歌田年 『紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人』2021/05/07

『このミステリーがすごい!』大賞の作品が次々と出ていますね。
この本は第18回の大賞受賞作品です。
私的にはこの頃読んだ『このミステリーがすごい!』受賞作品の中で、一番のお勧めです。


渡部圭は新宿にある渡部紙鑑定事務所の紙鑑定士兼紙営業士です。事務所といっても彼一人しかいないんですけど。
紙鑑定士とは何か。
「持ち込まれた紙のサンプルを調べ、メーカー、銘柄、紙の密度でもある米坪を推定し、紙厚を測定する」職業らしいです。
得意なものは本で、カバー、オビ、表紙、見返し、口絵、本文、上製本なら芯ボールなど、それらのパーツにどんな銘柄の紙が使われているかを鑑定します。
予算に合わせて、それらに準ずる銘柄を提案することもやります。
どこの版元であろうが、書籍や雑誌の使用紙明細や刷り部数も聞きだすことができます。
判型とページ数がわかれば、納品数量から逆算して部数を弾き出すこともできます。
こういう風に書くと、本当にある資格みたいですが、実はないんです。
紙営業士(ペーパーアドバイザー)は本当にある資格です。

彼の事務所に二十代半ばの可愛らしい女性がやってきます。
カレシの浮気調査をしてもらいたいとのこと。
アレ、ここは紙鑑定事務所ですよね。
彼女は<渡辺探偵事務所>と間違って入って来たのです。渡辺探偵事務所には神探偵がいて、何でも解決してくれるんだそうです。
「神」と「紙」の間違いですね、笑。
彼女は米良杏璃という美容師で、鑑定士ということからどんなものでも鑑定できちゃうと思ったのか、渡部にプラモデルの写真を見せて鑑定してくれといいます。
それは戦車のジオラマで、今までプラモデルなんか作ったことのないカレシが急に作ったそうです。
こんなの鑑定できないと渡部は断りました・・・と書きたいんですが、彼は懐具合が寂しかったので、引き受けちゃいました。
前に勤めていた会社の得意先に月刊の模型専門誌があり、そこから専門家を紹介してもらおうと考えたからです。

『ホビーグラフ』の鈴木に会い、フリーのプロモデラーを紹介してもらいましたが、その人は別の人を紹介してきました。
超ベテランモデラーの土生井昇という「伝説のモデラー」です。
高尾に住んでいる土生井のところに行ってみると、ゴミ屋敷かと思われるようなとんでもない家に認知症の母親と一緒に住んでいました。
室内に入ると、もの凄い数のプラモデルが…。”積みプラ”って言うんですって。
彼は何らかの事情で自分の作品を発表できなくなり、今はメーカーからの依頼でプラモの完成品を作る仕事をしているようです。
土生井はネット情報に疎いようなので、作品を載せられるようにTwitterを教えてあげました。
杏璃から渡された画像を見せると、流石としか言い様のない推理を聞かせてくれました。

杏璃の問題は土生井のおかげで無事解決しましたが、報酬を値切られ、持ち出しとなり、ガックリきた渡部でした。
悪いと思ったのか、杏璃がお客を紹介してくれました。
これまたプラモデルのことで相談したいというのです。
専門でないので断るつもりが、また金に引かれて引き受けてしまいます。
依頼人は曲野晴子。三ヶ月前から行方不明の妹を探してもらいたいというのです。彼女は同居している妹の部屋にあった白い家のジオラマを持って来ました。
警察はジオラマの写真を撮って行ったけど、それ以来連絡はなし。
探偵社に依頼すると騙され、困っていた時に渡部の話を聞き、藁にも縋る思いでやってきたのでした。

プラモデルのことは土生井ということで、新しいジオラマが出現するたびに渡部は土生井に見せ、土生井は的確に推理していきます。
渡部の紙鑑定士の資格は事件には全く関係がないです、笑。
渡部は土生井の意のままに動くだけ。土生井がホームズで渡部がワトソンですね。

ジオラマを調べていくうちに、渡部と土生井は、それがとんでもない計画を示唆していることに気づきます。

著者の歌田さんは29年間出版社に勤務し、プラモデルと紙の専門的な知識を培ったそうです。どうりで詳しいはずですね。
シリーズ物にしてもらいたいです。よろしくお願いいたします、笑。


そうそう、新国立バレエ団で「コッペリア」を2時から無料で無観客ライブ配信しています。
明日が最後で、コッペリアが小野絢子ですので、是非観てみてください。
ついでに「上野の森バレエホリデー2021」でも9日までオンライン・プログラムを見ることができます。
まだ観ていませんが、モーリス・ベジャールの特別講演会「バレエ・リュスと自作を語る」を観てみようかと思っています。