ボストン・テラン 『音もなく少女は』2010/11/17



この前ホテル・ニューオータニに行った時に買った本です。時間が余りそうだったので、本屋に入って買ったのですが、この本屋、時間がワープした一昔前の感じでした。店員さんは、みな70代かしら・・・?
や~、ホテルの中にこういう店があるなんて思いませんでしたわ。


1950~60年代のアメリカ、ニューヨークの話です。

耳の不自由なイヴは、母クラリッサと父ロメインと暮らしをしていました。父のロメインは男であるというだけでえばるような男。アパートの管理人をして、店子たちには一見いい人に見せかけていますが、陰ではあくどいことをやっていました。家では妻のクラリッサに心理的に、そして肉体的に暴力を振るっていました。
刑務所から出た時には麻薬の売買にも手を出し、自らも麻薬中毒になっていくような、とんでもない男です。

イヴを連れて行った教会でクラリッサは手話を使うフランと出会います。

フランはユダヤ人で、第二次世界大戦中に耳の不自由な男性と交際し、身ごもり、二人で逃げたのですが、捕まり、子宮を取られるという経験をした女性です。
今でもその時の後遺症に悩まされており、痛みを忘れるためにお酒に溺れる毎日です。
叔父から譲り受けたキャンディストアの店主をして暮らしています。

フランの助けを借り、イヴを聾学校に入学させ、教育を受けさせることに成功したクラリッサですが、ロメインとの生活に疲れ、違った生活をしたいと思い始めます。しかし、なかなか踏み切れません。というのも、ロメインの仕返しが怖いからです。
そんなクラリッサをフランが勇気づけます。

こんな生活の中で、イヴは写真を撮ることに救いを見出します。
いつでもどこでもカメラを手離さず、写真を撮ります。
このことが後にイヴの生活を変えることになります。


この本の英語の題名は『Woman』。
底辺にいる女が男に頼らず、どう自分を確立していくのかがテーマのひとつでもあります。

出てくる男どもは本当にどうしようもない奴らばかりです。
自分以下を求める気持ちから、女を女だというだけで虐待する。
相手が男でも、肌の色から差別する。

こういう男たちの中で、女たちの無力さが悲しく、しかし、美しい。

救いようのないほどどうしようもない世界だけれど、人間の中にある善を信じていきたいと思わせられる小説です。