風野真知雄 『眠れない凶四郎 四&五』2021/05/10

妻が殺されてから眠れなくなった土久呂凶四郎。
南町奉行の根岸肥前守鎮衛は彼を夜回り専門の同心に任命しました。
三巻で妻の事件も解決しましたが…。


『眠れない凶四郎 四』
妻の事件が解決したのに、未だに眠れない凶四郎。
彼はこの頃川柳に凝っています。
師匠はよし乃といい、凶四郎、密かに彼女に懸想しています。

滅法足が速いという女岡っ引きのしめが巷の噂を仕入れてきました。
板橋の外れあたりに土蜘蛛が出るというのです。
早速奉行の根岸に報せます。
根岸はまだ眠れないという凶四郎に調べさせることにします。

そんな頃、与五郎という中村座で裏方として働いていた男が、毒蜘蛛の糸にからまれて殺されていました。
懐には「次はおその」と書いた紙が入っていました。
中村座で話を聞いてみると、与五郎は大阪の道頓堀小屋で働いていたことがわかります。
土蜘蛛の芝居は、中村座を辞めた上村獅子右衛門という役者が上村座で『蜘蛛の巣館』という化け物の話をやっていたようです。
上村に殺しに使われていた蜘蛛の糸を見てもらうと、玄人の仕事で、名のある人の仕事だと言います。
根岸はおそのに警戒させるために瓦版を出しますが…。

湯島で女が事故で亡くなります。
行ってみると、おそのでした。
材木屋にあった角材で頭をぶつけたようですが、どうも様子が変です。
凶四郎は材木を骨に見立てたのじゃないかと思いました。
朝、奉行所に戻ると、根岸が土蜘蛛の巣にはりつけてあった紙を見せに来ます。
そこには「妙技骸骨崩し 次はおつる」と書いてあります。
上村によると骸骨崩しは上方の仕掛けをつくるのがうまい暗闇堂清臓という若い化け物師がやっていたと言います。
彼が江戸に甦ったのか。

そうするうちに次の殺人が…。

『眠れない凶四郎 五』
凶四郎、川柳が楽しくてたまらないようです。
彼の作る川柳は、もちろんお化けに関したものです。
例えば、「長雨で黴の模様になにか見え」とか「傘貸せと声はすれども雨の闇」なんかで、ちょっと怖いですね。

さて、定例の川柳の会で、幽霊が見える絵のことを聞きます。
人形町にある料亭<柳屋>の屏風絵に出るそうな。
奉行の根岸が凶四郎に何か面白いことはないかと聞くので、この絵のことを話すと、太っ腹の根岸は料亭の払いを出すから見てこいと言ってくれました。
料亭に行って見てみると、とてもきれいな絵です。
ところがしばらくして、一緒に行った源次が絵の中に幽霊がいると言い出します。
凶四郎には全く見えません。
おかしな話です。
別の日、川柳の師匠のよし乃が幽霊の絵を見てみたいと言い出します。
よし乃さん、凶四郎の懐具合はお見通しで、お願いしたのは私なので、支払いはすべてわたしということでと。いい人ね。
行ってみると、見えました。
凶四郎、ついでに幽霊の秘密までも解いてしまいます。

今回は凶四郎、大忙しです。
泥棒に入った桔梗屋で幽霊を見たと言う泥棒が現れたり、ある鍼師に鍼を打たれると幽霊が出るとかいう噂があったり、丑の刻参りで呪われたり、闇の商売をしている赤月屋を追いつめたり…。

川柳の師匠と上手くいくかと思ったら、悲しい理由で一緒にはなれないようです。
根岸曰く、「男と女はな、別に夫婦にならなくても幸せに付き合っていくことはできるぞ」。
そうです、思い合っていれば。

最後に凶四郎の川柳を。

「幽霊もおあしがないのも恨めしや」