夢枕 獏 『沙門空海唐の国にて鬼と宴なす(一)~(四)』2011/01/25



空海といえば、奈良時代末期に30歳で唐に渡り、わずか2年で密教の本山青龍寺で僧侶恵果により密教の全てを伝授され、帰国後高野山で真言宗密教を開山した人です。語学の天才で筆の達人。
この本は彼が唐の長安に暮らした二年間のことを書いたものです。

空海は独学で唐語を学び、唐に渡った時には唐人と同じように唐語が話せました。唐に渡る費用をどうやって集めたのかわかりませんが、同じ頃最澄が国から金をもらい唐に渡っているのとは違い、私費で唐に渡っています。

貞元二十年(西暦八〇四年)、入唐した空海は長安の西明寺に滞在し、最短の期間で密教を学ぶために、唐語と梵語(サンスクリット語)を学び始めます。
一緒の船で唐に渡った橘勉勢を友に、長安中を歩き、妓楼に出入りし、唐人や胡人と親しみ、名をはせることになります。

その頃、長安では不思議なことが起こっていました。
役人劉雲樵の屋敷が猫の妖物にとりつかれ、猫は皇帝の死を予言します。妻を猫に寝取られ、劉雲樵は正気を失っていました。
徐文強の綿畑では夜な夜な不思議な声が聞こえます。
宮廷では妙なことが起こり、順宗皇帝は呪により瀕死の状態になってしまいます。

50年前の楊貴妃と玄宗皇帝の物語がどう空海と関わっていくのか。意外な展開です。

「長恨歌」の作者の白居易、李白、阿倍仲麻呂など歴史で同じみの人たちも登場します。

本を読んでわかったのは、空海は日本だけで通用する人ではなく、もっと器の大きな国際人でもあったのです。夢枕さんはこう彼のことを書いています。

「世界を今日的な感触を持った宇宙として捕え、自分という人間を、宇宙に対する個として捕えることのできる、抽象的な思考能力を」持っていた。

東寺の五重塔の中を見た時に不空の肖像画がありました。いい名前だなと思ったので覚えていました。この本を読むと不空も出てきて、彼が空海に密を教えた恵果の師であったことがわかりました。東寺は空海に縁があったんですね。
空海は不空の生まれ変わりだという説もあるそうな。

四巻もあるので、長そうだと躊躇するかもしれませんが、すぐに読めてしまいます。夢枕さんはこの本を自画自賛していますが、17年間もかかって書いたそうですから、仕方ないでしょう。

空海の大きさに触れてみませんか?