荻原 浩 『あの日にドライブ』2011/09/08


経済小説というか、私的にはお仕事小説と言った方がいいような本の三冊目です。


はっきり言って、この本、滅入ります。『メリーゴーランド』は周りから評価されなくても、自分的に頑張ってやったというサバサバしたものがありますが、この本に出てくる主人公はいつまでグダグダ言ってるのと言いたくなるぐらいです。

牧村伸郎は元銀行員。
銀行員を描いた本って結構あるんですね。
どの本にも、上司へのゴマすりはもちろん、常に上司には逆らわず、気配りし、理不尽な叱咤にも頭を下げ続ける銀行員の姿が出てきます。どんな会社にも少なからず同じようなことがあるのでしょうが、それにしてもどんな作家でも同じようなことを書いているという事は、本当のことなのでしょうね。銀行員って大変ですね。

牧村の勤めていたなぎさ銀行には上司が帰るまで仕事がなくても部下は職場に残っていなければならないという不文律がありました。
職場結婚することになり、彼女の両親に挨拶に行くことになっていた入行五年目の西村が早く退社するのを支店長が見とがめたことから、牧村は魔が差したというのでしょうか、言ってはいけないことを支店長に言ってしまいます。

自分は銀行に不満はたくさんあったが、辞めるつもりはなかった。人事評価はAか特A。38歳の課長昇進は私大同期でトップクラス。40代前半のうちに副支店長か本部次長、40代後半で支店長。
こういう人生のタイムスケジュールを描いてきたのに、たった一言をいったために、出向させられた。銀行は辞めろと言っている・・・。

辞めた牧村は取引先からの引きもあったのですが断り、仕事を探します。が、気に入る仕事はありません。元銀行員だというプライドが邪魔をするのです。
仕方なく当座の生活費を稼ぐためになったのがタクシーの運転手。
一日五万円のノルマを達成することができない日々が続きます。

そんな時に、青春時代を過ごした街に行くことがありました。
思うことは、もし、違う人生を歩いていたら・・・。
牧村のしょうもない夢想が始まります。

銀行に勤めていた、そのことだけが牧村のプライドです。(銀行員ってエリート意識の強い人たちなんですね。知りませんでした)
会社の後ろ盾がなくなった時の男の人って弱いものなのですね。
どんな人の人生だって後悔はつきもの。後悔しても、それでも今の人生しか自分にはなかったと思えれば、そこから新しい一歩が踏み出せるのではないでしょうか。

こういう本を読んでつくづく思うのは、仕事だけではなく、私生活の方も充実させなきゃということです。仕事だけの人生なんて、つまらないし、一回躓くと牧村みたいに這い上がれなくなりそうだからです。

それにしても気分的に暗くなる小説でした。
あ、でもタクシーの運転手さんのことがわかって、その意味ではおもしろい本でした。できれば長距離を乗ってあげたいとは思いますが、お金もったいないものね。
どんな仕事にも何かしら大事なポイントってものがあるのです。それがわかると、仕事が少しは面白くなるでしょうね。