三浦しをん 『舟を編む』2011/11/08



三浦しをんさんの新刊です。
一見地味な装幀ですが、カバーをとると、漫画が・・・。


時代の流れですか、こういう漫画を使った表紙というのは。
読みながら登場人物をイメージする楽しさってあると思うのですが、こういう風に漫画で描かれちゃうと想像できなくてつまりませんわ。

でも、本を開けると、専門用語ではなんていうんでしょうか、題名が書いてあるページがあり、これがいいんです。


今までの本で題名をカラーで描いてあるのって見たことないような気がします。

変った題名なので、一体何の本なのかと思うでしょう。
「辞書は、言葉の海を渡る舟だ」ということで、「海を渡るにふさわしい舟を編む」、玄武書房という出版社の辞書編集部のお話です。

この頃、漢字が危うい時には電子辞書ばかり引いています。紙の辞書は英和辞書以外は引いてません。電子辞書では流し読みをすることができないので、英語の例文を探す時に面倒で困りますから、紙の辞書になるのです。随時三冊ぐらい英和辞書を身近に置いています。
出てくる例文もそれぞれ違い、おもしろいなと思うこともありました。
でも、それ以上は考えたことがありませんでした。

辞書編集に人生をかけている荒木は、最後の大仕事―『大渡海』の編纂―を為し遂げるべく、自分の定年後の後継者探しをします。
白羽の矢が立ったのは、第一営業部の入社三年目の馬締光也。
彼は今時珍しい人です。彼の趣味が「エスカレーターに乗るひとを見ること」。
彼は大学入学から十年間、早雲荘という古い木造二階建ての下宿に住んでいます。住人は大家さんのタケおばあさんと猫のトラさんだけ。本が多いので、下宿人が自分だけだというのをいいことに、一階にある部屋をすべて書庫がわりにしています。そのためタケばあさんは二階に追いやられてしまいました。
彼の彼の食糧はもっぱら「ヌッポロ一番 しょうゆ味」。
これだけ読むと、なんとも不思議な時代錯誤の男だということがわかるでしょう。
この馬締君が辞書編集部に異動してから、辞書編纂にかかげる情熱はすごいものです。

一冊の辞書ができるまで、どれほどの労力がかかっているのか、この本を読むまで考えたことがありませんでした。

聞き覚えのない言葉をさっちすると、すかさず用例採集カードに書き取り、書かれた言葉が既存の辞書に載っているのかどうかチェックし、印を入れていき、後で自分たちの辞書に載せるかどうか判断します。
載せる言葉を吟味した後は、その道の権威に用語の意味を書いてもらい、送られてきた原稿をチェックし、文字数がオーバーしていた場合は修正します。
そして・・・。
まあ、この後も色々とあるんですが、大変な作業なので割愛させていただきます。
詳しくは本を読んでね、ということで。
そうそう、実際の編集者の人のブログで今は用例採集カードなんて使ってないということです。一昔前の辞書編纂のお話なのだそうです。

言葉って何語あるのか、確実に知る方法ってないですよね。
どんどん新しい言葉ができ、使われていない言葉も増えていくし・・・。

辞書編纂は終わりのない仕事です。辞書が完成した時から改訂作業の始まりだなんて。考えるだけでクラクラしちゃいます。

もちろん三浦さんの本ですから、真面目くさったもんじゃありません。
そこはかとないユーモアがきいていますから、読みやすいですよ。
そうそう、【愛】についての語釈、なるほどと思いました。【愛】は異性愛のみではありませんものね。
言葉をもっと大事にしなくちゃと思いました。

最後に、気に入った言葉を載せておきます。

「記憶とは言葉なのだそうです。香りや味や音をきっかけに、古い記憶が呼び起されることがありますが、それはすなわち、曖昧に眠っていたものを言語化するということです」

コメント

_ himawari ― 2011/11/09 15時58分53秒

三浦しをんさんは『まほろ駅前多田便利軒』を読みました。とても惹かれました。
今度番外編を借りようかと思ってます。しをんさんはエッセイもおもしろそうです。
来年引越しされるんですね。わたしは横浜から引っ越してきました。疲れます^^;
前向きでありたいと思う気持が大切なんですよね。

_ coco ― 2011/11/09 20時17分35秒

himawariさん、
三浦さんの本もいくつか読んでブログで紹介しておりますので読んでみてください。
エッセイはとっても爆笑物です。
三浦さんは若い作家の中で期待している作家のひとりです。
私が一番好きなのは、駅伝のことを扱った『風が強く吹いている』かな。

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