刑事部長、宇宙人じゃないよね?」なんて訊くんですから、笑。
伊丹刑事部長の方が人間的ですね。意外とわたし、伊丹刑事部長、好きです。
そうそう、奥さんに「他の仕事をやりたいと思ったことがないの?」と訊かれ、「ない」と即答しましたねぇ。
そして、「そもそも俺は、自分が警察官であるという前提で物事を考えている。だから、他の職業のことなど、考えたこともない」なんて。
う~ん、竜崎みたいな夫は、わたしは嫌だぞ。
「おまえは、俺が警察官であることに、何か不満があるのか?」と言われ、「ない」と答えた妻の冴子さん、最高ですwww。

今回、竜崎の家にある問題が起りますが、ここには書きません。
そうそう、大学とは何ぞやと思っている人に、いい言葉が出てきました。
要するに大学は「四年間居場所を与えられ」るところ、「何でも考えられる四年間」なんですね。
題名の『一夜』は小田原の「石垣山一夜城」から取ったようです。
詳しくは本に書いてありますので。

男性ファンの多い、隠蔽捜査シリーズですが、今回は理想の上司である竜崎の活躍が少なかったので、少し物足りなかったです。
『ジェンダー・クライム』とか『彷徨う者たち』のようなガチなものを読んだ後だったから尚そう思ったのかも。

夫とテレビドラマ化したとしたら、竜崎と冴子、どの俳優さんがいいかと話しています。
誰がピッタリでしょうね。