難民を描いた「ヒューマン・フロー /大地漂流」を観る ― 2022/03/29
この映画では主に各国にある難民キャンプ(世界23ヶ所、40ヶ所)の様子を描いており、制作は2017年、日本では2019年に公開されました。
難民とは「人種・宗教・国籍・政治的立場などを理由に迫害を受ける恐れがある者を指す」(「国連難民条約」1951年)
2016年、6500万人以上が難民生活を余儀なくされており、この数は第二次大戦以来最多である。(2021年、8000万人を超えているという。)

各国の状況
<イラク>
2003年アメリカ主導の多国籍軍がイラクに侵攻。26万8000人が死亡し、400万人以上のイラク人が故郷を追われた。
<ギリシャ>
2015年から2016年にシリア、イラク、アフガニスタンから100万人以上の難民がギリシャに押し寄せた。
レスボス島に一週間で56000人以上が流れ着く。
昨年一年で100万人が地中海からヨーロッパに避難し、レスボス島から50万人がヨーロッパに入った。
<バングラデシュ>
ミャンマーのムスリム系少数民族のロヒンギャは長年繰り返し弾圧を受けており、約50万人がバングラデシュやタイ、マレーシアに避難した。
<ギリシャーマケドニア国境>
2015年初頭、ヨーロッパの国々が難民に対し国境を閉じ始め、数万人がギリシャで足止めされている。
ドイツを目指すシリア、イラク、アフガニスタンから来た1万3000人がマケドニア国境が開くことを願い、ギリシャ北部に集まっている。
<シリアーヨルダン国境>
シリア内戦で約130万人のシリア人がヨルダンに逃げた。
ヨルダンは国境を40~45ヶ所開けていたが、現在は5ヶ所のみである。正規のルートで避難したのは55万3000人であるが、実際は140万人。1948年と1967年のパレスチナ戦争の後、ヨルダンは200万人以上のパレスチナ難民の家となっている。
<イタリア南部>
21万人を超える難民がアフリカから来た。
<トルコ>
イラン、イラク、シリア、トルコにまたがる山岳地帯に3000万人のクルド人が暮らしており、自治を求めてきた。
2015年トルコ軍が軍事作戦を強化し、50万人のクルド人が故郷を奪われた。
トルコはその地理的な理由ゆえ、シリアをはじめ、イラクや他の国々から多くの難民がやってくる。300万人の難民を保護したが、公的キャンプに住む難民は全体の10%で、大勢が限られた人道支援で日々をしのいでいる。
2015年には85万7000人の難民がトルコから海を渡ってEU加盟国のギリシャに流入している。
2016年3月、EUとトルコは難民対策で合意。トルコはEUに渡った難民の送還を受け入れる代わりに60億ユーロの支援と自国民のビザ免除措置を手に入れた。
しかしEUートルコ協定は難民を守らない。トルコの法律は一時の保護しか与えず、難民認定をされていないので国際的権利がなく、強制送還される恐れがある。
<レバノン>
シリアやパレスチナの難民を人口の三分の一に当たる約200万人保護している。
アイン・エルヒルウェ難民キャンプでは1キロ四方に約10万人が住んでいる。
シリア難民の子は学校に通っていない。未来に夢を持てず、生きがいも感じられない。家族を亡くしたトラウマを持っている。そのため多くの若者は戦闘員になって闘うことで、復讐できると思っている。
<パレスチナ、ガザ地区>
470万人以上のパレスチナ難民がガザ地区とヨルダン川西岸地区に住み、分離壁や検問所で自由を規制されている。
2007年、イスラエルとエジプトがガザを封鎖したため、住民の80%が人道支援を頼って暮らしている。
<ケニア>
サハラ砂漠の南の地域で世界の難民の60%を保護している。
数年の気候変動で2億5000万人のアフリカ人が干魃、飢餓、病気で苦しむことになる。2050年までにアフリカの人口は25億人になると予測される。
<パキスタン>
1979年のソ連のアフガニスタン侵攻後、300万人の難民を保護しているが、現在は帰還を促しているが、祖国に帰っても難民である。
<ドイツ>
2015年~2016年、120万人がドイツに庇護を申請。
テンペルホーフ空港跡地にある4つの格納庫が難民キャンプとして使用されている。
<フランス>
2016年、1万人がイギリス入国を望み、カレーの難民キャンプ”ジャングル”で暮らしていたが、キャンプの解体が始まった。
<イラク>
2014年、ISがモスルを占拠し、50万人が難民となる。
2016年、イラク軍とクルド人部隊はモスル奪還を計画。ISは退去前に油田に放火し、30万人が避難を余儀なくされる。
<地中海>
2016年、5000人以上の難民が溺死。
飢餓や貧困、紛争のために故郷をすてたエリトリア人やソマリア人がボートに乗るために密航業者や犯罪ネットワークに全財産を払い、スーダンからリビアを経由しやって来る。
彼らの多くはリビア国内で待つ間に、盗難、不当な扱い、差別、搾取、さらに妻や娘の性的暴行など、様々な問題に直面する。
上手く辿り着いたとしても彼らの多くは栄養失調や下痢や赤痢、壊血病などを患っている。
地中海から欧州を目指す難民・移民が海上でリビアの沿岸警備隊に拘束され、暴力や性的暴行を受け、リビアの劣悪な収容施設に強制送還されている。収容された難民ら数百人が行方不明。(「アムネスティ国際ニュース」2021年7月15日)
印象に残った言葉
・1989年、ベルリンの壁崩壊時、11カ国の国境にフェンスや壁があったが、
2016年には70カ国に増えている。
・難民を受け入れるシステムがあったが、人数が増えすぎてシステムが崩壊した。
・難民は世界平均26年、避難生活を送る。
・「自尊心を持ち続けてもらうことが大事」
ヨルダンの王女
「他者の苦しみに無関心な社会は危険」。
「どの国にも厳しい現実がある。だからこそ人道主義をつくことが、ヨルダンの健全な社会や暮らしにも繋がる」
ギリシャ移民政策大臣イオアニス・ムザラズ
二つの道がある。「ヨーロッパが団結して進み、忍耐強く、人権重視の信念で、差別や外国人排除に対抗する」か「排他主義のヨーロッパになるか」。
ブルッキングス研究所シニアフェロー、ケマル・キリサイ博士
「宗教や文化の違いを乗り越えて共存する道を模索しなければならない」
シリア人元宇宙飛行士、ムハンマド・フェリス
「宇宙飛行士だった時、宇宙から地球見て人類は一つだと感じた。人類は一つの国に住む兄弟なのだとね。シリア人、インド人、中国人やアメリカ人も、この美しき星で共に生きているのだ。資源は分かち合うべきだ。この星を守るには、結束と愛の力が要る。人を繰ったり、殺したり、抑圧してはいけない。地球の悪人どもは宇宙に送ってしまおう」
文字だけ見ても、難民キャンプの悲惨さがわからないと思いますので、是非映画を観てください。
ドローンを使った空からの映像は圧巻です。美しくさえ思えます。
映像が難民たちが置かれている現状を余すことなく伝えてくれます。
映画ではたまにアイ・ウェイウェイが登場し、iPhoneで撮影したり、大人や子どもに話しかけています。(監督アイ・ウェイウェイの姿、いるかなぁ…?)
惜しむらくは一本調子過ぎて、途中で見るのを止める人がいそうなことです。
ドキュメンタリー映画としてはマイケル・ムーアのように面白くないけれど、難民を知るために見る価値はあります。
実は私は難民たちが難民キャンプで20年以上も生活することを余儀なくされていたり、子どもたちが学校に行けないことを知りませんでした。
難民を受け入れても、キャンプに押し込んでおくだけで、仕事や教育を与えて社会的な生活を送れるようにしないのでは、本当の支援とは言えませんよね。
人間は生きているだけではダメなんです。国連UNHCRの職員が言っていたように、「自尊心」って大事だと思います。
見ていて日本の難民受け入れ数が少ないのが恥ずかしくなりました。
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