今野敏 『任侠梵鐘』2025/02/12

「任侠」シリーズの七作目。


阿岐本雄蔵組長のところに永神健太郎がやってきた。
彼が来るとろくなことがない。
彼が持ち込んだ相談事のせいで、日村誠司をはじめ阿岐本組のメンバーは、今まで出版社、私立高校、病院、銭湯、映画館、さらにはオーケストラまでの廃業、閉鎖、解散の危機を救ってきたのだ。
日村は今度は何かとヒヤヒヤしていた。
阿岐本によると、永神は明日の同じ時間に大切な客を連れてくるという。

翌日、永神が連れてきたのはテキヤ筋の大御所の多嘉原義一。
彼によると、目黒区にある小さな神社、駒吉神社の縁日に出店していたのが、今年から出店できなくなったという。
多嘉原はテキヤはもう生きていけない世の中になっちまったと諦めていたが、阿岐本は日村に神社に行って話を聞いてこいと命じる。

日村は駒吉神社に行き、神職の大木和喜と話す。
彼によると、警察と町内会から申し入れがあり、今年から縁日は町内会の人が店を出しているという。
大木の愚痴を聞いているうちに、近くの西量寺も困っているというので、日村はそこにも行ってみることにする。

日村が寺にある立派な鐘楼を眺めていると、住職の田代栄寛が詰問してくる。
どうも鐘の音が騒音だと区役所に苦情がきているらしい。

阿岐本に報告すると、彼は田代に会ってみたいと言い出す。
何か引っかかっているようだ。

次の日、阿岐本が田代と話していると、区役所の職員と警察官がやってくる。
相互監視態勢が整っているようだ。
阿岐本は神社にも行き、話を聞いてみる。

事務所に帰ると、そこにいたのは、北綾瀬署のマル暴刑事、甘糟達男。
中目黒署のマル暴から連絡が来たらしい。

阿岐本は日村に若い衆を使って駒吉神社と西量寺に対する苦情や反対運動の音頭を取っている人物を調べるようにと命じる。
そして永神を呼び、駒吉神社の金回りについて調べてくれと頼む。

一体、阿岐本は何が引っかかっているのだろうか。
駒吉神社と西量寺のトラブルの影に何があるのか。
阿岐本は日村たちを使い、トラブルを解決できるのか。

現代の神社やお寺の問題を的確に描いた作品です。
宗教団体って無税だからいいなと思っていましたが、今のご時世ではそうでもないんですね。
そうそう、お寺の鐘に「先祖供養の意味がある」なんて、知りませんでした。
神社やお寺がもっと身近になるといいのですが、都会では無理そうです。

今までとは違い、今回は阿岐本組長が大活躍します。
それはそれで面白いのですが、若い衆たちの働きがなくて残念でした。
神社やお寺の再生にヤクザさんたちというのは、ちょっと無理がありますものね。
次は今までのように若い衆たちの出番を多くしてくださいね。

阿岐本組によく遊びに来る香苗ちゃんの言った言葉がこころに残りました。

「本当に怖いのは、自分のことしか考えていない人だと思う」

香苗ちゃんのおじいさんで喫茶店のマスターの源次さんがいいキャラっぽいので、次回からもっと登場してもらいたいです。

「任侠」シリーズの順番
①『とせい(任侠書房)』
②『任侠学園』
③『任侠病院』
④『任侠浴場
⑥『任侠楽団
⑦『任侠梵鐘』