原田ひ香 『財布は踊る』2022/08/27

六話の連載短編集。


私、今回のような若い人たちの貧乏話は苦手です。
途中で読むのを止めようかと思いましたが、明るい最後になるらしいので、頑張って読みました。
原田さんの本の中で初めて読み終わってもすっきりしない、嫌~な気分になりました。
表紙の絵に騙されてはいけません。決して明るいお話ではないです。

第一話:財布は疑う
主婦の葉月みづほは善財夏実が書くコラムに感化され、ヴィトンの財布が欲しくなった。
夫からは給料日に五万円もらい、そこから食費や日用品代を出し、爪に火をともすような生活を続け、なんとか月に二万円ずつ貯めていた。
今五十六万円貯まり、六十万超えれば、夫に告白し、ハワイ旅行を提案しようと思っていた。

なんとかお金も貯まり、ハワイに行って来たのだが、何かおかしいことに気づいた。
ハワイで色々とお金を使ったのに、夫はちゃんと払っている。毎月三万を払っているからいいと言うのだ。
まさか…。

第二話:財布は騙る
水野文夫はFXの情報商材のセールスをしているが、それだけでは暮らしていけないので、バイトもしている。
ある日、中学校時代の同級生、野田裕一郎とばったり会う。彼はFXに興味があるから教えてくれと言ってくる。
立ち飲み屋で会い、説明し、契約という段階になり、トイレに行き戻ると、野田がいない。
自分のカバンの中に入っていたヴィトンの長財布もなくなっていた。
財布の中には客から受け取った三十八万が入っていたのだ…。

第三話:財布は盗む
野田裕一郎は会社の寮に住み、食費など必要経費以外は銀行口座に残して貯めていた。男性誌のマネー特集で「投資信託」を読んでから株式投資に夢中になった。
初めは上手く行っていたのだが、テレビで株式投資の風雲児、アラシ池田を見て、彼のツイッターをフォローし、彼がつぶやく銘柄を次々と買うようにしたのが運の尽き…。

第四話:財布は悩む
蛇川茉美は「善財夏実」という名で風水をもとにした財布の話の本を書き、そこそこに売れた。その時にDMを寄越した保坂と知り合い、それ以来彼の情報誌に原稿を書いている。しかし今回保坂から内容に関するダメ出しが出る。

第五話:財布は学ぶ
アラサーの平原麻衣子は新宿の観光案内所の案内員で契約社員。
友人の斉田彩は新宿のカラオケボックスの正社員。
二人は常にお金がない。というのも、奨学金の返済が毎月三万円もあるからだ。
後三百万は返さないといけない。借金があるなんて、誰にも言えないし、返済するまで結婚もできないと思っている。
ある日、彩がネットで話題になっている「奨学金 裏サイトの館」というHPを麻衣子に見せる。奨学金返済で困っている人に誰も知らないウラワザを教えると言うのだ。
失うものはないと、連絡を入れる二人。すぐに連絡が来て、明日会うことになるが…。

第六話:財布は踊る
女性不動産投資家となった葉月みづほは善財からの取材を受けることにする。
善財は葉月が大家のアパートに隠れ住んでいた野田についての話を聞きたいというのだ。
善財は貧困女性のルポを書いており、次に貧困男子の本を書こうとしていた。
一方、財前に助けられた平原麻衣子と斉田彩は、全く違う人生を歩んでいた。

ヴィトンの長財布の新しい持ち主たちが次々と不幸になっていきます。
財布に罪はないのにね。
身の丈に合わない物を買う時は気をつけた方がいいかもしれませんね。
ブランドに惹かれるのは若さゆえ。おばさんは欲しいとは思わないもの(苦笑)。

リボ払いのことをよく理解できていない人がいることがびっくりでした。
カードって知らない間に使ってしまいますものね。気をつけましょう。
とにかく儲け話は話半分で聞いて、のらない方がいいですよ。
そんなに簡単に儲けられるなら、世の中、金持ちばかりですからね。

アメリカでは1970年頃から学資ローン制度が大きな社会問題になっていると報道されてきましたが、日本もそうなっているんですね。
「奨学金」などと名づけられているから借金だと思わないのかもしれません。
米国では「student loan」のひとつですが、日本では「奨学金」と「教育ローン」に別れています。
「奨学金」は「学生本人に対して学資金をサポートする制度」で「教育ローン」は
「保護者などが金融機関から借り入れるローン」です。
平原麻衣子たちのように毎月12万円の奨学金を貰っていたら、4年間で576万円。毎月三万ずつ返すと、16年かかります。有利子の奨学金だったらそれ以上かかるということです。
22歳前後の手取り平均額が16~17万ですから、その中から3万円の返済は大変そうですね。

是非、若い方が読んで、お金に対する認識を新たにしてもらいたいと思いました。