百田尚樹 『永遠のO』2011/11/19

今回読んだ本は、退職した元同僚の女性が勧めてくれた本です。
戦争物はあまり好きではなくて読まないのですが、読んでみました。


司法試験受験勉強をするためニート(懐かしい!)をやっている26歳のぼくは、姉でフリーライターの慶子からアルバイトを持ちかけられます。
彼らの母親が実の父親、彼らにとっては祖父である宮部久蔵のことを知りたいと言い出したのです。

宮部久蔵は彼らの祖母の初めの夫で、「大正八年東京生まれ、昭和九年、海軍に入隊。昭和二十年、南西諸島沖で戦死」していたのです。

旧海軍関係者の集まりである「水交会」に問い合わせ、いくつかの戦友会を教えてもらいました。その会に問い合わせ、祖父を知っている人が見つかると会いに行きます。
会った人はみな宮部はパイロットとして一流だったが臆病者で、「命が惜しくて惜しくてたまらない男」であったといいます。

祖父の宮部はみんなが言うように臆病者だったのでしょうか?

夫は証言①の段階でつまらなさうだったので、読むのを止めてしまったそうです。
実は私もそう思いました。
しかし、その後からミステリーを読み解くようなおもしろさが出てきました。
人の真実なんて、その人にしかわからないことです。
まわりの人は、その人の一面しか見ていないからです。
しかし、色々な人の証言を集めたら、真実の一面が見えるかもしれません。

ずっと前の職場で父親が戦死して、一度も顔を見たことがないという女性がいました。
彼女は新聞に戦争のことが書かれているとスクラップしていました。
戦友会の人とコンタクトを取り、父親と同じ部隊にいた人を探しては会いにいっていました。
一度も結婚をしたことはなく、結婚すると父親のことが調べられなくなるからと言っていました。
退職してもう10年以上経っていますが、どうしているのかと思うことがあります。
例え同僚に「給料泥棒」(こう言った人は今鬱病で仕事ができません。人のことを悪く言ってはいけませんね。何があって自分も仕事ができなくなるかわかりませんから・・・)と言われようが、困った人と思われようが、父親のことを知るということが彼女の一生の仕事になっていたのです。そのために周りの迷惑も何も考えられなかったのです。
彼女の一生は亡き父親を偲ぶことで費やされていたのです。
傍から見ていた私たちは、もっと違う風に生きればいいのにと思いました。
「私は天涯孤独なの」と言っていた彼女の淋しそうな姿が浮かびます。

『孤宿の人』の時も思ったのですが、日本社会は滅私奉公を強いる社会。
丸海藩存続のため、琴江が毒殺されたことを明らかにできませんでした。
御家存続のため、加賀殿は鬼になりました。

第二次世界大戦の時も同じ。

「ほとんどの戦場で兵と下士官たちは鉄砲の弾のように使い捨てられていた。(中略)だからこそ彼らに降伏することを禁じ、捕虜になることを禁じ、自決と玉砕を強要したのだろう。力を尽くして戦った末に敗れた者に「死ね」と命じたのだ」

「(アメリカの)「VTヒューズ」は言ってみれば防御兵器だ。敵の攻撃からいかに見方を守るかという兵器だ。日本軍にはまったくない発想だ。日本軍はいかに敵を攻撃するかばかりを考えて兵器を作っていた。その最たるものが戦闘機だ・・・」

海軍は、特攻や人間魚雷回天を考え、鉄砲弾のように兵士を使い捨てにしました。
特攻隊員の乗った戦闘機も回天も、そのほとんどが敵の艦体まで届くことがなかったということです。

ここから私の考えが飛びます。
フクシマのことを考えると、日本のこの体質は変わっていないのではないかと思うのです。
住民は使い捨て。子供が死ぬといっても全員ではない。
日本の繁栄のために少しの犠牲は許される。
文句を言うな。

考え過ぎでしょうか?

宮部少尉のように生きることは難しいです。
彼のように「わたくしはわたくしの戦いをするだけです」と言えるようになりたいです。
しかし、へたれの私にはそういう勇気も信念もありません。
それでも、大事な時に声をあげられる人になれるように頑張っていきたいと思っていますが。

20代でアメリカ旅行をした時に行ったスタジアムに、その土地で戦死した人の名前が彫られたプレートがありました。
そのプレートの横にあった説明文を読んだ時、日本との違いを感じました。

彼らは「freedom」のために闘った。

日本なら「お国」ですか。

ゼロ戦のことなど詳しく書かれていますので、戦闘機ファンにもおもしろい本ですし(あ、もう知っていることばかりかも・・・)、もちろん戦争のことを知らない世代が読んでもおもしろい本です。ミステリーを読むように読んでみてください。

コメント

_ himawari ― 2011/11/19 22時58分43秒

死に対しては誰もが臆病になって当然だと思います。怖いと言える勇気もありかと。私の二人の叔父は若くして戦死しました。父親の幻影を追い求めるその女性の気持ちも解るような気がします。戦争は悲劇しか生みませんね。米国は自由のために戦い、生きて帰れば英雄なんですよね。日本は未だに軍国主義といっても過言ではないかも・・・・・

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