「犬の裁判」を観る2025/06/03

「Le procès du chien」は2024年のカンヌ国際映画祭でパルム・ドッグ賞を受賞した映画です。
役名は「コスモス」ですが、サーカス犬でグリフォン種の「コディ」という名前だそうです。
2023年には「落下の解剖学」に出演していたメッシ君が取っていましたね。
難しい役をちゃんと演じていました。
我が家のわんこたちに爪の垢を煎じて飲ませたいですw。


裁判で負けてばかりの弁護士アヴリルは、弁護士事務所の所長から次の裁判で負けたら首だと言い渡される。
ところが彼女のところにやって来たのは、三度も人を噛んだというオス犬コスモスの弁護だ。
断っているというのに、視聴覚障害のある飼い主のダリウシュはしつこく、彼女がやるというまで諦めない。
仕方なく弁護を引き受けるが、本来なら犬は物として見なされる。
しかし、犬は「物」ではないというアヴリルの主張が認められ、とうとう勝つ見込みのない犬が被告の裁判で戦う羽目になる。
有罪なら、飼い主への罰金1万フランとコスモスの安楽死が確定する。

コスモスの被害にあった女性はポルトガルからの移民である家政婦。
コスモスが餌を食べている時に彼に触ってしまい、顔を噛みつかれ、大きな傷を負ってしまった。
どうもコスモスは食べている時に邪魔されると、噛みつくようだ。
それだけではなく、裁判が進むうちに、コスモスは女性だけを噛むことがわかる。
犬の権利から安楽死問題、障害者の差別問題、移民問題、性差別問題・・・まで広がり、裁判はカオス状態に突入していく。

さて、結末は・・・。

ホント、予告編だけではわからないものですね。
後からわかったのですが、この映画は法廷コメディだそうです。
フランスのコメディはとんでもないものだとわかっていたので、前もってわかっていたら、見なかったかも。
でも、わんこが出るので、見たかも。(どっち?)

スイスが舞台で実話に基づいていると言いますが、いつのお話なんでしょうね。
ほぼ裁判は怒鳴りあいで、耳栓が必要でした(嘘)。
つくづく日本語って静かな言語だなぁと思いました。
自分の主張したいことを相手が聞いていようがなかろうが、とにかく主張するのです。論点がずれようが、お構いなしです。
まさかフランスやスイスでは実際の裁判もこうなのか。
いろいろと考えさせられることはあったのですが、言葉のやり取りがすご過ぎて、飛んじゃいましたww。
被害者側の弁護士の女性(ポスターの右端の女性)が怖かった。
つくづく人間って醜い生き物だなぁと思いました。

犬の裁判の他に上司のセクハラまがいの言動や市長選挙がらみのこと、隣の家庭のDV、必要のないセクシー場面…と盛り沢山で、ちょっとまとまりに欠けていた感じがあります。

コディくんは達者な演技でした。


でもねぇ、人に向かって唸ったり、吠えたりしている怖い顔が映っているし、特に森の中でアヴリルとコスモスが争うシーンがとても嫌で、私は見たくなかったです。
気をつけて観て下さいね。
そうそう、犬の食事中に触っちゃいけないことは当たり前のことだと思ったのですが、そうでもないのでしょうか。
みなさん、食べている時は絶対に犬に触らないで下さい。
うちの兄犬は唸りました。この頃は取られないことがわかったのか、唸らなくなりましたけど。
そういえば映画の中に、フィンランドにある男性二人が経営する凶暴な犬を保護する施設が出てきましたが、本当にあるのでしょうか。

映画館はほぼ満席で、笑い声が起こる映画ですが、人を選ぶと思います。
私は特に見なくてもよかったなと思いましたが、好き好きなので、フランスのコメディが大丈夫という方は見てもいいでしょう。
映画としては、「落下の解剖学」の方が断然面白いので、オススメです。

「秋が来るとき」を観る2025/06/02

原題「Quand vient l'automne」。
老女二人の穏やかな生活を描いた映画だと思って見に行ったら、とんでもない。
ミステリ色の強い映画でした。


80歳のミシェルはブルゴーニュの田舎で一人暮らしをしている。
パリにいる娘のヴァレリーと最愛の孫のルカが秋の休暇でやって来るという時に、親友のマリー=クロードに誘われ、キノコ狩りに行く。

やって来たヴァレリーは機嫌が悪い。夫と離婚寸前だという。
食事の時に、パリのアパルトマンをやったというのに、田舎の家も自分にくれと言い出す。
採ったキノコを炒めて出したが、ルカはキノコが嫌いと言って食べず、ミシェルも食欲をなくし、食べなかった。

ルカと森に散歩に行って、家に戻ると、救急車が来ていた。
気分が悪くなったヴァレリーが救急に電話をした後に気を失ったという。
どうもミシェルが採ったキノコが原因らしい。
ヴァレリーはここにいると殺されると、一泊もせずにルカを連れて帰っていく。
ルカと一緒に休暇が過ごせるはずだったのに、自分のせいで・・・と悔やむミシェル。

マリー=クロードの息子のヴァンサンは刑務所から出所し、マリー=クロードの家で暮らし始める。
ミシェルは彼に家の仕事を頼み、バーを開く資金を出してやる。
ヴァンサンはミシェルがルカと会えないことを嘆いているのを知り、パリに行く。

ヴァンサンがパリに行った日、ヴァレリーがアパルトマンから転落死したという連絡が来る。
事故なのか、自殺なのか・・・。

ルカは父親のいる中東には行かず、ミシェルと暮らすことを選ぶ。
やがてマリー=クロードは病気が悪化して亡くなる。
ミシェルは亡くなる前に彼女からある秘密を聞かされる。

ヴァレリーは仕事も、結婚も、何もかも上手くいかないことを母親のミシェルのせいにしています。
ミシェルの過去が明らかになった時に、ヴァレリーのミシェルに対するとげとげしい態度がうなずけました。
しかし、人生が上手くいかないのはミシェルのせいではないし、自分でどうにかしていくしかないのです。
マリー=クロードの方も子育てに失敗したと言っていますが、それでもヴァンサンは母にも、母の親友のミシェルにも優しいです。
娘と息子の違いでしょうか。
いつまでも結婚しないヴァンサンはひょっとしてミシェルのことが好きなのかしらと思ったりww。

一番の被害者は孫のルカです。
父と母は仲が悪く、離婚寸前で、大好きな祖母ともなかなか会えません。
ミシェルと暮らし始めると、学校でイジメられます。
そこにミシェルに相談されたヴァンサンが登場し、上手くおさめてくれます。
他人ではありますが、家族のような関係が築かれているんですね。
ルカ君がハンサムで眼福でしたww。
大学生になった姿もすごく似ていて、すぐにわかりました。

ネタバレしないように書いていますので、隠された秘密は映画を観て確かめて下さい。
森の景色がよく、ブルゴーニュのような田舎に住みたくなりました。


「最高の花婿 ファイナル」を観る2025/05/26

「最高の花婿」、「最高の花婿 アンコール」に続く、「最高の花婿 ファイナル」です。
2021年に作られたようですが、日本ではいつ上映されたのでしょうか。


フランスのシノンに住むクロードとマリーのヴェルヌイユ夫妻には4人の娘がいて、それぞれ異人種の夫がいます。


左側からご紹介しましょう。
中国出身で銀行員のチャオ・リンは三女で画家のセゴレーヌの夫。
イスラエル出身のユダヤ人、ダヴィッド・ヴェニシュは次女で歯科医のジュリアの夫。前は無職だったけど、今、何をしているのか?
コートジボワール出身で舞台俳優のシャルル・コフィは四女で、テレビ局の法務部に勤務しているロールの夫。
アルジェリア出身のアラブ人弁護士ラシッド・ベナセムは長女で弁護士のイザベルの夫。
この四人、仲がいいかというと、それほどではないです。
ダヴィッドとラシッドのくだらない争いには笑えますww。
喧嘩をするほど仲がいいということでしょうか。

クロードは待望の詩人の伝記を書き上げますが、まったく売れず、自分で千冊買う始末。それでも諦めず、また書こうとしています。
娘家族の移住計画を阻止して満足しているはずなのに、一緒の町に住んでいる婿たちとの付き合いを避けようとしています。
一体何のために同じ町に住んでいるのやら。

ある日、三女エゴレーヌが個展を開きます。
もちろんヴェルヌイユ夫妻も他の娘家族たちも個展の初日のパーティーに行きます。
見ると気分が悪くなる、キモイ(ごめんww)絵なのに、ドイツの富豪で有名なコレクターのヘルムートがエゴレーヌの絵を気に入り、NYの画廊で個展をやらないかと言い出します。
エゴレーヌは天にも昇る心地ですが、夫のチャオはヘルムートが妻に個人的に興味があるのではないかとヤキモキします。離婚寸前か・・・。
しかし、ヘルムートの真の目的は違うところにありました。

そんな時にシャルルの両親から電話が来ます。
クロードはコートジボワールからの電話に出ようとはしないのに、気のいいマリーが出てしまい、シャルルの両親がまたフランスにやって来て、クロードの家に居候することになります。

今年、クロードとマリー夫妻は結婚40周年を迎えます。
そのため娘たちはお祝いのサプライズパーティーを開くことにし、夫の両親も呼びます。
夫の両親の間にも色々とあり、なんとか全員が来ることにはなりますが。
はたしてサプライズパーティーは無事に開かれるのか・・・。

クロードは相変わらずの偏屈ぶりで、笑わせてくれます。
近所の肉屋に老けたと言われてショックを受けるマリーは可愛い女性です。
娘婿たちの親は、クロードと互角か、いいえ、それ以上に強烈な個性の方々で、どんな感じかは映画を観て確かめてください。
私はチャオのお母さんが好きです。
色々と笑えるところが満載ですが、気になるところがあっても、あまり深刻に考えず、笑ってすましましょうね。
それがこの映画の楽しみ方です。

「シスター探偵ボニファス」を観る2025/05/19

「ブラウン神父」シリーズのスピンオフ版の「シスター探偵ボニファス」を大分前に観て書くのを忘れていたので、「獣医ヤコブズの事件簿」を書くついでに書いておきます。
シスター・ボニファスは「ブラウン神父」の原作の小説には登場しません。
ドラマ「ブラウン神父」シリーズでは、シーズン1のエピソード6「The Bride of Christ(キリストの花嫁)」に登場しているというのですが、私の記憶にはありません(恥)。


1960年代初頭のお話で、舞台はコッツウォルズにあるグレートスローターという架空の村です。
さて、登場人物たちの紹介をしましょう。

シスター・ボニファスは、セント・ヴィンセント修道院の修道女で、なんとIQが 156もあります。
オックスフォード大学で化学か法医学・微生物系を専門に学んだらしく、博士号を持っています。
高度な科学知識を持つ法医学の専門家として警察の顧問をしています。
M15(英国情報局保安部)からの誘いがあったらしいのですが、断って修道女になったという異色の女性です。
現場にペスパ(スクーター)で現れたりと、奇抜な行動を取りがちで、コミカルな姿が見られますが、殺人現場では常に冷静で、小さな証拠や不審な点を見逃しません。
それでいながら人間に対する理解力や共感力が優れているのが、彼女の魅力のひとつになっています。
可愛らしい声で早口なのが特徴です。彼女の作るワインは美味しいのかな?
修道院は彼女が警察の仕事をするのを問題にしていないみたいです。
実際にはあり得ない話ですが、ドラマですから。

写真でシスター・ボニファスの右側にいる男性は元陸軍将校のサム・ギレスピー警部補です。
初めはシスター・ボニファスの科学捜査に懐疑的だったのですが、だんだんと彼女に信頼を寄せるようになります。
堅物で、いつもシスター・ボニファスに翻弄されている感じで、女性に弱いのかしらww。

左側の男性はバミューダ警察から出向しているフェリックス・リビングストン巡査部長です。
彼はロンドンで勤務のはずが、何の手違いかグレートスローターに勤務することになってしまったという不運な方です。
そのうちロンドンに行けるはずと思っていたのですが、シスター・ボニファスの魅力と能力に感銘を受け、グレートスローターでもいいかと思い始めたようです。
ちょっとエリートの出来る奴感があるのが玉に瑕。

ギレスピー警部補の隣にいる、1960年代には珍しい女性警察官は、肉屋の娘でもあるペギー・ボタンです。
真面目な勤務態度で好感が持てます。
彼女はもしシリーズが続けば、だんだんと存在感を増していきそうです。

そしてリビングストン巡査部長の隣にいる女性は新聞記者のルース・ペニーです。
とても野心的な女性で、事件が起こるとギレスピーたちの周りを嗅ぎまわり、警察を出し抜こうとします。
ギレスピーは彼女のことが気になるようですが、どうなるのかな。

この他にギレスピーとリビングストンの下宿の大家で不味い料理を作るクラム夫人や修道院の方々が毎回登場します。

シーズン1だけで終わるのかと思っていたら、なんと昨年にシーズン3とクリスマススペシャルが放送され、シーズン4も撮っているようです。
「なんでシスターが・・・」とか、あまり考えずに、観るといいでしょう。
全体的に明るいトーンで、登場人物たちもいい人ばかり。
それなのに、事件がよく起こりますが、ドラマですからwww。
なおPrime Videoではシーズン1しか観られませんので。

「獣医ヤコブスの事件簿」を観る2025/05/18

Prime Videoでは「ボッシュ:受け継がれるもの」のシーズン3が観られるようになっていますが、楽しみに取っておき、わんこが可愛い「獣医ヤコブスの事件簿」の方を見てみました。

「獣医ヤコブスの事件簿」シーズン1エピソード1~3


2014年から現在まで続いているドイツの大人気クライムドラマシリーズだそうです。期待以上に面白かったです。
Prime Videoではエピソード1~3しか観られないのが残念。
続きはシネフィルWOWOWプラスで観られるみたいです。

かつてハンブルグで警察官をしていたハウケ・ヤコブスは獣医として新しい人生を始めるために、海沿いの村シュヴァニッツにやって来る。
古い船を買って住み、地元の獣医が亡くなったので、動物病院を引き継ぎ、そこで働いていた助手のユーレ・クリスティアンゼンを雇った。
ヤコブスは人間嫌いというが、どうも訳ありで、身を隠すためにシュヴァニッツに来たようだ。

<エピソード1 ヨウムの証言>
ヤコブスは村に来た早々、警察に追われていた暴走車が海に飛び込むのを目撃する。車に乗っていたのは、偶然にも村の獣医で、現場に居合わせた警察官のローナ・フォークトに、死んだ獣医の動物病院を引き継いではどうかと言われる。
翌日、海辺を散歩している時に、漂着した船を見つける。浜辺には足跡が残されていた。好奇心から船の中に入ると、男が2人、死んでいた。
ヤコブスの身元を調べ、元警官だと知ったローナはヤコブスを事件に巻き込む。

<エピソード2 7年目のバイキングの呪い>
シュヴァニッツでは7年に一度、2月24日と25日の二日間にバイキングのヴィルデ・スヴェンが村人たちを呪い殺すと言う伝説がある。
7年前に命を落としたのはローナの親友のメラニーで、事故死と言われているが、ローナは疑問視していた。
今年も犠牲者が出る。犠牲者は自宅のベッドの上で亡くなっていたにもかかわらず溺死で、メラニーが事故死した時に現場に居合わせていた人物だった。
ローナは足を挫いたことを理由にして、ヤコブスに二日間だけ警官に戻ってくれと頼み、一緒に捜査を始める。

<エピソード3 愛犬ホリー撃たれる>
ある日の朝、ローナの父のレイマー・フォークトが入居している施設で銃声が聞こえた。ヤコブスが急いで行ってみると、一人の男が倒れていた。彼はヤコブスに紙にくるまれた金属片を託して亡くなる。
ヤコブスがローナに金属片を渡し、船に戻ると、何者かが家探しをした形跡があり、見知らぬ男に銃を向けられる。
一方、ローナは父親が家を売るらしいと聞き、実家に行き、一丁の銃と四冊のパスポートを見つける。パスポートの写真は父なのに名前が違っている。
施設で起こった殺人事件で使われていた銃が、諜報機関の人間が以前起こした事件で使われていたことがわかり、ローナは自分の父親の過去に疑惑を持つ。


ヤコブスの飼っている大きなわんこの犬種はなんなんでしょうね。


ワイマラナーかしら?名前がホリーなので、メスなんですか。
麻薬犬みたいに教えられた臭いがあるところにちゃんとお座りして知らせます。
とても頭のいい仔です。
他にもヨウムやプードル、牛、馬、カメ、アライグマなどの動物が出てきます。
ヨウムやカメ、アライグマは狭い場所で飼われていたので、ヤコブスが引き取ります。
牛は餌を食べなくなり、馬は厩舎から出なくなったので往診して診ます。
一番可哀想だったのが、プードルとアライグマ。
プードルは子供がいたずらで刺した釘がいっぱい刺さったソーセージを食べてしまい、開腹手術をします。
頭にきたヤコブスは飼い主に死んだと嘘をつき、プードルを助けます。
アライグマは育てられないからと少年に託されたのに、不慮の事故で亡くなってしまいます。
アライグマに会いに来た少年に本当のことが言えず、嘘をつくヤコブスですが、こういう嘘はついても許せますね。

動物愛が強い助手のユーレは赤毛の可愛い女性で、初めからヤコブスのことが気に入ったみたいで、一生懸命ヤコブスに粉をかけていますが、報われるのかなぁ?

警察官のローナは優秀みたいですが、小さな町だからか、警察官がローナ、一人しかいないです。そのためいつも一人で行動しています。危ないですねぇ。
ドイツってこんな感じなんですかね。
何か起こると、他の町から応援が来ますが、もう一人いた方がいいと思いますけどね。
それにしても検察医は何をしているのだか、いつもいません。
そのため獣医だというのにヤコブスが呼ばれ、結局は捜査協力してしまいます。
ローナにとっては渡りに船ですね。

ちょっとコミカルなところもあるドラマですが、事件は「刑事ヴァランダー」などで扱われていたものと同じくシリアスなものです。
気になったのが、ヤコブスがいつ獣医の資格を取ったのかです。
シーズンが進むごとに、ヤコブスの過去が明らかになっていくと思うので、そのうちにわかるのでしょうね、たぶん。
続きを見たいけれど、Prime Videoで観られるようになるまで待ちますわ。

「リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界」を観る2025/05/14



原題は「Lee」。
実在したリー・ミラーの主に1937年から1945年までを描いた映画です。
リーの一生を簡単に紹介します。

リー・ミラーは本名エリザベス・ミラー。
1907年、アメリカのニューヨーク州キポキプシー生まれのファッションモデル、写真家、戦争特派員で、芸術写真と戦争報道の両方で重要な足跡を残した。

中産階級の家庭で育ち、父親のセオドア・ミラーはアマチュアの写真家でエンジニア。娘のリーをモデルにして撮影をし、ティーンネイジャーになるまで娘のヌード写真を撮っていたという。娘を溺愛しており、リーにはファーザーコンプレックスがあったようだ。彼はリーに写真技術の基礎を教えた。
映画でも触れられているが、七歳の時に知り合いの家で性的虐待にあって、性病に感染したという。
この事が後の彼女に深い影響を及ぼしたのは明らかだ。

十九歳の時にニューヨークで交通事故に遭いそうになったときに、偶然(?)ヴォーグ誌の編集者のコンデ・ナストに助けられ、これが縁でモデルとなり活躍する。
しかし、彼女の写真が生理用品の広告に使用されたことからモデル業を辞めざるえなくなる。

1929年に単身パリに渡り、マン・レイに弟子入りし、やがて男女の関係になり、彼のミューズとなる。
この時にパブロ・ピカソやジャン・コクトーなどと知り合う。
三年ほど関係は続くが、マン・レイと別れた後、1934年にエジプト人の大富豪、アジス・エルイ・ベイと結婚し、カイロに行く。
1937年、イギリスのシュールレアリストで画商のローランド・ペンローズと出会い、1939年、イギリスへ渡り、ロンドンでペンローズと暮らす。
1940年からイギリス版ヴォーグでカメラマンとして活躍する。

1942年、リーはヴォーグ誌の従軍記者として、ライフ誌のカメラマン、デイブ・シャーマンと組み、ヨーロッパ大陸に渡り、連合軍と共にヨーロッパ各地の前線に赴く。ノルマンディー上陸作戦、パリ解放、ダッハウ強制収容所の解放など激動の現場を記録していく。
この時に写したダッハウ強制収容所の写真やヒトラーの自宅の浴槽で写した写真が有名である。


戦後もミラーはヨーロッパにとどまり、戦後の様子も写真に収める。
1947年にエルイ・ベイと正式に離婚し、ペンローズと結婚し、9月に息子のアントニーを産む。
1949年にサセックスのファーリー・ファームに居を構える。
1950年代にはヴォーグから離れ、写真家としての活動をほぼ止める。
リーは心的外傷後ストレス障害、うつ病、アルコール依存などの問題を抱えるようになっていた。
リーは写真の代わりに料理の世界に創造性を注ぐようになる。
フランス料理に通じ、独自のレシピを持ち、自宅に来たピカソやマックス・エルンストなどの芸術家や知識人の訪問客に実践的な料理を振る舞った。
「料理こそが自分の”サルベージ(救済)”だった」と語っていたそうだ。
1977年、イギリスのチディングリで逝去。

息子のアンソニーは母が育児に関心がないように見え、甘えようとしても冷たく扱われ、母を恐れていたという。
リーの死後、彼は実家の屋根裏で未整理のネガ、手紙、戦争写真、日記などを見つけ、母の戦争での壮絶な経験や隠された苦悩を知ることになる。
それからのアンソニーは母の人生と作品を世に広める活動をしている。
現在もイギリス・サセックスのファーリー・ファーム(Farleys House & Gallery)
を拠点に、リー・ミラーのアーカイブを管理し、展覧会や書籍を通じてリーの業績を伝えている。

アンソニーは伝記『The Lives of Lee Miller(リー・ミラー:自分を愛したヴィーナス)』を書いている。
彼はこの映画の制作に協力し、リーの複雑な人物像を描くことに貢献し、「母の人生を通して、ようやく本当の母を知った」と語っている。


初日に見に行ったのではないのですが、入場者プレゼントのステッカーをもらいました。
リーはこのローライフレックスの二眼レフカメラでダッハウ強制収容所や戦場の惨状を収めたようです。

主演のケイト・ウィンスレットが映画の制作総指揮をした、渾身の出来の映画です。
リー・ミラーという女性が戦場に行き、自ら傷つきながらも、何故、撮らずにいられなかったかを描いた映画です。
目をそらしたくなるような場面が多々ありますが、それが戦争なのです。

ポール・エリュアールの詩「自由(Liberté)」がでてきます。
昔、読んだ、好きな詩です。
ネットで探すと出てきますので、読んでみて下さい。

参考:

「教皇選挙」を観る2025/05/09

もともと観ようと思っていたら、タイムリーに本物のローマ教皇がお亡くなりになりました。ご冥福をお祈りいたします。
コンクラーベは無事に終わり、四回目で新しくアメリカ出身のプレボスト枢機卿が選ばれ、レオ14世と名乗るそうです。

映画館は珍しく満席でした。
原作はロバート・ハリスの『Conclabe』で、原題も同じです。
今回の日本語のタイトルはわかりやすくていいんじゃないでしょうか。


教皇が心臓発作で急逝する。
彼と親しかったローレンス枢機卿は次の教皇を選ぶ「コンクラーベ」を執り仕切ることになる。

「コンクラーベ」のために世界中からバチカンに枢機卿と修道女たちが集まる。

初めから予期せぬことが起こる。
前教皇から秘密裏に枢機卿に任命されたというカブール教区のベニテス枢機卿が やって来たのだ。
そして隔離寸前に、亡くなる直前に教皇に会っていた次期教皇候補であるトランブレ枢機卿が破門されていたという情報がもたらされる。本当なのか。

コンクラーベが始まる。
昔ながらの価値観を持つ教会に戻るべきだという保守派とリベラルで革新派の戦いだ。

ローレンスは親友でもある革新派のベリーニ枢機卿を推しているが、なかなか彼に票は集まらない。
彼が警戒しているのは、イタリア人で保守派、人種差別主義者のテデスコ枢機卿だ。

次々と教皇候補たちのスキャンダルが明らかになり、ローレンスは頭を悩ませる。

一体誰が選ばれるのか・・・。


「コンクラーベ」は新しい教皇の死去または辞任の後に行われる教皇選挙のことです。80歳未満の枢機卿が選挙権を持っていて、彼らは投票者でも候補者でもあります。
候補者の定員は120名以内と言われていますが、今回は133人が参加したので、定員の上限は決まっていないみたいです。
投票総数の三分の二以上の有効得票数を得る人物が選出されるまで繰り返されるそうです。

男ばかりの映画でしたが、赤や白の色が印象的で、コンクラーベの舞台である建物が荘厳だったので、あまり気になりませんでした。(広場に広がる白い傘の場面がきれいでした)
それよりも修道女たちが枢機卿たちの面倒をみていた方が気になりました。
女が枢機卿になれないのなら、修道士たちがやればいいんじゃないの。
スマホとかタバコとか扱う姿が、現世に生きている私たちと同じなんです。
禁欲の誓いはどうなっているのかな。
枢機卿とは言え人間ですから、色々な欲があるんですね。
今回の選挙でも私たちには窺い知れない様々な取り引きや争いがあったのでしょうね。
プレボスト枢機卿は教皇になったら「レオ」にしようと決めていたのねw。
アジア人の教皇が選出されるのはいつなのかしら。

思っていたよりも面白い映画でした。
「コンクラーベ」に興味があるなら、見に行っても損はない映画です。

そういえば、シスター・アグネスがイザベラ・ロッセリーニだとはわかりませんでした。
教皇を描いた映画に『2人のローマ教皇』というのがあります。
ほのぼの(?)とする映画なので、いっしょに見てみてもいいかも。

「プロスペローの本」を観る2025/05/01



原題:「PROSPERO'S BOOKS」

1991年イギリス・フランス・イタリア映画 126分

脚本・監督:ピーター・グリーナウェイ

原作:ウィリアム・シェイクスピア『テンペスト』

撮影:サッシャ・ヴィエルニ

美術:ベン・ヴァン・オズ、ヤン・ロールフス

音楽:マイケル・ナイマン

編集:マリナ・ボドビル

衣裳:ワダエミ


出演:

ジョン・ギールグッド(ミラノ大公プロスペロー)

マイケル・クラーク(妖精キャリバン)

ミシェル・ブラン(ナポリ王アロンゾ―)

エルランド・ヨセフソン(ナポリ王の忠臣ゴンザーロー)

イザベル・パスコー(プロスペローの娘ミランダ)

トム・ベル(プロスペローの弟アントーニオ)

ケネス・クラナム(セバスチャン)

マーク・ライランス(ファーディナンド)


かつてミラノ大公だったプロスペローは12年前にナポリ王アロンゾーと共謀した弟のアントーニオに国を追放され、娘のミランダと絶海の孤島に漂着する。

プロスペローは友人のゴンザーローから譲り受けた24冊の魔法の本を読み、強大な魔法の力を持つようになり、孤島に小イタリア王国を築き上げる。


ある日、プロスペローは島の怪物キャリバンや妖精エアリエルを使い、「テンペスト」という壮大な復讐劇を書くことを思い立つ。


久しぶりにピーター・グリーナウェイの世界に浸ろうと思い、映画館に足を運びました。

シェイクスピアの『テンペスト』が原作で、音楽がマイケル・ナイマンなんて、ワクワクしませんか。

これでもかというように、色彩と音楽がスクリーンから溢れてきます。

出てくるのは全裸や半裸の妖精たちで、人間は主人公のプロスペローと娘のミランダ、そして嵐で島に流されてきた者のみ。

次々とプロスペローが読んできた本、「水の本」、「神話の本」、「幾何学の本」・・・などが話の流れと共に開かれていきます。


プロスペローを演じるのは、シェイクスピア俳優のジョン・ギールグッド。

物語はすべて彼の台詞のみ。

これぞシェイクスピア俳優という台詞まわしです。

もう見られませんが、彼の舞台を一度見てみたかったです。


とにかく映像美に圧倒されます。

美しい絵画が永遠に続いていくという感じで、そこにナイマンの音楽が組み合わさると、豪華絢爛。しかし、少しバランスが崩れると醜悪になるというギリギリの線です。

好き嫌いが分かれる映画でしょう。


ピーター・グリーナウェイの映画をみてみようと思った方は、下の予告篇を見てみて下さい。嫌悪感がわかなかったら、大丈夫でしょう(たぶん)。


「ピーター・グリーナウェイ レトロスペクティブ 美を患った美術師」日本版オリジナル予告篇


岩井圭也 『人生賭博 横浜ネイバーズ4』2025/04/20

横浜ネイバーズ・シリーズの四作目。


「1.名前のない恋人」
春節期間に入った頃、ロンはマツがギャンブルや柔術を止め、就職をしようとしていることを知る。おかしいと思いマツを問い詰めると、マツはアプリで出会ったシオンという彼女の借金を肩替わりしようとしていた。ロンはマツに言わずにシオンの身元を探る。

「2.人生賭博」
マツの人生の恩人で柔術道場の先輩の上林寛之ことカンさんが自殺未遂を起こす。競馬関連の詐欺に遭い、六百万取られ、借金を返せず、行き詰まったらしい。
マツはロンに協力を求め、カンさんを陥れたキシという男を探すことにする。

「3.ブルーボーイの憂鬱」
ロンはある事件で出会った予備校の数学講師のピロ吉から、小学五年の<ギフテッド>、久間蒼太に対人コミュニケーションを経験させてもらえないかと頼まれる。
興味を持ったロンは彼と会ってみると、彼は自分はハッカーだと言い出す。ハッカーにはホワイトハットハッカーとブラックハットハッカーがいて、彼がどちら側のハッカーか当ててみろとクイズを出される。ヒナに彼のことを話し、ロンは答えを得るが、当たっているのか?

「4.排除する者(エリミネーター)」
ロンは大月薫弁護士から<大八リアルティ株式会社>がディープフェイクを使った詐欺被害に遭ったことを聞かされ、プログラミングに詳しい幼馴染みを紹介してくれと言われ、断るが、ロンはある子を思い出していた。彼は最初は断るが、ヒナから説得してもらい、彼に協力してもらい調査を始める。

今回のキーワードは、マッチングアプリ、サブリース契約、競馬詐欺、ギフテッド、ハッカーの種類、ディープフェイクなどです。
色々な詐欺事件があって、もうついていけません。
とにかく被害者にならないように、注意していかなければなりませんね。
今はよくても、もっと年を取ってわけがわからなくなったら、どうしましょうね。

ヒナは横浜国立大学理工学部に、涼花は横浜市立大学の看護学科に合格します。
マツにも何かありそうです。
友だちが次々と自分の進む道を選んでいくのを見て、ロンも焦ってきたようです。
大学に入学したヒナも新しい出会いがあるでしょう。
ウカウカしていられないロンですね。

だいたいの登場人物たちの過去が明らかになってきたので、残るは欽ちゃん。
彼にどんなお話があるのか、楽しみですね。

<漫画の新刊>
私の好きなホテルの紹介漫画、『おひとりさまホテル』の六巻目が出ました。
京都の「丸福樓」に泊まってみたいです。
『本なら売るほど』の二巻目も発売されました。十月堂の店長さんだけではなく、特別な一冊を求めてやって来るお客さんも変わってますわww。

本には関係ないですが、この頃、YouTube で見ているのが、 「Kevin's English Room」です。大学の同級生三人がやっています。
Kevinはアメリカ育ちの日本人で、「牛肉じゃなければハンバーガーじゃない」とか、彼のアメリカンなこだわりが面白いです。
いろいろなことをやっていますが、「英語の看板シリーズ」とか「ケビンの知らない日本語を探せ」、「CMでよく聞く『アサヒスーパードライ』をカッコ良く発音したい!」など笑ってしまいますので、電車の中では見ないように。
彼らは大学でアカペラサークル出身なので、歌もうまいです。
英語で歌った歌がありますが、お勧めは日英仏三か国語で歌う『水平線』と『3月9日』です。フランス語はネイティブではない、フランス留学経験者のやまちゃんが歌っていますが、いいんですよ。
楽しくアメリカの文化や英語が学べます。

「ゲッベルス ヒトラーをプロデュースした男」を観る2025/04/16

ドイツ語のタイトルが「Führer und Verführer」。
日本語にすると「総統と扇動者」で、ヒトラーとゲッベルスの二人を意味しているようです。


ヨーゼフ・ゲッベルスは1897年にドイツ帝国プロイセン王国ライン州の小都市ライトで生まれる。
貧しいが敬虔なカトリック教徒の中流階級の家の三男で、母は元オランダ人。
4歳の時に小児麻痺を患い、右足は生涯、整形用の靴を履かなければならず、友だちと遊べなかった。そのため部屋に閉じこもり、読書ばかりしていた。
成績は優秀でギムナジウムに通ったが、同級生や教師には嫌われていた。
1917年にギムナジウムを卒業してからボン大学を皮切りに、フライブルク大学やミュンヘン大学などに籍を置き、1921年にハイデルベルク大学で国文学博士号を取得する。
大学在学中にカトリックへの信仰心は薄れたが、反ユダヤ主義的傾向は少なかった。
大学卒業後、職がなく、ライトの家に戻り、銀行で仕事を得るが、不況で解雇され、反資本主義や反ユダヤ主義の思想が芽生えていく。
1924年、友人に誘われて、社会主義者や国会社会主義者の政治集会に参加し、演説をするようになる。
国会社会主義ドイツ労働党(ナチ党)のカール・カウフマンと親密になる。
1925年2月に仮入党し、3月、「ラインラント北部大管区」を設立させ、役員になる。11月、初めてヒトラーと面会し、彼に魅了される。
1926年、ヒトラーからナチ党のベルリン大管区指導者に任命される。
1928年、ナチ党は敗れたが、ゲッベルスは国会議員に当選する。
1932年、ナチ党が第一党になり、1933年にヒトラー内閣が成立し、ゲッベルスは宣伝大臣になる。

映画はゲッベルスが宣伝大臣になった頃から家族と無理心中するまでを描いています。

ゲッベルスは好色な人らしく、1931年にマクダと結婚していますが、次々と愛人がいたようです。(妻もアレですから、同情できません)
1938年にチェコ出身の女優と本気になり、マクダと離婚しようとしますが、模範的ドイツ人家庭としてプロパガンダに利用できなくなるので、ヒトラーに止められ、愛人と別れます。
妻との間は当然冷えきりますが、6人も子どもがいるのはどうしてでしょうww。

ヒトラーがユダヤ人の一掃と侵略戦争に舵を取ろうとするのに、ゲッベルスは反対していたようです。
しかし、浮気も止められ、やることがなくなったからか(嘘)、仕事に没頭していきます。
言語弾圧、文化統制、反ユダヤ主義を強行し、ドイツ人の忠誠心と協力を得るための大規模なプロパガンダキャンペーンを画策していきます。
戦争が始まってからしばらくは冷遇されますが、終末期にドイツ軍が劣勢になるにつれ、引きこもるヒトラーの代わりに精力的に働き続けます。
1945年4月29日にヒトラーは「遺言」で彼を首相に任命しますが、ヒトラーが自殺した翌日、彼の跡を追い、妻子と共に自殺します。

映画には実際の記録フィルムや写真等が所々に挿入されているので、それだけでも見がいがありました。(残酷な場面がありますので、気をつけて見て下さい)
記録フィルムの中に登場するゲッベルスに比べて映画のゲッベルスは女にだらしない、ヒトラーの顔色ばかり見る小者にしか見えませんでした。
外見があまり本物のゲッベルスと似ていませんし、ゲッベルスが何を考え、行動していたのか、彼の内面が描かれていないのが残念です。
後半に多く現れる実際の演説の場面を見ると、ドイツ語は演説に向いた言語と言われているのが納得できます。
演説を聞いていると気持ちがよくなり、私は不覚にも寝落ちしそうになりましたけどww。

今の時代、大量の情報をきちんと取捨選択していかないとダメなのはわかっていますが、多過ぎて大変です。
マスゴミに騙されないようにしないと、ヒトラーの時代のようなことになってしまいかねませんよね。

残された映像やラストに出てくる二人のサバイバーのお話が胸を打つ映画です。