中山七里 『有罪、とAIは告げた』 ― 2024/03/20

クール・ジャパンが内閣府の肝いりで始められた。
その一環として日中両国間における技術交流が決まり、日本からはアニメスタジオのスタッフが、中国からは最新のAIソフトを開発した技術陣が相手国に赴き、技術協力を行うことになった。
中国の技術陣が開発したソフトは、『AI裁判官』
東京高裁管内の地裁及び家裁の本庁が対象となり、中国の技術陣を迎えてレクチャーを受け、どの段階まで導入を許すのか、その采配が部総括の判断に委ねられた。
高遠寺円は部総括から東京高裁に出向くように指示される。
面会に指示された相手は、円が新任判事補だった頃の指導官で、刑事部総括の寺脇貞文。
彼曰く、「AI裁判官」である<法神2>に過去の判例を再検証させてみることになり、円に事件を担当した裁判官と事件のデータを入力し、データ化する役割を頼みたいということだった。
<法神>が作成した判決文は、裁判官が書き上げたものとほぼ同じものだった。
円は<法神>を使用することに懐疑的であったが、他の裁判官は業務の効率化が図れるということで、<法神>を重宝するようになる。
そんな頃に、円は18歳の少年、戸塚久志が自分の父親を刺し殺したという事件を担当することになる。
加害者の劣悪な家庭環境や父親の暴力などがあったが、18歳という年齢や防衛の程度を越えた行為などがあり、判断が難しいケースだ。
供述調書を読んでも、戸塚久志が父親を殺そうと決意するまでの経緯があやふやで、円は納得がいかなかった。
少年犯罪の場合、日本の刑事裁判は基本的に更生主義を採用しているが、尊属裁判の場合、1995年の改正により正式に削除されているとはいえ、未だに厳しい判決を下す傾向にある。
戸塚事件を担当する裁判長は檜葉部長、右陪席が崎山半二、そして左陪席が円。
檜葉は古いタイプの裁判官で、判決には教育刑よりは応報刑、更生主義よりは懲罰主義のようにうかがえる。
円は檜葉の古い道徳を牽制しつつ、彼の判断を尊重するにはどうしたらいいのか悩む。
公判前に檜葉は<法神>を使ってみようと言い出す。
<法神>が出した判決は…。
わたしなんかは古い人間なので、「AIって何?」って感じです。
このお話のように、AIが裁判で使われるようになると、どうなるのかと不安に思います。
本ではこう書かれています。
「人の罪と罰を人工知能が裁く。それは倫理的に正しいかどうか」
「問題なのは各々のデータを重ね合わせる際に、人工知能が被害者感情や更生の可能性をどこまでくみ取るかですよ。司法判断の材料には数値化できるものとできないものがあるでしょう」
「司法判断に感情が必要か否かは古くて新しい問題だ」
「人は感情を持たない知能に裁かれて果たして納得できるでしょうかね」
「<法神>による裁断にはモデルとする裁判官以上の情状酌量を採用する余地がない」
AIに関する問題点は、
「分析や再構築ができても創造ができない」
「感情や心というのはAI開発段階で散々取り沙汰されてきた問題です」
「感情や嗜好をアルゴリズムに変換できたらというのはシステムエンジニアの見果てぬ夢です」
などです。
ようするに人とAIの違いは、感情と心、共感性、創造性などがあるかどうかなのでしょうね。
これから色々なところでAIが使われていくようになるのでしょうが、いくら便利だからといって考えたり悩んだりすることを放棄してはいけませんね。
それにしても重要な裁判に関するものなのに、中国の製品を導入するなんて、とんでもないことですよ。それに検証もせずに使いますか?
ちょっとこの点が不自然でした。
それに戸塚事件は始めから犯人が予測できてしまいました。
タイムリーでよかったのですが、中山さん、量産するよりも良い作品をお願いしますね。
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