小川糸 『喋々喃々』 ― 2011/09/01

『食堂かたつむり』を書いた小川糸さんの二作目です。帯の「谷中」という文字に惹かれて借りてみました。
「喋々喃々(ちょうちょうなんなん)」とは「男女がうちとけて小声で楽しげに語りあう様子」だそうです。
この本を読みながら、川上弘美さんの『センセイの鞄』を思い出しました。本の中に流れている雰囲気がなんとなく同じに感じたのです。
谷中でアンティークきもの店「ひめまつ」を営む栞と、お店に初釜で着るきものを探しに来た木ノ下春一郎さんとの恋物語です。
二人でデートをする谷中や湯島など、ア、ここ知っている、というところがいっぱいです。
食べ物では桃林堂の五智果、鈴木精肉店のメンチカツ、千駄木倶楽部のあずきオ・レ、イナムラショウゾウのシュークリーム、芋甚の小倉アイス最中、香味屋のメンチカツ・・・。
観光地では上野東照宮の冬牡丹、諏訪神社の夏の大祭、谷中霊園の桜、全生庵の幽霊画、上野動物園の「真夏の動物園」、不忍池の蓮、朝倉彫塑館、大円寺の菊まつり、浅草浅草寺淡島堂の針供養・・・。
私の知らなかった小路もあります。
この本、一冊を持って谷中を歩くのもよさそうです。
「人を好きになるとすべてが反転してしまうことを思い出した。永遠と感じていた景色が儚く、幸福だと思っていたことが切なくて、物悲しくなる。世界中のありとあらゆるものが裏返って、すっかり入れ替わってしまったようだった」
ただ一緒に歩くだけでいい。ただ一緒に食べるだけでいい。
二人で過ごす時間をどれだけ積み重ねていけるのか、切ないほどに望んでいた思いを忘れていました。
今は恋よりも食い気。
湯島の「TIES(タイズ)」のミルクティーとオザワ洋菓子店の苺シャンデをいつか食べに行きたいと思いました。
そうそう、谷中においしいパン屋がないというのは本当です。
ちょっと普通ではない二人の恋は、御伽話のようです。
「私にとって春一郎さんは陽だまりだ」と栞は言っています。
「陽だまり」のような人ってどんな人なんでしょうね。
浅草は男性的で谷中は女性的だという表現がありましたが、谷中は「陽だまり」のような所でしょうか?
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