「The Great British Wedding Cake」を観る2021/08/12

ブリティッシュ・ベイクオフの番外編です。
別の日に紹介しようかと思っていたら、「ダイアナ妃のケーキ、28万円で落札」というニュースがあったので、今日書くことにしました。
実際のウエディングケーキは5段もある大きなものでこちらに写真が、売りに出されたケーキはこちらをご覧下さい。

ファイナルに残った三人がそれぞれ「伝統的なウエディングケーキ」とオリジナルレシピで作った「現代のウエディングケーキ」を作るというものです。
いつもの司会者は現れず、審査員のお二人と決勝に残ったベイカー三人で行います。


写真の左からルース、エド、ミランダ、メアリー、ポールとなります。
ちなみにメアリーさんは自分でウエディングケーキを作ったそうですが、ポールさんはキプロスにいた時で忙しくて作れなかったと言っています。
(実は彼、離婚してしまい、現在は若い恋人がいるようです)
女性2人と男性1人ですが、男性のエド君は24才。まだ若くて結婚していないので、女性好みのケーキが作れるのでしょうかね。

最初は11時間かけて「伝統的なウエディングケーキ」を作ります。
伝統的なウエディングケーキはフルーツケーキを三段重ねて、マジパンとアイシングを使ったものです。

ここで番組で紹介された伝統的なウエディングケーキの歴史などを書いておきます。
伝統的なウエディングケーキは小麦粉と卵、ドライフルーツと香辛料、ブランデー、ナッツ、糖蜜が使われています。
三段になっており、下段は当日のゲストと食べ、中段は最初の結婚記念日に食べ、上段は子どもの洗礼の時に食べたそうです。
子どもがいつ生まれるかわかりませんから、日持ちするようにフルーツケーキを使うのですね。

この伝統は500年前から始まりました。
中世には結婚式で新郎新婦がパンとワインを運んできました。
チューダー朝では、オランダの画家の絵にコーニッシュ・パイのようなケーキを運んでくる様子が描かれています。この頃のケーキは酵母で膨らませていました。
酵母の中に卵4個を入れ、小麦粉と混ぜ、膨らむのを待ち、膨らんでから生地を2つに分け、バターを折り込み、生地を小さく切り刻み、砂糖と干ぶどうを入れて焼きます。
砂糖は11世紀に中東から南欧を経てイギリスに渡り、チューダー朝ではまだ贅沢品でした。貴重なジャコウの香料やバラ香水も好んで使用されていたそうです。
この他にマーチパーン(イタリア語で「マルコのパン」)という甘いものが祝宴のテーブルに並んでいました。アーモンドペーストと砂糖、バラ香水を型に入れて作ったもので、今のマジパンのようなものです。これは17世紀初頭までに進化し、アイシングが施されて、飾りとして使われ始めたそうです。

18世紀のロンドンで、リッチという見習いベーカーが師匠の娘に求婚する時にウエディングケーキで愛を示そうと思いました。モチーフを考えていると、聖ブライズ教会が目に入り、その段々の尖塔をもとにウエディングケーキを作りました。
ウエディングケーキは1840年代に広く普及し始めました。というのも経済が著しく発展し、安い値段の砂糖や果実、香辛料が入ってきたからです。

三段のウエディングケーキはヴィクトリア女王の結婚式の時に生まれました。
それまで結婚式は内輪で開かれ、衣装も様々でしたが、女王が白いドレスや付添人の伝統を作ったのです。
女王のウエディングケーキは大きくて、重さ130キロ以上、外周が約3メートルで4人がかりで運びました。
彼女の子どもたちのウエディングケーキは更に高く、豪華になっていったそうです。
20世紀の終わり頃までに重ねる形式のケーキが定着し、すべての階層の結婚式でこの形が好まれました。

第二次世界大戦中には食料は配給制になり、ケーキの材料はポイント配給制なので、友人や親類などから配給品を分けてもらって作りました。そのためウエディングケーキは小さくなり、着色剤で黒っぽい色を追加したり、マジパンに大豆粉を使ったりしていました。
水しっくいや壁用の漆喰を利用して装飾を施した厚紙で作ったケーキの中に小さい本物のケーキを入れていました。
戦後40年、1980年代初頭まで伝統的なウエディングケーキが続きました。

1960年代から離婚率も上がり、再婚する人も増えてきたため、結婚に対する意識が変っていきます。
80年代にはデザイナーがもてはやされ、ブランドが重視され、伝統に反するものの需要が増え、人びとは好きなものを買い始めます。
そのためウエディングケーキも変っていきます。人と違う、個性が表れるウエディングケーキの需要が高まったのです。
ケーキ界でも革命が起きていました。アイシングが進化したのです。
シュガーペイストは柔らかい生地なので、ケーキに合わせて使えますし、1日でケーキが完成するので日持ちのするフルーツケーキではなく、スポンジやチョコレートが使えるようになりました。
ペギー・ポーションなどが新しいウエディングケーキに挑戦しているようです。

歴史はこれぐらいにして、三人が作ったケーキを紹介しましょう。
天性の技と飾り付けのセンスが評価されているミランダは、春の息吹を感じさせる伝統的なウエディングケーキを作りました。メアリーさん一押し(↓の写真)。


独創性に加え、あらゆる領域をこなす能力のあるエドは、戦時中に行われた祖母の結婚式の時のケーキを参考にして、ナッツの入らないフルーツケーキを使いました。
お祝いにふさわしいけどシンプル過ぎ、生地がティーケーキ風で、花嫁が軽めのケーキを望んだ時にはいいかもとの評価です。

何事にもそつがなく、大胆で手際よく、挑戦を怖れないルースは、ロマンチックでエレガントな、バラの花の先にほどこしたピンク色が素敵なウエディングケーキを作りました。ポールの一押しです(下の写真)。


「伝統的なウエディングケーキ」の次は5時間で自分のイメージする「現代のウエディングケーキ」を作ります。

ルースはレモンメレンゲのタワーケーキ。大きな生地の上に30個のミニメレンゲパイを飾ります。
ここでまたポールの横やりが入ります。レモンメレンゲは結婚式ではお目にかかったことがないと…。でもルースは負けずにレモンメレンゲを使います。
ミランダはホワイトチョコレートとローズのケーキ。アイシングとガナッシュがポイントです。2段で上下2種類の生地を作り、バタークリームでサンドし、外側にガナッシュを塗ります。
エドはマカロンタワーのケーキです。マカロンは2種類、ヘーゼルナッツと伝統的なマカロン。なんとマカロンが何個必要か把握していないそうです。

さて、評価はと言うと…。
ルース:モダンで目新しく、若い人にぴったり。大胆で他にはない発想。
エド:マカロンはベイクオフの時にいいのはわかっていたので、違うものにチャレンジして欲しかった。


ミランダ:少し生地がパサついているが、美しく、温かみがあり、目新しさもあり、味もいい。(↓の写真)


ポールはルース、メアリーはミランダ押しです。
(写真はBBCからお借りしました)

可哀想なエド君は今回2人の審査員から嫌われてしまったようです。
彼はどちらかと言えば職人肌で、味はいいけど見かけが・・・という感じなのかもしれませんね。私はエド君のウエディングケーキ、悪くないと思いますけど。
エド君の作ったウエディングケーキはここに載っています。

王室のケーキがどんなのか、見てみたい人は「A Brief History of British Royal
Wedding Cakes
」を見てみて下さい。
エリザベス女王のウエディングケーキは華やかで、ウィリアム王子とキャサリン妃のは意外と地味。ハリーとメーガンのは思っていたよりも品が良く、現代的でいいですね。
この前結婚したダイアナ妃の姪のキティさんのウエディングケーキが見たかったのですが、探せませんでした。約4億円もかけたという結婚式ですから、ウエディングケーキはさぞ立派だったことでしょうね。