宮部みゆき 『孤宿の人』2011/11/17



宮部みゆきの歴史小説です。

江戸の建具商「萬屋」の若旦那の私生児として生まれたほうは、母親がほうを産んだ後に死んでしまったため、金貸しの老夫婦にあずけられます。
躾もされずに育ち、九つになった時に「萬屋」に引き取られたのですが、それから「萬屋」に不幸が続きます。
修験者に加持祈祷をさせてご信託をいただくと、「萬屋」を恨んでいる死者の縁に繋がる者を寺社へ送って拝ませるといいとのこと。
ほうは女中と共に四国の讃岐の金毘羅さまを拝みに旅立ちます。
しかし、丸海湾に着いた時、船酔いで具合の悪いほうを置いて、女中は有り金全部を持っていなくなってしまいました。
ほうは代々藩医を勤める井上家にあずけられるのですが、井上家の娘でほうの面倒をみてくれていた琴江が毒殺されてしまいます。琴江の毒殺の事実を知っているほうはある事情から井上家にいられなくなります。

この頃、勘定奉行職にあったにもかかわらず妻子と部下を殺し流刑になった加賀殿が、丸海藩お預かりになります。
井上家から出され、引手見習いの宇佐と暮らしていたほうは、加賀殿を幽閉している涸滝の屋敷の住込み女中にされてしまいます。

丸海藩も丸海の町人も流行り病が起こったり、雷害が起こると、不幸を加賀殿が運んできたと言って恐れました。

妻子と部下を殺した加賀殿は鬼なのでしょうか?

阿呆の「ほう」だと言って人から疎んじられていたほうですが、人を恨まず、人を妬まず、彼女の純粋さが人の心を動かします。

お家が大事。だから真実を明かしてはいけない。
そういう武家社会の建前が人を不幸にしていきます。
ほうは知らないうちに利用されていたのですが・・・。

鬼は人の心に住むのです。

本の中で、心に残った言葉。

「半端な賢さは、愚よりも不幸じゃ。それを承知の上で、賢さを選ぶ覚悟がなければ、知恵からは遠ざかっていた方が、身のためなのじゃ」

「雨は誰の頭の上にも同じように降りかかる。しかし、降り止まぬ雨はない」

加賀殿・・・好みです。
武士の鏡。

こういう考えが脈々と日本社会の底に流れており、第二次世界大戦の時のようになるんだろうなぁと思いました。(詳しくは後の本の紹介で)