S.J.ローザン 『その罪は描けない』2023/07/26

リディア・チン&ビル・スミス・シリーズの最新作。
今回はビルが語ります。


私立探偵のビル・スミスのところにかつての依頼人、サム・テイバーがやって来る。
サムはエイミー・エバンズという女性を殺し、最低十五年服役の終身刑で刑務所に入っていたが、刑務所内で彼の絵画の才能が認められ、彼の釈放キャンペーン運動が起り、仮釈放で刑務所を出た後は画家として活躍している。
それなのにサムは近頃NYCで起きた二件の連続殺人事件の犯人は、エイミーのときのように殺した記憶がないから、自分だと言い張り、ビルに自分が犯人だと証明してくれと頼むのだった。
ビルは半信半疑ながらも相棒のリディアと調べ始める。

サムの絵は遠くから見ると、「実家で暖炉の上に飾ってありそうなきれいな絵」、ビル曰く「人生への郷愁を掻き立てる」絵なのに、近くで見ると、「静謐な光景ときれいな色が、身の毛のよだつ生々しい暴力を描いた微少な絵で構成されており」、「微少な絵は新聞写真の黒い点々と同じで、絵から遠ざかると見えなく」なるそうです。
そんな絵はいらないわぁ。ヒエロニムス・ボッシュのような絵なら我慢できるけど。
サムはOCDとかADHD、アスペルガー障害などと診断されており、ストレスにさらされると軌道を脱し、気を紛らわせるために妄想を作り上げ、浴びるように酒を飲み、一種の健忘状態になるという気味の悪い男です。
行動がハチャメチャ、予測不可能で、ビルたちはサムに翻弄されます。
そんなサムなのに、なんとリディアのお母さんのミセス・チンが手なずけてしまいます。流石、年の功。
なんとなくですが、ミセス・チンは口では言いませんが、ビルとリディアの関係を認めているような気がします。

今回はNYのアート業界が垣間見られました。なんか嫌な世界ですねぇ。
最後にいいところをミセス・チンに持っていかれたという感じで終わり、ほのぼのとしたのでいいんですけど。
ローザンさんは今年で73歳。好きなシリーズなので、続けていって欲しいです。
次作の『Family Business』はリディアの語りで、NYのチャイナタウンが舞台のようです。翻訳、早めにお願いします。
今年の12月には『The Mayors of New York』が発売されるようなので、楽しみです。

この本とは関係ないのですが、『Family Business』が2022年のSue Grafton 
Memorial Awardにノミネートされたと書いてありました。
スー・グラフトンといえば、女探偵キンジー・ミルホーンが主人公のAlphabet   Mystery series が有名です。
彼女が2017年にお亡くなりになられていたのは知りませんでした。
日本では2006年に『ロマンスのR』まで翻訳されていますが、シリーズはYまであるようです。残念ですね。Zまであと一冊だったのに。
Xはいい単語がなかったのか、題名が「X」ですわ、笑。
あと7冊、翻訳お願いします。