ピータートレメイン 『サクソンの司教冠』2012/04/08



七世紀アイルランド王国の王女にして、法廷弁護士(ドーリー)の資格を持つ修道女、フィデルマ・シリーズの長編です。

今回の本は、私は行ったことがないのですが、ローマのガイドブック的な役割もしています。というのも、フィデルマがローマに滞在し、町を駆けずり回るのです。それも密かに彼女が心を寄せている修道士のエイダルフと共に。

実はこの本には一作目のウィトビア教会会議のことを扱った『死をもちて赦されん』のすぐ後の出来事が書かれています。
記憶力のよくない私なので、どの順番で書かれたのかは全く関係ないのでいいのですが(笑)。

フィデルマは、ウィトビア教会会議で起こったキルデアの修道院長殺害事件を一緒に解決したエイダルフ修道士が随行員として加わっている、カンタベリー大司教指名者ウィガード一行と同行してローマに来ていました。
彼女の役目は「所属する修道院の『宗規』に教皇の認可と祝福をいただく」ことでした。
すぐに任務が終わり、アイルランドに帰れると思っていたのですが、なかなか物事はうまく運びません。

”カンタベリーのウィガード”が自室で殺され、長櫃からは数多くの高価な品々がなくなっていました。
部屋の辺りにいたアイルランド人のローナンという僧が逮捕されます。
事件の扱いを損ねると、サクソンとアイルランド双方の争いの元となり、武力衝突が起こり、必然的にローマも渦中に引き込まれてしまう可能性があります。
そういう事態を避けるため、教皇はウィトビアの事件を解決へと招いたフィデルマとエイダルフにこの事件の調査を依頼します。

エイダルフと共に事件を解決したといいたいところですが、まだ若いフィデルマですから、ローナンの容疑を疑うこともしないエイダルフの言うことなどに耳を傾けません。彼女は自らの直観や思考に基づき行動していきます。
訳も分からず、フィデルマに振りまわされるエイダルフと彼らの世話をすることになったリキニウス小隊長がかわいそうですねぇww。

おもしろく思ったのが、ローマとアイルランドの女性の地位です。
ローマでは女性は職業に就かず、男性の補助的なことしかしていません。
フィデルマのように男性と同等に考え、発言し、行動する女性などいません。
法律も男性に有利になっています。
七世紀のアイルランドって進んでいたのですね。

フィデルマらしい言葉を載せておきましょう。

「一度も敵を作らない人間には、友人も決してできませんよ。敵を見れば、当人がどういう人間か、わかります。私は、むしろ、どういう友を持っているかではなく、どういう敵を持っているかで、私という人間を評価してもらいたいと思いますわ」

20代後半のまだ初々しいフィデルマです。