堂場瞬一 『複合捜査』2024/03/22

検証捜査シリーズの二作目。


さいたま市内繁華街における夜間の治安悪化に対応するために、県警刑事部と地域部、交通部は合同で夜間緊急警備班(Night Emergency Security Unit 通称NESU)を発足した。
西浦和署刑事課係長の警部・若林佑が夜間緊急警備班班長に任命される。
若林は部下の失態で出世の道を外れたため、今回の仕事が起死回生になる、いや、しなければならないと思って張り切っている。
彼は仕事一筋の男で、部下たちを無能扱いし、信用もしていない。
端から見ると、彼の前時代的な気合いの入れ方、勤務ダイヤを無視した仕事の割り振り、すぐに現場へ出ようとする出しゃばり性格などが上滑りしているが、本人は気づいていない。
大宮中央署刑事課からNESUに出向してきた副官格の警部補・桜内省吾は若林の暴走を阻止するストッパー役を期待されていたが、若林を持て余している。

NESUが発足してから三つの夜に事件が立て続けに起る。
4件の連続放火、2件の殺人事件、コカインの所持で2人の逮捕、浦和駅西口で起きた乱闘事件。
何かおかしいと思う若林。
警察が西浦和グループとつけた奴らが関係しているのか?

捜査は迷走するが、やがて犯人の狙いが判明し…。

神谷は板橋中央署の刑事課係長になっていて、桜内をナイスフォローしてくれます。
永井理事官も登場しますが、前回とは違ったキャラに変わっています。
これからも検証捜査の特命メンバーの一人が主役として登場し、神谷と永井の二人、凛もかな、が関わってくるのでしょうね。

今回は桜内が脇役で、若林という嫌われキャラのおっさんが主人公なのが残念でした。
若林はパワハラ体質で、女性蔑視もありそうで、彼みたいな上司がいると、周りは大変です。
わたしは若林が殺され、桜内が事件を解決することを期待して読んでいたのですが、アララ、若林が最後の方でキャラ変…。
犯人、やることが杜撰過ぎよ(怒)。
若林に共感も感情移入もできませんが、そんな奴だと思って読んでいくと、犯人がわかった当たりから面白くなっていきますので、我慢して読んでいってください。
でも、最後が甘いわぁ。
わたしは最後まで最初の若林のままでいて欲しかったわww。

一色さゆり 『ダ・ヴィンチの遺骨 コンサバターⅤ』』2024/03/21

「コンサバター」シリーズの五作目。


糸川晴香は二ヶ月前に相棒のケント・スギモトに呼び寄せられてルーブル美術館の所蔵作品などの修復に関わったが、すべてはダ・ヴィンチに向けての予行演習だったという。

ルーブル美術館の館長ルイーズが、専門がイタリア・ルネサンスという男性キュレーター、ルカを晴香とスギモトに紹介してから、ある絵を見せた。
それはレオナルド・ダ・ビィンチが最晩年に描いたことで知られる≪大洪水≫の連作に酷似していた。

            ≪大洪水1≫ 1527~1518年

ルーブル美術館で働く清掃員が収蔵庫で見つけたというのだ。
たまたま収蔵品から抜け落ちたのか、それとも誰かが置いたのか。
関係者しか立ち入ることのできない場所にあったので、館内のスタッフ全員が疑わしいため、部外者であるスギモトと晴香に調査を依頼することにしたという。

≪大洪水≫という題名がつけられた連作の素描は十六点が存在し、うち十一枚はシリーズとしてまとまっており、現在はロイヤル・コレクションの一部として英国ウィンザー城で管理されている。

スギモトたちはこの作品に指紋のような痕跡があるのに気づく。
彼らはレオナルド研究の第一人者であるアンドレア先生に会いに行き、指紋の照合の協力を頼むことにする。
というのも、彼が調査していた≪荒野の聖ヒエロニムス≫にレオナルドの指紋が残されていたからだ。

          ≪荒野の聖ヒエロニムス≫ 1480年

だが、アンドレア先生は指紋鑑定の依頼を引き受ける代わりに、彼の屋敷の書斎から盗まれた重要な研究資料を探し出すという条件を出す。
犯人は暗号のようなメッセージを残していったという。

暗号を解いたスギモトは捜し物の書物を見つけ、アンドレア先生が認知症を患っていること、そして一足先に指紋を鑑定していたことを見抜く。
アンドレア先生はレオナルドの素描を鑑定する手がかりとなる、スギモトたちに捜させた紙のウォーターマークの標本を渡し、その本のつづきはフィレンツェのレオナルドの故郷であるヴィンチ村のサン・ジョバンニ図書館にあると教える。

スギモトたちはヴィンチ村へ向かう。
しかし、このあいだの大雨で川が氾濫し、蔵書を保管している地下室が浸水したため、書庫にある資料の閲覧はできない。
司書から水に濡れた本を修復する技術も知識も足りないというのを聞き、スギモトと晴香は修復作業を手伝うことにする。

偶然出会った少女カテリーナから明らかになる『アカデミー』と呼ばれる秘密結社の存在。
そして≪大洪水≫らしきドローイングの黒い影が血痕であるらしいということがわかる。
この血痕はレオナルドのものなのか?

スギモトは闇市場に広いコネクションを持つヘルにボーン・ドクターを探して欲しいと頼む。
スギモトたちはヘルとボーン・ドクターと共にレオナルドの遺骨を求め、レオナルドの終焉の地、フランスのアンボワーズへ向かう。

         ≪洗礼者聖ヨハネ≫ 1513~1516年

はたして遺骨は見つかり、DNA鑑定ができるのだろうか。
話は意外な結末へ…。

レオナルド・ダ・ヴィンチについて詳しく書いてありますので、興味のある方は是非読んで見て下さい。
わたしは≪大洪水≫などという連作の素描のことや、彼がイタリアではなくフランスで亡くなったなんて、全く知りませんでした(恥)。

謎が解けたのはいいのですが、ちょっと終わり方がお粗末な感じで残念でした。
ヘルやボーン・コレクターなど、もっと違った感じで使えなかったのでしょうか。
まあ、このシリーズは絵画についての知識を広げるために読んでいるようなものなので、いいのですけどねww。
次はどんな話題なのか、楽しみに待ちますわ。


<昨日のわんこ>
雨が降らないうちにお散歩に行ってきました。


風が強かったですが、それほど寒くなかったです。


この頃、兄がよく水を飲みます。


今朝はママが二匹をお散歩に連れていきました。
いつもは一匹ずつです。
というのも、○んちを拾う祭にリードを離してしまったことがあったり、取ってる時にウロウロ動いて取りにくかったりするので、二匹いっぺんに散歩をしていなかったのです。
しかし、世の中には便利なものがありました。
ショルダー・リードです。
使ってみると、両手があくので、○んちを取るのも楽ですし、犬に引っ張られた時の衝撃が手や腕、腰にきません。
大きい犬の場合は急に引っ張られると危ないので、くれぐれも気をつけてくださいね。
もちろん歩くときは常にリードを手に持って、犬たちが歩行者や車・自転車の邪魔にならないようにしています。
わんこたち、特にヨーキー弟は二匹いっぺんにお散歩に行けるので、気にいっているようですが、兄は微妙です。
今日は最初に弟の足拭きをしたためか、ご機嫌斜めでした。
のんびり歩きたいのに、弟がズンズン行くので嫌なのかな?

中山七里 『有罪、とAIは告げた』2024/03/20

静おばあちゃんにおまかせ』や『静おばあちゃんと要介護探偵』、『銀齢探偵社 静おばあちゃんと要介護探偵 2』に出てきた、元東京高裁判事の高遠寺静の孫、円が東京地方裁判所の新人裁判官になっています。


クール・ジャパンが内閣府の肝いりで始められた。
その一環として日中両国間における技術交流が決まり、日本からはアニメスタジオのスタッフが、中国からは最新のAIソフトを開発した技術陣が相手国に赴き、技術協力を行うことになった。
中国の技術陣が開発したソフトは、『AI裁判官』
東京高裁管内の地裁及び家裁の本庁が対象となり、中国の技術陣を迎えてレクチャーを受け、どの段階まで導入を許すのか、その采配が部総括の判断に委ねられた。

高遠寺円は部総括から東京高裁に出向くように指示される。
面会に指示された相手は、円が新任判事補だった頃の指導官で、刑事部総括の寺脇貞文。
彼曰く、「AI裁判官」である<法神2>に過去の判例を再検証させてみることになり、円に事件を担当した裁判官と事件のデータを入力し、データ化する役割を頼みたいということだった。

<法神>が作成した判決文は、裁判官が書き上げたものとほぼ同じものだった。
円は<法神>を使用することに懐疑的であったが、他の裁判官は業務の効率化が図れるということで、<法神>を重宝するようになる。

そんな頃に、円は18歳の少年、戸塚久志が自分の父親を刺し殺したという事件を担当することになる。
加害者の劣悪な家庭環境や父親の暴力などがあったが、18歳という年齢や防衛の程度を越えた行為などがあり、判断が難しいケースだ。
供述調書を読んでも、戸塚久志が父親を殺そうと決意するまでの経緯があやふやで、円は納得がいかなかった。
少年犯罪の場合、日本の刑事裁判は基本的に更生主義を採用しているが、尊属裁判の場合、1995年の改正により正式に削除されているとはいえ、未だに厳しい判決を下す傾向にある。

戸塚事件を担当する裁判長は檜葉部長、右陪席が崎山半二、そして左陪席が円。
檜葉は古いタイプの裁判官で、判決には教育刑よりは応報刑、更生主義よりは懲罰主義のようにうかがえる。
円は檜葉の古い道徳を牽制しつつ、彼の判断を尊重するにはどうしたらいいのか悩む。

公判前に檜葉は<法神>を使ってみようと言い出す。
<法神>が出した判決は…。

わたしなんかは古い人間なので、「AIって何?」って感じです。
このお話のように、AIが裁判で使われるようになると、どうなるのかと不安に思います。
本ではこう書かれています。

「人の罪と罰を人工知能が裁く。それは倫理的に正しいかどうか」
「問題なのは各々のデータを重ね合わせる際に、人工知能が被害者感情や更生の可能性をどこまでくみ取るかですよ。司法判断の材料には数値化できるものとできないものがあるでしょう」
「司法判断に感情が必要か否かは古くて新しい問題だ」
「人は感情を持たない知能に裁かれて果たして納得できるでしょうかね」
「<法神>による裁断にはモデルとする裁判官以上の情状酌量を採用する余地がない」

AIに関する問題点は、

「分析や再構築ができても創造ができない」
「感情や心というのはAI開発段階で散々取り沙汰されてきた問題です」
「感情や嗜好をアルゴリズムに変換できたらというのはシステムエンジニアの見果てぬ夢です」

などです。
ようするに人とAIの違いは、感情と心、共感性、創造性などがあるかどうかなのでしょうね。
これから色々なところでAIが使われていくようになるのでしょうが、いくら便利だからといって考えたり悩んだりすることを放棄してはいけませんね。

それにしても重要な裁判に関するものなのに、中国の製品を導入するなんて、とんでもないことですよ。それに検証もせずに使いますか?
ちょっとこの点が不自然でした。
それに戸塚事件は始めから犯人が予測できてしまいました。
タイムリーでよかったのですが、中山さん、量産するよりも良い作品をお願いしますね。

堂場瞬一 『罪の年輪 ラストライン<6>』2024/03/19

刑事・岩倉剛が活躍する、「ラストライン」シリーズの六作目。


立川中央署刑事課強行犯係の刑事である岩倉剛は、捜査一課の理事官、宮下真に呼び出される。
一体何の用なのかといぶかしく思う岩倉に、宮下は自分は石本課長の名代で来たといい、そろそろ捜査一課に戻って欲しいと頼む。
犯罪に関する異常な記憶力の持ち主である岩倉は、彼の特異な能力を研究したいというサイバー犯罪対策課から逃れるため、都心を離れて所轄に勤務していた。
そろそろ本部で仕事をしてもいい頃合いだといえるが、岩倉は住めば都、立川もいいと思っていたので、返事は保留にしておく。

そんなある日、玉川上水で殺しが起る。
被害者は87歳の元小学校教師の小村春吉。
退職後、立川に家を構え、自宅を開放して、「小村塾」という名前で子どもたちに無料で勉強を教えていたという。
誰に聞いてもトラブルはなかったという。

しばらくして87歳の三嶋輝政が自首してきた。
しかし、三嶋は頑として動機を話そうとはしない。
一体二人の間に何があったのか?

やがて、六十六年前の砂川事件との関係が浮上してくるが…。

定年まで後十年。そろそろ定年を視野に入れて、これからの人生を考えなければならなくなった五十五歳の岩倉。
恋人の美里は日本にいるが、具合の悪い母親の世話をするために実家に戻っている。母親のことも含めて、二人のこれからのことを考えなければならない。
宮下に若い刑事に捜査のノウハウを伝えることをメーンにお願いしたいとは言われたが、岩倉はまだ現役でもいたい。
人生の岐路に立った岩倉がどういう答えを出すのかが、今回の読みどころです。

もう一つの読みどころは、岩倉と若手刑事のやり取りです。
最初に組んだ男の刑事の戸澤はとんでもない奴で、途中で岩倉は放り出してしまいます。可哀想ですが、仕方がないですね。
次に組んだ女刑事、平沼多佳子は優秀な刑事になりそうです。
次も彼女と組んでもらいたいです。

事件の方は、途中から動機がわかってしまい、「お願いだから違うと言って」と願いながら読むこととなりましたが、残念ながら、願いは叶えられませんでした。
悪事の隠蔽はよくない。
その後にどれほどの人の人生が狂わせられたことか。
胸クソ悪い事件でした。

シリーズではありますが、この本だけ読んでも問題ないので、興味を持ちましたら、是非読んで見て下さい。

とりあえず、今までのものを載せておきます。
①『ラストライン』(2018年)
⑦『罪の年輪 ラストライン6』(2024年)


<今週の美味しいもの>


イギリスのコーンウォール名物のパスティ。
思うに、イギリスのはもっと大きいのではないでしょうか。
これでは鉱山で働く人たちはお腹がいっぱいになりませんものww。
もう一種類、カレー味のがあったのですが、食べてしまいました。

堂場瞬一 『凍結捜査』2024/03/16

「捜査」シリーズの五作目。
わたしは間違えて、この本から読んでしまい、前の事件が気になったので、一作目に戻り、『検証捜査』を読みました。
読んでも知りたかったことは詳細に書いていないので、肩すかしを食わせられましたが。


一月のある日、道警函館中央署刑事一課の保井凛は、後輩の浅井真由の電話で起こされる。
大沼で殺しがあったというのだ。
非番ではあったが、たまたま函館に来ていた警視庁捜査一課の刑事、神谷悟郎を部屋に残し、凛は現場に駆けつける。

死体は後頭部から二発撃たれており、身元は免許証から判明していた。
平田和己、三十三歳。
名前を聞いてすぐに凛は平井が婦女暴行事件の容疑者だったことを思い出す。
事件は昨年の七月に起り、被害届が取り下げられたため、捜査は中途半端で終わり、その直後に平田は札幌から姿を消していた。

実を言うと、凛は暴行事件を担当した札幌の所轄の刑事から、平田が函館に来ているという情報を得ていた。
被害届を出した女性、水野珠希は事件後、函館の実家に戻っていた。
そのため凛は平田の所在を監察し、動向に注意を払うと共に、珠希に注意を促していたのだ。
珠希は平田の遺体が見つかった日の朝、書き置きを残し、姿を消していた。

捜査に進展はなく、季節は冬から初夏へと変わっていく。
そんな頃に、東京のホテルで殺人事件が起る。
被害者は後頭部に二発撃ち込まれているという。
神谷は函館の事件との類似点に気づく。
被害者は偽名で泊まっていたが、バッグにあった運転免許証から水野珠希であることがわかる。

凛は東京で道警と警視庁の連絡役となり、神谷は北海道へ飛ぶ。
事件は意外な様相を呈してくる。


ちょっとネタバレになりますが、高校時代まで北海道に住んでいたというのに、わたしは北海道の近代史や現代史のことはほとんど知りません。
もちろん、学校でも学びませんでした。
桜木紫乃さんの本を読んで初めてそういう過去があったのかと思ったのです。
北方領土なんて聞いても、自分とは関係ないと思っていましたもの(恥)。
ロシアとの関係は複雑で、計り知れないものがありますね。

函館の寒~い冬の様子がよく書かれています。
読みながら、昔、冬に函館に行って、坂道で滑りそうになったことを思い出しました。
北海道生まれ、それも冬に生まれたわたしですが、よく転びますwww。
雪の降る寒いところには二度と行きたくも住みたくもありません。
北海道の冬にサングラスが必要だと神谷が言っていましたが、その通りです。
眩しくて大変ですよ。特にわたしは緑内障ということもありますが。
外国の方が雪を見て喜んでいるといいますが、冬の暮らしを知らないからですね。
函館に行きたい方は春の雪がとけ、新緑が出た後にしましょうね。

こんなことが本当にあり得るのかと思うところもありますが、これ以上書くとネタバレになるので、止めます。
そうそう、支援課の村野さんが出てきて、凛に疎まれています、笑。
村野さん、可哀想。
永井さんがフランスに行かれるそうで、次はフランスでのお話みたいですね。
これから順番に二冊目から四冊目を読んでから、最終巻の六冊目を読もうと思いますが、ひょっとして、『検証捜査』を読んだ後なら二作目から五作目は読む順番が違っても問題ないのかもしれないですね。だから兄弟編ってわけかも。
凛と神谷の事件を詳しく知りたいので、番外編でいいので、書いて欲しいです。

堂場さんのシリーズ物は、外国物と比べると猟奇的なところがないので、安心して読めます。
このシリーズもオススメのひとつです。

堂場瞬一 『検証捜査』2024/03/11

「捜査」シリーズの一作目。


神谷悟郎は伊豆大島の大島署刑事課の刑事。
本土でしくじり、左遷されて二年以上になる。
暇潰しにいつものように釣りをしていると、部下の谷本が来て、警視庁の刑事部長から電話がかかって来たという。
谷本の携帯で電話をしてみると、特命だからすぐに戻って神奈川県警に出頭しろとのこと。

神谷を迎えたのが警察庁刑事企画課の永井理事官。
彼に連れて行かれたのが、古いビルの一室で、そこが特命班の捜査本部だという。
特命班のメンバーは他県警から集められた六人、警察庁の永井と警視庁の神谷、福岡県警捜査一課の皆川慶一郎、埼玉県警捜査一課の桜内省吾、道警刑事企画課の女性刑事、保井凛、大阪府警の監察官の島村。
永井によると、三年前、女性三人が連続して乱暴され、殺された戸塚事件が無罪判決になる見込みで、彼らはその事件の検証捜査をするという。

神奈川県警の妨害にも関わらず、だんだんと明らかになる神奈川県警の杜撰な捜査と隠蔽行為。
やがて戸塚事件が神谷の左遷のきっかけとなった事件と繋がりがあることがわかってくる。
一旦は諦めた神谷だったが…。

それにしても神谷はカッとなりすぎです。
一度で懲りずに、またやるとは、ちゃんとカルシウム取ってますか、笑。
大島に島流しになってから刺を失ってしまったとか言っているけど、そんなことないですよ。
訳ありの保井はツンツンし過ぎ。
そのまま行くのかと思ったら、何故か四十二歳のバツイチ中年男の神谷に心を許しちゃうなんて、ちょっと信じられません。
世の中の中年男性の望みを叶えているのかしらww。
神谷を追って大島まで行くのは、わたしなんかは不自然だと思いますけど。
まあ、話が進まないので、仕方ないですか。

などと文句を言っていますが、お話としては面白いです。
警察が本当にこんな感じだと、我々は困りますけどね。
このシリーズ、お勧めです。
わたしのように順番を間違えずにお読みください(またやっちゃったのよ、笑)。

一応出版された順番を書いておきますね。
①検証捜査 (2013年集英社文庫)
複合捜査 (2014年集英社文庫)
共犯捜査 (2016年集英社文庫)
時限捜査 (2017年集英社文庫)
凍結捜査 (2019年集英社文庫)
共謀捜査 (2020年集英社文庫)


<今日のおやつ>
甘い物は禁止とかいいながら、イチゴの美味しい季節ですので、ついつい食べてしまいます。


YATSUDOKIのイチゴのパフェみたいなもの。ちょっと物足りないかな?
某カフェのイチゴのパフェ、食べに行きたいわぁ。
行こうかな…。

水村舟 『県警の守護神 警務部監察課訟務係』2024/03/01

第二回警察小説新人賞受賞作。
第一回でも最終選考に残っていたそうです。


<第一部 H署地域課>
桐島千隼はメダリストでもある、元競輪選手の新人警察官。

ある日、女性の悲鳴が聞えたとの通報があり、千隼と牧島巡査部長はパトカーで出動する。
途中で少年が乗っているオートバイと出会う。
少年はパトカーの行く手を遮るように蛇行運転をはじめたが、バランスを崩し、倒れ、少年はオートバイから振り落とされてしまう。
千隼は牧島に止められたが、少年を助けに行くが…。

千隼が気づくと、そこは病院だった。
スマホで行くはずだった現場のことを調べてみると、駆けつけた女性警察官が拳銃を一発発砲したという記事があった。
防犯カメラに発砲の瞬間が写っていたらしく、動画がネット上に拡散していた。

バイク事故のことを調べると、バイク事故の現場に車が突っ込み、バイクを運転していた少年と、居合わせた警察官が撥ねられ、車は現場から逃走し、少年は搬送先の病院で死亡が確認されたという。

思ってもみないことが起る。
千隼が少年の遺族から、事故の責任を問われ、訴訟を起こされたのだ。
千隼は警察署内での勤務を言い渡される。
しかし、いつまで待っても本部の裁判担当は現れない。
千隼が警務部監察課の訟務担当係に電話をしてみると、警察学校の教官だった瀬賀俊秀警部補が電話に出た。
千隼は心身の不調を訴えているので、総務担当に面会させることができないと、副署長に言われたというのだ。
愕然とする千隼。

翌日、瀬賀と荒城巡査長がH署にやって来る。
荒城は裁判官から転職した、弁護士資格を持った警察官で、訴訟のプロだという。
彼の真実よりも勝利を求める強引なやり方に千隼はことごとく反発していくが‥。

<第二部 本部観察課訟務係>
千隼は瀬賀の後任として県警本部観察課訟務係に転属した。
ある日、裁判所から訴状が送られてくる。
訴訟代理人は丸山京子弁護士、訴えられたのは国田リオ巡査。
千隼が事故にあった日に向かっていた現場の事件だ。

瀬賀は勝つためには手段を選ばない。
千隼は不正には手を貸したくない。

調査を進めるうちに、発砲事件は千隼の事故とも関わっていることがわかる。
そして、次々と明らかになっていく、H署の隠蔽行為。
はたして千隼たちは勝てるのか。

民事訴訟というものは、真実でなくても、裁判官に真実だと思われればいいんですね。
「警察官の行為が違法認定された裁判例は、すぐに広まる。悪しき前例になる。こういうことをすると訴えられて負けるのか……と、警察官の行動を萎縮させるタネをひとつふやしてしまうんだ」、「俺たちは、ひとりの警察官を護るのと同時に、警察組織を、ひいては国民を護っている」と荒城が言うのもわかりますが、千隼と同様に頷けないものがあります。
民事訴訟は罪を裁くものではないというのはわかりますけど、それにしてもねぇ。

新人作家さんが書いたものとしては面白かったです。
でも、千隼や瀬賀、青山などの登場人物たちのキャラが今ひとつ魅力的ではなかったのが惜しいです。
第一回では瀬賀を主人公にしていたらしいのですが、考えなしに突っ走る千隼よりも瀬賀を主人公にした方が、書きようによっては面白いんではないかしら。
ひょっとして、コミカルなミステリを狙っている?
わたしはまっとうな警察小説が好きなので、このままコミカル路線でいくのなら、残念ですが、次は読まないかもしれません。
警察官に対する訴訟を取り上げるという発想は面白いんですけどね。


<今日のわんこ>


お座りして、遊んでくれと訴えているヨーキー。


兄は相変わらずグルグル回って、一人遊びをしています、笑。

今野敏 『一夜 隠蔽捜査10』2024/02/27



小田原署に行方不明者届が出る。行方不明者は北上輝記という小説家。
神奈川県警刑事部長・竜崎伸也のところに、わざわざ阿久津重人参事官が報告に来た。
そもそも竜崎は小説なんか読まないし、大きな文学賞を取った著名人かどうか、そんなことは関係ない。
竜崎のスタンスでは、誰であろうが、特異行方不明者であれば、すみやかに捜査するだけだ。
北上のファンである副署長が気づき、署長に報告し、あっという間に署内に広まったらしい。
竜崎は箝口令を引くように指示を出す。
しかし、その後、本部長に呼び出される。
本部長は誘拐かもしれないので特殊班(SIS)を動かそうと思っているという。
著名人というのは面倒なものだと思う竜崎。
マスコミだけではなく、身近にいるファンまでもが騒ぐのだから。

その夜、家に帰った竜崎は電話で呼び出される。
北上が車で連れ去られるところを目撃した者がいて、誘拐らしいというのだ。
捜査本部が発足し、SISの出番となる。

そこに誘拐事件の捜査の手伝いをしたいと、小田原市内に住む梅林賢という小説家がやって来る。
副署長曰く、梅林は北上と同じくらい有名だ。
課長は追返せというが、物好きな竜崎は会ってみることにする。

梅林はミステリを書いているエンタメ作家で、北上は文芸作品を書いているという。
梅林は北上の行方が気になり、出版社の文庫担当で、北上と梅林の両方を担当している赤井という編集者に電話をしたとのこと。
竜崎は警察から赤井に連絡を取ることにして、一応、梅林の携帯番号を聞いておく。

気になった竜崎は警視庁の刑事部長である伊丹に電話をして、北上と梅林のことを聞いてみると、もちろん彼は知っていた。梅林の大ファンだという。
彼に会ったことを言うと、伊丹は俺も会いたかったと言う。
伊丹は、杉並区久我山で起きた殺人事件の捜査で忙しいようだ。

誘拐事件の方は犯人から何も連絡はなく、誘拐の目的も、北上の安否もわからないままだったが、しばらくすると、SNSに北上が誘拐されたという書き込みがある。
その後、犯人を名乗る男から電話で、世間に誘拐のことを公表しろという要求が来る。

なんとも不可解な誘拐事件を、竜崎は梅林の助言を参考にしながら捜査していくが…。

竜崎、面白すぎ。東大を出てるけれど、小説なんか全く読んだことないそうです。
そもそも誰かのファンになったことがないそう。
驚いた本部長が「刑事部長、宇宙人じゃないよね?」なんて訊くんですから、笑。
伊丹刑事部長の方が人間的ですね。意外とわたし、伊丹刑事部長、好きです。
そうそう、奥さんに「他の仕事をやりたいと思ったことがないの?」と訊かれ、「ない」と即答しましたねぇ。
そして、「そもそも俺は、自分が警察官であるという前提で物事を考えている。だから、他の職業のことなど、考えたこともない」なんて。
う~ん、竜崎みたいな夫は、わたしは嫌だぞ。
「おまえは、俺が警察官であることに、何か不満があるのか?」と言われ、「ない」と答えた妻の冴子さん、最高ですwww。

今回、竜崎の家にある問題が起りますが、ここには書きません。
そうそう、大学とは何ぞやと思っている人に、いい言葉が出てきました。
要するに大学は「四年間居場所を与えられ」るところ、「何でも考えられる四年間」なんですね。
題名の『一夜』は小田原の「石垣山一夜城」から取ったようです。
詳しくは本に書いてありますので。

男性ファンの多い、隠蔽捜査シリーズですが、今回は理想の上司である竜崎の活躍が少なかったので、少し物足りなかったです。
『ジェンダー・クライム』とか『彷徨う者たち』のようなガチなものを読んだ後だったから尚そう思ったのかも。

夫とテレビドラマ化したとしたら、竜崎と冴子、どの俳優さんがいいかと話しています。
誰がピッタリでしょうね。

中山七里 『彷徨う者たち』2024/02/24

護られなかった者たちへ』、『境界線』に続く、宮城県警シリーズの第三弾。


2018年8月15日。
宮城県本吉郡南三陸町歌津吉野沢の仮設住宅で他殺死体が見つかる。
発見場所は出入り口がすべて施錠されていた。
密室殺人なのか?
被害者は町役場の仮設住民の担当者、掛川勇児。
吉野沢の住民は災害公営住宅への移転が進み、仮設住宅には三世帯しか残っていない。
宮城県警の笘篠誠一郎刑事と蓮田将悟刑事は、掛川と仮設住民との間に何かトラブルがあったのではないかと考え、捜査を始める。

蓮田は仮設住宅で幼馴染みの四人組の一人、大原知歌と遭遇する。
かつて蓮田と知歌、祝井貢、森見沙羅は腹違い四兄弟と言われるほど、仲がよかった。
しかし、彼らが高校三年の時に、蓮田の地方紙の記者である父親が、祝井建設を経営している貢の父親と呉竹県議会議員の収賄疑惑をスクープし、貢の父親と呉竹は逮捕された。
その後、呉竹の後釜になったのが沙羅の父親の森見善之助だった。
高校卒業後、蓮田は生まれ故郷の南三陸町から仙台市に引越しており、震災の被害は受けなかった。
蓮田は貢に負い目がある上に、震災で自分が家族も財産も何一つ失わなかったことに後ろめたさを感じ、家族を失った彼らと連絡を取れないでいた。
知歌は現在、NPO法人<友&愛>でケアマネージャーをしており、驚いたことに、知歌と貢は付き合っていたはずなのに、貢は沙羅と結婚したという。

捜査は難航する。
笘篠に二課に連れられていった蓮田は、仮設住宅が建っている高台は国が保証する一等地であるため、再開発が公になる前から、公共工事に関わる県議会議員と震災復興の公共工事に関わる地元建設業者の間で贈収賄が行われることがあるので、特定の何人かに注目しているということを聞く。
掛川が殺されたのは、再開発がらみなのか?

地元で大規模な工事を扱える業者といえば祝井建設。
そして、森見県議会議員と貢は義父と婿の関係。
蓮田は貢に会いに行く。

東日本大震災の7年後のお話。
辛い話しになると思ったので、なかなか読み進めていくことができませんでした。

今回の主人公、蓮田は被災者に対して負い目を感じながら生きているため、捜査中に家族のことを聞かれるたびに自分を卑下します。
それだけではなく、今回は友情と警察官としての職務の間で揺らぎます。
そんな蓮田は警察官として失格です。
しかし、そこはベテランの笘篠がわかっていて、そんな蓮田を見守りつつ、ここぞという時に、彼に警察官としての職務を全うするように迫ります。
本心を言うと、もっと笘篠さんに活躍してもらいたかったですわ。

貢とのことは仕方のなかったことだと思います。
その当時、貢が蓮田のことを許せないというのはわかります。
でも、貢は自分の父親のことをどう思っていたのでしょう。
会社の従業員を護るためには、たとえ犯罪だとわかっていても、バレなきゃやってもいいと思っていたのでしょうか。
貢のそういうところが甘いと思います。

被災地の復興に関して、わたしはよく知らないので、何も言えませんが、ただ被災者たちの気持ちに添った復興をしてほしいです。
復興に関して、こう中山さんは書いています。

「新しいものが生まれる蔭にはいつも破壊と消滅がある。そして大抵の者は消え去るものを歯牙にもかけない。(中略)国の方針だろうと大義名分であろうと、美名の下にささやかな願いが駆逐されていいとは思えない。ささやかな願いすら聞き届けられずに何が復興かとも思う」

宮城県警シリーズはこれで完結だそうですが、残念ながら前作に比べると少し物足りなかったです。
蓮田にそれほど感情移入できませんでしたし、ラストが今ひとつで感動できなかったのです。
まあ、震災後の復興の問題点がわかっただけでもいいとしますわ。
三部作だそうですので、是非『護られなかった者たちへ』から読んでみてください。


<今日のわんこ>


晴れたので、みんなでお散歩に行けました。
ママが花の写真を撮っていてみんなより遅れると、弟は何回も座り込んでママを待ちました。


河津桜(?)っぽい花が咲いています。


クリスマスローズも満開に近い咲きっぷりです。


梅はもうそろそろ終わりでしょうか。
明日は雨らしいので、わんこたちと家でまったりと過ごしましょうかね。

天童荒太 『ジェンダー・クライム』2024/02/21

「ジェンダー・クライム」とは「性にまつわる犯罪」。


裸で、両手を後ろに回され、両手首にガムテープを巻かれた状態で、道路から一メートル下の草地に、うつ伏せで横たわった中年男性の遺体が見つかる。
八王子南署に捜査本部が設置される。

八王子南署刑事課強行犯係の捜査員、鞍岡は本庁捜査一課の志波倫吏と組むことになるが、志波は初の捜査会議には出ず、立川大学の法医学教室にいた。
彼はレイプの可能性を指摘し、教授の磯永に調べてもらうと、遺体の肛門に擦過傷らしき痕があり、体内から小さなポリ袋が発見された。
その中には「目には目を」と書いた紙が入っていた。

まもなく遺体は佐東正隆、五十四歳のものと判明する。
佐東の息子の進人は準強制性交、つまり集団レイプの加害者だった。
三年前、十九歳だった進人を含めて四人が被害者の飲み物にレイプドラッグを入れ、犯行におよんだ。
四人のうち、余根田と楠元が暴行し、佐東と芳川は未遂だと否定していたという。
佐東は見張り役で、レイプドラッグを入れたと言われている。
全員が実行犯として検察に送られたが、起訴は見送られた。

怨恨のせんで調べることになるが、なぜ三年も経ってからなのか。
なぜ直接犯行に関わった奴らじゃないのか。
疑問は多い。

準強制性交の加害者たちと佐東進人の居所を突きとめ、話を聞き、被害女性と、その周辺の聞き込みをすることになる。

警察小説ではありますが、謝辞を読むと、天童さんがこのお話に込めた思いが明確にわかります。
この本は「ジェンダー」について書かれた、「ジェンダー」について考えるきっかけになる本です。
是非多くの人に読んでもらいたいと思います。

わたしが仕事に就いた頃は「ジェンダー」などという言葉はなく、職場では当たり前のようにお茶くみをやらされていました。
今でも覚えているのが、上司に「○○さんはお茶を入れてくれれば、何もしなくていいよ」とニコニコしながら言われたことです。
初めは冗談かと思いましたが、真面目にそう思っていたのです。
ちなみに仕事は男女差のない専門職でしたけどね。
何十年か経って、駅でばったり会った時に、彼はわたしを見て、実に嬉しそうな顔をしました。
アラ、わたしあの言葉を聞いてから彼につっけんどんな態度を取っていたはずですけど、笑。

本の中に、ある女性が<わたしの主人はわたしだから、夫のことを「主人」とは呼ばないことにした>というエピソードがありますが、わたしは昔に読んだ本の中に同じようなことが書いてあり、なるほどと思ったので、配偶者に「主人」とか「旦那」は使いません。

天童さんはこう書いています。

「そうした対等でない関係を裏に秘めた言葉を、無意識に使う(暗に求められている)文化が、女性や子どもが被害を受ける犯罪やハラスメントを生む要因の一つになっている…と言われても、多くの人は戸惑うばかりだろう。
 だが、言葉は、人の暮らしや社会の在り方を、縛ったり、ある方向へ導いたりする力がある。ささやかでも、呼び方一つの影響は小さくない。
 そんなことを鬱々と考えている日々のあいだにも、女性が被害に遭う事件が次々と起っていた。しかも、マスコミや一部の政治家・文化人は、加害者ではなく、むしろ被害者を責めるという、信じられないような不条理な事態も生じていた」

ジェンダー・ギャップはわたしの頃よりも少しずつよくなっていると思いたい。
でも、「ジェンダー・ギャップ・レポート2023」で日本は146ヶ国中125位です。
男女平等を阻む社会的、文化的なものがまだ根強く残っているのでしょうね。
わたし自身のジェンダー・バイアスとの戦いも続きますww。

ジェンダーなどと聞くと、拒否反応を持つ人がいるかもしれません。
性暴力は「魂の殺人」と言われており、書かれている被害者の痛ましさに目を覆いたくなるかもしれまん。
それでも、警察小説としてもいい線行っていると思いますので、一読の価値はあります。

わたしは主人公の鞍岡と志波のペアや、ここには紹介しませんでしたが、生活安全課の依田課長と館花未宇巡査のその後を読みたいです。
最後は何とかうまくおさまりましたが、根本的なことは何も解決していませんし、彼らのキャラが好きなんです。
天童さんはミステリ作家ではないので、これが最初で最後になる可能性が強いですけどね。

わたしの今年のベストになりそうな本です。
そうそう、天童さんが影響を受け、この本を書くきっかけになったらしいレベッカ・ソルニットの『説教したがる男たち』も読んでみたいと思いました。