丸山正樹 『刑事何森 逃走の行方』2023/09/12

デフ・ヴォイス・シリーズのスピンオフ版、『刑事何森 孤高の相貌』に続く刑事何森シリーズの第二弾。


埼玉県警飯能署刑事課強行犯係の刑事何森稔と主任捜査員荒井みゆきのバディ関係はうまく行っているようです。

「逃女」
市内の食品包装会社の社員がベトナム人技能実習生にナイフで刺された。
被疑者とみられる女性、グエン・ホアは事件直後に逃亡し、行方がわかっていない。
被害者の同僚の聴取で気になる話が出てくる。
何森はベトナム人技能実習生の支援活動をしている団体や逃亡幇助に詳しい者に当たってみる。
そうすると、『クー・バン』という組織の存在が浮かび上がって来る。

「永遠」
ラブホテルで六十代男性が鋭利な刃物で腹部を刺され、死んでいるのが発見される。
防犯カメラに部屋から飛び出してきた二十代から三十代の女性が映っていた。
被害者は『パパ活サイト』を利用しており、サイトで出会い、当夜会う予定だったトワという女性が重要参考人となる。
防犯カメラに映っていた服装から女の名前が判明する。
聞き込みからトワが常連だったホストクラブがわかる。
ホストにトワのことを尋ねると、彼は「覚えていない」と答える。
一体、何故?

「小火」
公園の女性トイレでボヤ騒ぎが発生する。
何者かが放火した形跡があったが、怪我人も延焼もなかった。
公衆電話からの通報があったのに、目撃者はみつからない。
防犯カメラに映っていたのは、ダッフルコートを着たかなり小柄な女性だった。
管理人によると、公園のベンチで寝泊まりしていた年配の女性が怪しいという。
公園で聞き込みをしてみるが、不審な人物や出来事を見かけた人は誰もいない。ましてや公園で寝泊まりしている年配女性など知っている人はいなかった。
聞き込みの範囲を広げてみると、年配女性を『キッチンセボン』で見かけたという人が現れる。
行ってみると、店主は「妻の勘違いだ」とわけのわからないことを言い、年配女性のことは知らないと言う。
話を側で聞いていた女性従業員が、年配の女性は石川左知代で、去年の四月に店を解雇されたと教えてくれた。
彼女から教えて貰ったアパートには別の人物が住んでおり、大家によると、家賃の滞納が続いたため、出ていってもらったとのこと。
公園で寝泊まりをしていたのは石川で間違いなさそうだが、彼女は何故公園のトイレに火をつけなければならなかったのか…。
その頃、荒井は聞き込みの時に出会った、褐色の肌の女子中学生のことが気になっていた。

「逃女」では技能実習生問題が取り上げられています。
技能実習生と言っても、実態は人手不足を補う体のいい低賃金の働き手です。
日本は他の国に比べて賃金が低い上にひどい労働環境なので、どこの国の人も働きに来てくれなくなっているのではないでしょうか。
本にも書かれている熊本のベトナム人技能実習生が死体遺棄で逮捕されたニュース(最高裁で無罪になりました)ですが、背景を知ると自分の無知に恥ずかしくなりました。
法律では「国籍や在留資格にかかわらずすべての労働者に産休を取得する権利を認めている」のに、技能実習生に対しては適用されていないのが現実なのだそうです。
妊娠がわかると「強制帰国」か中絶薬を与えて堕胎させているそうです。
女性がこのような扱いをされているのですから、男性はどうか、想像がつきますね。
この頃ニュースでベトナム人の犯す犯罪が目につきますが、こういう背景があるんですね。

「永遠」ではホストに狂い、推しのホストに勧められて売春をするようになった女性のことが書かれています。
「普段の生活で鬱屈を抱えていたり自己肯定感が低かったりする女性」ほど、ホストにはまっていくそうです。
「自己肯定感」がキーワードですね。どうやったら高められるのでしょうか。
私はテレビでしかホストさんを見たことがありませんが、ああいうお顔は…好みじゃないです。
一生ホストクラブには行かないだろうなぁ(たぶん)。

「小火」はコロナ禍による非正規雇用者の雇い止めや契約解除で仕事をなくし、ホームレスとなった高齢者と難民問題、非正規滞在外国人問題、入管問題を取り上げています。
特に私の身に染みたのが、高齢女性のホームレスのことです。

「全世代で最も貧困率が高いのは六十五歳以上の高齢単身女性だそうです。単身女性の貧困率はそもそも高くてコロナ禍以前から四人に一人が貧困だそうですが、六十五歳以上になると二人に一人まで跳ね上がります。年金だけでは生活できなくて、働かざるえない人も少なくないそうです」

「そもそも働く女性の賃金自体が低くて、非正規雇用の七割は女性でその八割以上が年収二百万未満ですから」

「女性の貧困は国が作り出した」
「『女性は誰かに依存するのが当然』というモデルを作り出したのは国ですから」

左知代さんのことが身近に感じます。私も彼女のようになるかもしれない。
現実的に高齢女性の仕事って何かありますか?
清掃業ぐらいしか思いつきませんが…。

何森は今年度で定年になります。
この本が何森の刑事としての最後の事件になるのかしら。
人事課長の間宮が何か当てがあると言っているので、次作に期待しますが、次作も出るかどうかわからないと後書きに書いてあります。
図書館の予約が結構あったので、続きが出ることを祈っていますww。

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