篠田節子 『セカンドチャンス』2022/12/16



大原麻里は終日母につきっきりの介護生活を二十年間続けてきた。
そのため婚期を逃し、独身。
昨年、母を見送り、今は眼科の検査助手をしている。
勤務中にめまいを起こし、眼科医に勧められて市の検診を受けると、結果が思いのほか悪かった。
遺伝とはこういうものなのか、自分は母よりも若い年齢で亡くなるのかと思う麻里。

そんな頃、かつての同僚で今は文書課長を務めている人に大学病院で行う生活習慣病撲滅プロジェクトに誘われ、参加することにする。
三週間おきに医師の診察と看護師の指導を受け、ときに管理栄養士による講義も受けるのだが、検査結果の数値は悪くなるばかり。
これでは完全な落ちこぼれだ。

友人の千尋とお茶をしている時に、自分一人では続かないけれど友達と一緒なら続くかと思い、プールに誘ってみる。
地元の「相模スポーツセンター」に体験の予約を入れるが、当日千尋は行けなくなり、麻里一人で行くことになる。
「相模スポーツセンター」は老朽化が激しい、貧乏くさい建物で、ここはないなと思ったが、健康増進水泳が意外とおもしろく、麻里はプール専用のアクア会員になる。

麻里が選んだクラスのレッスンのインストラクター、岸和田元気は鍛え上げられた体が見事な好青年だが、理屈っぽくて、レッスンは説明ばかりなので、主婦たちには人気がない。
メンバーは出版社の編集者で糖尿病のある古矢や知的障害のあるゆう君など男ばかりで、唯一の女性は筋肉質で愛想の悪い伊津野七海だけ。
結局、主婦グループにもクラスにも馴染めない麻里。
続くのだろうか…。

そんな麻里に千尋は言う。
「一回でも休んだら負けだよ。知らん顔して通いな」
「少しは自分ファーストにしな。このままじゃ、あんたの人生は人に利用されるだけで終わるよ」
実にありがたい友人です。

少しずつ泳げるようになった麻里は、とうとうIFCマスターズカップの4人組混合リレーに参加することになる。
しかし、前途多難。次々と人が抜けていく…。

篠田さんらしからぬ小説です。
真正面から一人の女性にエールを送っているんですもの。
どんでん返しがあり、いつか彼女に不幸が起るのではと思っていたら、とんでもない。最後には何故か泣きそうになりました。
51歳はまだまだ若い。いくらでも自分の人生を変えることができます。
必要なのは、決心して一歩を踏み出すだけなのです。

私には医師の「治らない人っていうのは、必ずそういう言い訳を用意して、ここに来るんだよね」という言葉が痛かった。
その通りなんです。
できない言い訳を言っているうちはダメなんです。
減量生活がマンネリ化してしまい、今は気を抜きすぎているので、再度褌を締め直しますわ。

麻里さんは私とは性格も、育った環境も違っているので、それほど共感できませんでしたが、小説は面白かったです。
読んでいると、ジムや水泳教室とかに通うのが嫌になりました。人間関係が面倒くさそう。
私はお家ワークアウトでいいですわ、笑。

四十代や五十代以降の人が読むと、身につまされることがあるかも。
篠田さんの作品にしては読みやすいので、元気が欲しい時に読んでみることをおすすめします。

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