福田和代 『オーディンの鴉』2010/07/30



この本は友人がおもしろいと言っていたので、買って読んでみました。海外のミステリーを読んでいると同じようなものがあり、海外の方が取り上げ方がうまかったりするので、物足りなく感じてしまいます。
例えばこの本なら、リンカーン・ライム・シリーズの『ソウル・コレクター』を読んだ後だったので、目新しいものがなかったです。
 
題名の「オーディンの鴉」とは、北欧神話の最高神。肩にフギンとムニンと名づけられた鴉が二羽止まっていて、世界中を飛び回って情報を集めてくるので、オーディンは世界中の情報を得ることができるのです。

東京地検特捜部に勤める湯浅雅彦には妻と白血病で入院している娘がいました。
彼の班は矢島議員の自宅や事務所など八ヶ所の家宅捜査を行なう予定にしたのですが、その日の朝に矢島が自殺をしてしまいます。
矢島は防衛省が次年度予算申請を進めている、次世代ミサイル防衛シムテム購入に関して、業者から違法な政治献金を受け取り、便宜を供与したとの疑いをもたれていたのです。
矢島の自殺の理由が、特捜部の強硬な捜査に耐えかねてということになると、議会の検察に対する感情が悪化する恐れもあります。

特捜部の若手でパソコンに詳しい安見が湯浅に見せたものは、意外なものでした。
動画サイトに載っている『ハレンチ議員!YA!YA!』というタイトルのついた動画、ニコ動画に載っているコメント、矢島のブログに寄せられた嫌がらせコメント、それ以外にも矢島の個人情報、彼の一日の行動、愛人の名前と写真、メールの内容などがネットに載せられていたのです。
湯浅と安見は汚職事件の捜査と同時に矢島議員の個人情報漏洩時間について調査を進めることにします。

汚職事件の方では矢島と納入業者を引き合わせた男として、政財界の暗部を泳ぎ回っている影の大物、瓶子剛造が浮かび上がってきました。事情聴取をすることになります。
しばらくして、湯浅と安見宛てに差出人に『オーディンの鴉』と印刷された封筒が届きます。中には防犯カメラで撮影された写真が一枚入っていました。

安見がコンピューター・セキュリティの専門家で友人のハジメに会いに行った次の日に、彼が遺体で見つかります。湯浅はハジメを探します。ハジメの話から安見が殺される前に行ったらしい場所がわかります。それは瓶子が理事として名前を連ねている企業でした。
瓶子に迫る湯浅ですが、瓶子は湯浅に脅迫めいた言葉を言います。
心配になった湯浅は娘と妻を安全なところに避難させるのですが、なんと湯浅が瓶子殺害の容疑者になってしまい、ネットには彼の個人情報が流出します。
湯浅はどうやって自分の冤罪を晴らしていくのでしょうか。

私達は思った以上に自分の情報をばら撒いているのです。
朝、電車でスイカを使い、町を歩くと防犯カメラが私達を写し、カードを使い買い物をし、家ではネットショッピング・・・。
毎日、家に覚えのないDMが届いたり、メールアドレスを知らせたはずがないのに、知らない店からのメールが届いたりします。
カード会社やネットショッピング会社から私達の住所やメールアドレスが流出しているのでしょうね。
 
この本を読むと、もう少し気をつけてカードを使おうかなと軽く思う程度ですが、『ソウル・コレクター』なんか読むと、ゾーとしますよ。