髙森美由紀 『ちゃっけがいる移動図書館』2025/02/08



三十五歳の小田桐実は青森県三津町の図書館で働く非正規職員。
心の病で退職した前任者の代わりに、先月から移動図書館の担当になった。
元館長で運転をする和田肇と正職員で司書の佐藤諒太が移動図書館のメンバーだ。

実は非正規職員であることに負い目を感じている。
大学入試にも就職活動にも失敗し、父親のコネで就職した会社は体調を崩して退職した。
その後、正社員になろうとしたがかなわず、今の仕事を始めた。
母親はその歳で独身で非正規なんて世間に恥ずかしいという。
優秀な他人の情報を出しては、あたなとは大違いという。
非正規の人間に問題があるという。
いつまで否定され続けなければならないのか。
努力が足りない?そうかもしれない。
でもいつまで努力すればいいのか。
自分にはないものを得るための努力に、ゴールはあるのか。

そんな実に転機がやってくる。

ある日、午後からの移動図書館を終え、図書館に戻る途中の山道で、茶色い子犬を見つける。
首輪もない、痩せた子犬で、放っといたら死ぬ。
でも、誰がこの子犬の面倒をみるのか。
和田さんも佐藤さんも引き取れないという。
実のアパートの大家のてつさんがいいと言ってくれたので、実が里親が見つかるまで面倒をみることになる。
実は子犬に「小さい」という意味の方言の「ちゃっけ」と名づける。

しばらくして、ちゃっけを移動図書館に連れて行ってよいことになる。
ちゃっけは利用者からもかわいがわれ、利用者が少しずつ増えていくが…。

実の母親のことを読みながら、そういえば私も、正社員でしたが、母親に同じようなことを言われたことがあったのを思い出しました。
時代が変わっても、まだまだ古い価値観が残っているんですね。
実の親は最後の方で少し変わりましたが、実際に親の価値観を変えることは難しいと思います。
親と心の距離を置くといいでしょう。
この人と私は違う人格なのだから、分かり合えなくても仕方ない。
そう思えると、少しは楽になるかもしれません。

犬の生活は単純でいいです。
寝て起きて、ご飯を食べて、また寝て、お散歩して、寝て、遊んで、おやつを食べて、また寝て・・・。
なんていい生活なんだと思います。
ちゃっけと暮らし始めてから、実は「握りしめていたものは、案外不要なものかもしれない」と思い、手放すことを覚えました。
いつも無愛想で、眉間にシワをよせていた実が、笑顔ができるようになってよかったです。
犬は偉大ですwww。


寒い中、楽しそうに歩くわんこたち。
癒しを与えてくれることが多いけど、たまにストレスになることもあります、笑。

そういえば髙森さんの別の本を読んだことがあるのを思い出しました。
羊毛フェルトの比重』という本で、この本の主人公も実と似た感じです。
調べてみると、みさと町立図書館分室』や『山の上のランチタイム』、『柊先生の小さなキッチン』など他にも読んでいました。
どの本も、現状に不満があるけど、どうしようもないので、何もせずに甘んじているという人が読むと、少し勇気づけられるかもしれません。

とにかく最初は実のマイナス思考が嫌になるかもしれませんが、ちゃっけがで出てきてから、トーンが明るくなりますので、少しの我慢をww。
犬好きなら絶対に好きになるお話です。