小松亜由美 『イシュタムの手 法医学教授・上杉永久子』2024/09/14



東京都出身の南雲瞬平は秋田医科大学の博士課程で法医学教室に所属し、秋田の有毒植物を研究テーマにしている。
指導教官は自殺研究の第一人者、上杉永久子教授。
法医学教室にはもう一人、修士課程の臨床検査技師免許を持つ鈴屋玲奈がいる。
秋田県内で発見された異状死体の法医解剖は、全てここで行われる。
上杉の夫、秀世は大仙市大曲在住で歯科医院を開業している。秋田県警から頼まれて歯科鑑定を行うので、よく法医解剖室にやって来る。

「第一話 業火の棺」
二体の焼死体が持ち込まれる。昨日の夕方に火災が発生した民家の住人の夫妻だと思われる。夫が妻を殺害後、自宅に放火した無理心中事案であると思われたが、解剖してみると、二つの遺体の臓器に似たようなポリープがあった。

「第二話 胡乱な食卓」
一家の集団食中毒の疑いがあると秋田県警の熊谷から連絡がある。上杉は南雲を連れて現場に赴く。
家族三人中二人が亡くなり、このうちの一人は全裸で風呂場に、もう一人は居間に倒れていた。台所に倒れていた一人は中等症で病院搬送され、治療を受けていた。
吐瀉物を見て南雲はあることに気づく。

「第三話 子守唄は空に消える」
南雲は日本法医学会の全国集会が開催される仙台に行くため、秋田駅の改札口に向かっているときに、秀世に遭遇する。立ち話をしていると、仙台にいる上杉から電話が来る。生後二ヶ月の乳児の司法解剖が入り、秀世には口腔内鑑定を頼むという。大学に戻り、南雲と鈴屋は秀世から乳児の解剖について指導を受ける。
仙台から戻ってきた上杉の様子がおかしい。この乳児の父親と兄も上杉が司法解剖したという。
一週間後、マスコミがとんでもないことを報道する。
誰がマスコミにリークしたのか。そして乳児の死の真相は?

「第四話 出会いと別れの庭」
南雲が法医学を選んだきっかけとなる人物との出会いと別れ、そして上杉教授の過去が語られる。

「第五話 真夏の種子」
夜の夏祭りで集団食中毒が起り、四名が亡くなり、二名の症状も重く、予断を許さない状況だという。上杉と南雲は現場に赴く。
翌日、司法解剖が行われた。南雲は以前読んだ毒物関係の論文で、今回と似た事案があったのを思い出す。

題名の「イシュタム」は「マヤ神話で自殺を司り、死者を楽園に導く女神」で、上杉教授は南雲によると、「遺体の死因究明を使命とする教授は、死者やその周囲の人たちを救っている気がするので」『イシュタム』みたいなのだそうです。
上杉教授は「抜群の解剖技術と観察眼を持つ」人ですが、とにかく変わっていて、周りの人たちをはばかることなく振り回すのが玉に瑕ですね、笑。
それに甘い物がすごく好きで、大量にペロッと平らげ、とんでもなく苦いインスタントコーヒーを平気で飲んでいます。
そういえば「ドクターX」で手術の後に大門美知子がガムシロップをものすごい量、飲んでいましたね。
医師って手術をすると、甘い物が必要になるんでしょうかね。

南雲君の家族はみな医師で、彼の家族は彼が東京の大学の医学部に入れなくて、最低ランクの秋田の医学部に入ったということをバカにしています。
南雲君もそういう自分を恥じるところがあり、それが最初は嫌でした。
でも、だんだんと場数を踏むにつれ、彼も変わってきています。
秋田の人たちの暖かさに触れられて、彼にはよかったんじゃないですかぁ。
わたしは気にならなかったのですが、秋田弁がわかりずらいという人もいるかもしれませんが、ご愛敬ということで。

小松亜由美さんは秋田県出身で、臨床検査技師の免許を持っています。現在は某大学医学部法医学教室に所属し、解剖技官を務め、多くの異状死体の解剖に携わっているそうです。
前に読んだことのある『誰そ彼の殺人』がデビュー作で、この他に『遺体鑑定医 加賀谷千夏の解剖リスト』があります。
主人公を変えて書くよりは、シリーズ物にした方がいいように思いますが、如何でしょうか。