中山七里 『彷徨う者たち』 ― 2024/02/24
『護られなかった者たちへ』、『境界線』に続く、宮城県警シリーズの第三弾。

2018年8月15日。
宮城県本吉郡南三陸町歌津吉野沢の仮設住宅で他殺死体が見つかる。
発見場所は出入り口がすべて施錠されていた。
密室殺人なのか?
被害者は町役場の仮設住民の担当者、掛川勇児。
吉野沢の住民は災害公営住宅への移転が進み、仮設住宅には三世帯しか残っていない。
宮城県警の笘篠誠一郎刑事と蓮田将悟刑事は、掛川と仮設住民との間に何かトラブルがあったのではないかと考え、捜査を始める。
蓮田は仮設住宅で幼馴染みの四人組の一人、大原知歌と遭遇する。
かつて蓮田と知歌、祝井貢、森見沙羅は腹違い四兄弟と言われるほど、仲がよかった。
しかし、彼らが高校三年の時に、蓮田の地方紙の記者である父親が、祝井建設を経営している貢の父親と呉竹県議会議員の収賄疑惑をスクープし、貢の父親と呉竹は逮捕された。
その後、呉竹の後釜になったのが沙羅の父親の森見善之助だった。
高校卒業後、蓮田は生まれ故郷の南三陸町から仙台市に引越しており、震災の被害は受けなかった。
蓮田は貢に負い目がある上に、震災で自分が家族も財産も何一つ失わなかったことに後ろめたさを感じ、家族を失った彼らと連絡を取れないでいた。
知歌は現在、NPO法人<友&愛>でケアマネージャーをしており、驚いたことに、知歌と貢は付き合っていたはずなのに、貢は沙羅と結婚したという。
捜査は難航する。
笘篠に二課に連れられていった蓮田は、仮設住宅が建っている高台は国が保証する一等地であるため、再開発が公になる前から、公共工事に関わる県議会議員と震災復興の公共工事に関わる地元建設業者の間で贈収賄が行われることがあるので、特定の何人かに注目しているということを聞く。
掛川が殺されたのは、再開発がらみなのか?
地元で大規模な工事を扱える業者といえば祝井建設。
そして、森見県議会議員と貢は義父と婿の関係。
蓮田は貢に会いに行く。
東日本大震災の7年後のお話。
辛い話しになると思ったので、なかなか読み進めていくことができませんでした。
今回の主人公、蓮田は被災者に対して負い目を感じながら生きているため、捜査中に家族のことを聞かれるたびに自分を卑下します。
それだけではなく、今回は友情と警察官としての職務の間で揺らぎます。
そんな蓮田は警察官として失格です。
しかし、そこはベテランの笘篠がわかっていて、そんな蓮田を見守りつつ、ここぞという時に、彼に警察官としての職務を全うするように迫ります。
本心を言うと、もっと笘篠さんに活躍してもらいたかったですわ。
貢とのことは仕方のなかったことだと思います。
その当時、貢が蓮田のことを許せないというのはわかります。
でも、貢は自分の父親のことをどう思っていたのでしょう。
会社の従業員を護るためには、たとえ犯罪だとわかっていても、バレなきゃやってもいいと思っていたのでしょうか。
貢のそういうところが甘いと思います。
被災地の復興に関して、わたしはよく知らないので、何も言えませんが、ただ被災者たちの気持ちに添った復興をしてほしいです。
復興に関して、こう中山さんは書いています。
「新しいものが生まれる蔭にはいつも破壊と消滅がある。そして大抵の者は消え去るものを歯牙にもかけない。(中略)国の方針だろうと大義名分であろうと、美名の下にささやかな願いが駆逐されていいとは思えない。ささやかな願いすら聞き届けられずに何が復興かとも思う」
宮城県警シリーズはこれで完結だそうですが、残念ながら前作に比べると少し物足りなかったです。
蓮田にそれほど感情移入できませんでしたし、ラストが今ひとつで感動できなかったのです。
まあ、震災後の復興の問題点がわかっただけでもいいとしますわ。
三部作だそうですので、是非『護られなかった者たちへ』から読んでみてください。
<今日のわんこ>

晴れたので、みんなでお散歩に行けました。
ママが花の写真を撮っていてみんなより遅れると、弟は何回も座り込んでママを待ちました。

河津桜(?)っぽい花が咲いています。

クリスマスローズも満開に近い咲きっぷりです。

梅はもうそろそろ終わりでしょうか。
明日は雨らしいので、わんこたちと家でまったりと過ごしましょうかね。
最近のコメント