「風の電話」を観る2022/03/12

昨日は東日本大震災から11年目の日でした。
11年経っても、あの時のことは忘れられません。
私でさえそうですから…。


東日本大震災の時、大津波で両親を亡くし、広島に住む伯母の広子に引き取られた17歳の高校生、ハル。
未だ伯母に抱きしめてもらわないと、学校に出かけることができません。

ある日、学校から帰ると、広子が倒れていました。
広子は命は取り留めましたが、意識が戻りません。
人が次々といなくなることに堪えきれないハルは病院を出て、フラフラと土砂崩れの山道を歩いて行きました。
疲れ果て、道で寝そべっていると、公平という男がハルを見つけ、自宅に連れて行って、夕食を食べさせてくれます。
家には認知症のおばあさんがいて、原爆の話をしてくれました。
公平の妹は自殺をしていました。
次の日、公平は駅まで送ってくれ、「死ぬなよ。生き残ったもんは、食わなきゃな」と言って袋に入ったミカンを渡してくれます。

道路でヒッチハイクをしていると、妊婦とその弟の乗った車が止りました。
弟はハルのことを心配し、食事をご馳走してくれます。
姉はお腹がはるので、店の座敷で横にならせてもらいます。
43歳という高齢なので、子どもを産むことに反対されている。子どものお父さんはいないけれど、心の声を聞いて、子どもを産むことにしたというのです。
姉は「また会いに来てね」と、弟はお金をくれ、「返しに来い」と言って別れました。

ハルは道の駅の公衆トイレで服を着替え、パンを買って食べていました。
そこに柄の悪い男たちがやって来て、ハルを無理矢理車に乗せようとします。
ハルを助けてくれたのは森尾という男でした。
森尾はハルに食べ物をくれ、どこに行くのか尋ねます。
ハルは岩手県の大槌に帰りたいと告げます。
森尾は用事があって埼玉に行くから、そこまで乗せてくれることになります。

埼玉で森尾は、震災の時、ボランティアで来ていたトルコ人のメメットという男を捜します。
メメットは1年前に入管に捕まり、収容されているそうです。
彼の家族に会いに行くと、ご馳走をしてくれました。
ハルはそこに来ていたクルド人の女の子に家族の写真を見せ、二人は将来について語り合います。

車の中で森尾はハルに家族の写真を見せてもらいます。
ハルの家族がまだ見つかっていないことを聞き、自分のことを語り始めます。
彼は第一原発で働いていたのでした。
森尾はハルを連れて福島まで行くことにします。

森尾は一軒の家の前で車を止めます。そこは彼の家でした。
暮らしていた時のままの家の中…。
家族の幻を見るハル。ふと気がつくと、誰もいない…。

森尾は父と姉が住んでいる実家にハルを連れて行きます。
震災当時の話をする父。
ほとんでの人は帰ってこないことや、横浜の学校に転校した近所の子が差別を受けた話、森尾はメルトダウンのことを申し訳なく思っていることなど…。
森尾も妻と子を津波で亡くしていたのでした。

ハルは森尾に「死にたいと思ったことがある」と聞きます。
森尾は「あるよ。でも死ななかった」と答えます。
「ハル、お前が死んだらな、誰がお前の家族のことを思い出す。誰もいなくなっちゃうだろ。おれも福島に帰ろうかなぁ。もう車で寝るのもあきたしなぁ…」。

森尾はハルを大槌まで連れて行くことにします。
大槌駅の駐車場でハルは友人のアスカの母親に話しかけられます。
再会を喜ぶ二人。しかし、アスカは津波の犠牲者でした。
避難している途中にアスカの手を離してしまったことを詫びるハルに、「ありがとう、ハルちゃん、手をつないでくれてありがとう」と言ってアスカの母はハルを抱きしめるのでした。

ハルの家は土台だけしか残っていませんでした。
「ただいま」というハル。誰も返事をしてくれません。
「ただいま、返事してよ。なんで誰も返事をしてくれないの。帰ってきたんだよ。どこにいるの…」
横たわるハルを起こしてくれたのは森尾でした。

森尾はハルを駅まで送り、広島までのお金を渡してくれます。
「ちゃんと帰れよ」
「ハルカ、私の名前は春が香ると書いて春香」
「じゃあな、春香。大丈夫。大丈夫」と握手をして、森尾は車を出しました。

ホームにいる一人の少年がハルに話しかけてきます。
「浪板海岸行きはこっちでいいですか」
「そっちだよ」
「ありがとうございます」
ポケットから紙を出し、見ている少年。
「どこに行くの」
「風の電話に」
風の電話は亡くなった人と話のできる電話だというのです。
「聞いていい。誰と話したいの」
「お父さん。昨年、交通事故で。だからどうしても話したくて…」
「私も一緒に行っていい」
ハルは少年と風の電話まで行くことにします。

受話器を取り、ハルは「もしもし…」と呼びかけます…。

ヒッチハイクをしているハルが危ない目に遭いそうで、心配しながら観ていました。
ハルはいい人たちと出逢い、苦しんでいるのは自分だけではないことに気づき、いつしか悲しみを乗り越えていきます。
「死ぬなよ」、「大丈夫、大丈夫」という言葉が、これからの彼女を生かし続けていってくれるように思います。
そしてこの映画で一番私の心に残った言葉が「生き残ったもんは、食わなきゃな」です。
食べること=生きること、と言ってもいいんじゃないでしょうか。
明日のためにしっかり食べましょう。(私のように肥満になってはダメだけどねぇ、笑)

コロナ禍とロシアのウクライナ侵攻、震災特集などの報道を見ていると鬱状態になりそうなこの頃ですが、希望だけは失わずにいたいですね。

森尾役が日本アカデミー賞で最優秀主演男優賞を取った西島秀俊さんです。
「ドライブ・マイ・カー」はアカデミー賞が取れるでしょうか。
3月27日を楽しみに待ちましょう。