キタハラ 『遅番にやらせとけ 書店員の逆襲』2021/08/31



書店と図書館のお話が好きなので、大体の本は読みます。
この本、タイトルが今一つ内容を正確に表していません。
副題の「書店員の逆襲」がいけませんね。全然逆襲してません。
「逆襲」とは「攻撃されて守勢に立っていた者が、勢いを転じて逆に相手を攻撃すること」(『デジタル大辞泉』)ですからね。
若い人に売ろうと思っているのか、「やらせとけ」とか「逆襲」とか入れとけば面白がって手に取ると思ったのでしょうけど、それがアダになっていますね。
図書館に予約したのですが、私以外に予約した人がいないような…。
私的には面白く、好きな内容だったのに、残念です。

三軒茶屋にある爽快堂書店で働く遅番のバイトたちのお話です。
店長は安岡、社員は阿川という女性だけで、この2名は主に朝番をやり、遅番は5人のバイトたちです。社長や社員がいなければ、そうです、何でもやり放題です。

バイトの中で一番年上で、長く働いているのが庄野裕樹といううだつのあがらない理解不能の(若いバイトたちの意見)中年のおっさんです。
彼はいつも判を押したように白シャツと黒のパンツ姿です。
会うたびに、「ところで、なにか面白いことあった?」と聞かれるのがうざいです。彼は五月蠅いことを言わないし、おつりを間違えるのが玉に瑕ですが、本のことを聞くとすぐに答えるので便利です。「汎用ヒト型検索エンジン」などと言う奴もいます。
このお話の主人公と言ってもいいのが庄野です。読み進むにつれて彼の意外な一面が明かされていきます。

庄野以外の遅番メンバーたちは、これこそうだつのあがらない(私の意見)大学生たちです。書店のバイトは、特に遅番は早番よりも楽そうだからやっているみたいですし、大学に行っているんだかどうだか、全く勉強している姿を見せません。留年が一人、今年留年しそうなのが一人います。
暇なのでシフトに入っていなくても書店にたむろして、好き勝手なことをしています。

こんな遅番たちですから、色々なことが起こります。
万引きを捕まえた後から私生活が謎だった庄野の正体がだんだんと明きらかになっていきます。
若者にとって自分たちより年上の者は煙たいし、ダサいし、自分たちと同じバイトをしている庄野なんかは社会の落ちこぼれと思って小馬鹿にし見下しています。
しかし伊達に年を取っているわけではないのです。年寄りには年寄りの人生があるのです。ただそれを見せていないだけなのです。
若者は年寄りが自分たちを小馬鹿にすると激怒するのに、自分たちが年寄りを小馬鹿にすることはやむなしと思っていませんかね。

本の中で庄野が楽をしようとする遅番に言う言葉がいいです。

「レジを打って返品して掃除するだけが仕事だと本気で思っているのか?いいか、僕らは労働力をこの店に捧げて給料をもらっているんじゃない。その考えではいずれすべて機械にとって代わるとき、ネガティブな状態でシンギュラリティを迎えることになるな。路頭に迷うぞ。僕らは人生の一部を雇用主に与えて金を貰っている。働いている時間だって人生だ。人生をサボることができるか?就業時間中にサボることは許さん」
(シンギュラリティ:人口知能(AI)が人類の知能を超える転換点(技術的特異点)、またはそれがもたらす世界の変化のこと。「知恵蔵」より)

庄野の正体が明らかになるにつれて、遅番達の庄野に対する見方が変化していき、最終的に彼らは心を通わせるようになります。
遅番たちは庄野から何かを学んで成長していくのでしょうね。

私の好きな庄野の言葉は、「人はなにか面白いことを発見できたら大丈夫」です。
いくつになっても好奇心を持ち続け、面白いことを見つけることができたらいいですね。
ところで、あなた、なにか面白いことあった?

本の中に出てくる『ぼくらの七日間戦争』ってそんなにいい本でしたっけ?
もう一度読んでみたいと思いました。
映画もあるようなので、若い頃の宮沢りえを見るのもいいかも。

題名がなんですが、読んでみてもソンのない本です。
私は庄野推しです、笑。