「夏時間の庭」を見る2009/05/25

オルセー美術館20周年企画として、全面協力の下で作られた映画だそうです。
週刊文春の映画評で結構いい評価だったので、見てみることにしました。

名のある画家であった大叔父ポール・ベルティエが生前使っていたアトリエを受け継ぎ、そこに一人で暮らしている母親に会いに、三人の子供とその家族がやってきました。
長男のフレデリックは経済学者でフランスに住み、次男のジェレミーは中国で働いています。
長女のアドリエンヌはデザイナーで、アメリカを本拠地にして、世界中を飛び回っています。
母は自分の死後のことを気にしていました。
アトリエには美術的価値のあるものがたくさんあるからです。
コロー、ルドン、ブラックモンの花器、アール・ヌーヴォーの机・・・。
母は自分が死んだらこれらの美術品は売って欲しいと長男に頼みます。
しかし、長男は売る気はなく、家も美術品も子供たちが受け継ぐと言うのでした。

その一年後、大叔父の回顧展が終わった後、母は急死します。
膨大な遺産が残され、とまどう兄弟。
フレデリックはそれらを手放すつもりはありませんでしたが、アドリエンヌはアメリカ人の恋人との結婚を決め、ジェレミーも中国に生活の拠点を移し、現地での住宅購入の意志を告げるのでした。
妹と弟にとっても愛着がある家や遺品ですが、それらはもはや必要なものではないのです。
フレデリックだけが遺品を残そうと思うのですが、現実を見ると、相続するには莫大な相続税がかかります。
結局、美術品をオルセー美術館に寄贈し、家は売ることにします。
オルセー美術館に寄贈した机や花瓶を見に行ったフレデリックには、それらはもはや光を失った形骸にしか見えませんでした。
家を引き渡す前に、フレデリックの子供のシルヴィは家でパーティを開くことにします。
現代っ子で問題児の彼女ですが、彼女には彼女の思い出が、この家にはあったのです。

相続の問題では、国による違いがそんなにないんだなと思いました。
あくまでも、コローにこだわり、コローは手元に置いておきたかったと言って、奥さんからもういい加減にしなさいと起こられるフレデリック。
もうフランスには生活の基盤がないという妹と弟。
そして、思い出に生きるのは自分だけでいいと、美術品を売るようにと告げる母親。
ものにこだわるのはいいけれど、でもそれよりも大事なものがあります。
それは心の中に残る思い出なのです。

淡々とした進み方に、ちょっと眠気を誘われましたが、映像の綺麗な映画でした。