澤田瞳子 『星落ちて、なお』2021/07/21

2021年第165回直木三十五賞受賞作品。
一般的に直木賞と言われていますが、通称なんですね。
(ちなみに芥川賞も通称で、正式には芥川龍之介賞です)
直木賞は「毎年、春秋の二回、すぐれた大衆文学を書いた新進もしくは中堅の作家に贈られる」賞のようです。(「精選版日本国語大辞典」による)
もう一作の『テスカトリポカ』はエグいお話らしいので、文庫本になったら読もうかと思います。図書館では予約が300以上なのですよ。


河鍋暁斎没後の娘・とよ(暁翠)の人生を描いた話です。

一応父の河鍋暁斎のことを載せておきます。
天保2(1831)年に今の茨城県古川市に生まれ、7歳で歌川国芳に浮世絵を学び、その後狩野派の前村洞和と洞和の師匠白陳信に師事。
安政4(1857)年に独立し、狂斎と号し、狂画、風刺画などを描く。
明治3(1870)年、書画会で描いた戯画が原因で投獄され、出獄後に号を暁斎と改める。
1881年第2回内国勧業博覧会に出品した『枯木寒鴉図』が妙技2等賞を受賞。
狩野派を土台に浮世絵を交え、高い写実力で知られる。奇行・奇談に富んだ酒豪家としても知られた。
代表作は『地獄極楽図』、『花鳥図』、『山姥図』など。
(「ブリタニカ国際大百科辞典」より)

             河鍋暁斎  ≪地獄極楽図≫

享年59歳で暁斎は亡くなり、弟子の酒問屋・鹿島屋の八代目・鹿島精兵衛が葬儀の支度から僧侶の手配までの一切を取り仕切っていた。
暁斎は娘のとよと体の弱いとよの妹のきくと暮らしていた。
暁斎の子は嫁いだとよの姉のとみと養子に出した弟の記六、そして兄の周三郎がいる。

周三郎は暁雲の画号を持ち、本郷大根畑の家に暮らしている。
彼は母親が産後の肥立ちが悪く亡くなったため他家に養子に出されたが、養子先の父母と反りが合わず、17歳で戻って来てから暁斎に弟子入りした。
暁斎の奔放さを引継いでおり、墨絵を描かせれば、門下で右に出る者はいないほどだった。
ところが養子に出されたことを未だ根に持っているのか、暁斎死して今も暁斎たちによそ者扱いをされたとか色々と難癖をつける。
暁斎の残した遺品もとよたちに断りもなく売ってしまおうとする。
とよには、暁斎が北斎のように、自分の片腕として使える葛飾応為みたいな女絵師を持ちたくて、お前に絵を仕込んだとまで言う。
とよはそれは違うと言えない。

明治となって以来、日本の絵画界は大きな変革を遂げていた。
西洋から流入した油絵がもてはやされ、狩野派は黴臭いものとみなされた。
西洋画法に見られる色彩や遠近法をどう導入するか、新しい日本画の模索が始められていた。
それなのに周三郎は何一つ変らぬ絵を描き続ける。

             河鍋暁雲 ≪カラスの図≫

とよはとよで偉大な父を超える才を持っていない自分を十分自覚していた。
それ故、兄の自らの筆に対する自信と強さ、不器用さを、どれほど羨ましく思ったことか。
それでもとよは筆を投げ出すことができなかった。
縁あって結婚し、娘を産むのだが…。

自らを「画鬼」と称した暁斎ですが、子たちは父を超えようとしても、超えられず、もがき続け、特に周三郎は父に執着し過ぎたため空しい最期だったようです。
時代にこびろとは言いませんが、父から独立し、もう少し柔軟に自分の描くべき絵を追求していけなかったのでしょうか。
カラスを見ただけで、画才があるのがわかるだけに残念です。

暁翠は美人画を得意としたそうです。

           河鍋暁翠 ≪五節句之内 文月≫

もう一人の偉大な父を持った絵師と言えば、本にも出てきた葛飾応為ですが、彼女の絵と比べるとスケールが小さく、小粒という感じです。
本人の性格によるのか、応為の方が伸び伸びと育ち、父親にそれほど依存していなかったみたいです。
葛飾応為について知りたい方は、朝井まかての『眩(くらら)』を読んでみてください。

直木賞を取ったというので、読んでみましたが、私には『火定』の方が読み応えがありました。

コメント

_ ろき ― 2021/07/22 00時38分43秒

父が偉大だと大変な場合もありますね。
なんとなくですが、娘より息子のほうが苦しむ気がする。親子関係によりますけど。
応為は別格で、彼女も天才肌だと絵を見て感じます。
この作、とりあえずさわりのサンプルだけダウンロードしてみました。

_ coco ― 2021/07/22 10時48分53秒

ろきさん、そうですね。同性同士だとどうしてもライバル関係になってしまうのでしょうね。その点、父と娘は異性なので、協力関係が築きやすいのかもしれませんね。
直木賞を取りましたが、内容としては物足りなく感じました。
直木賞って長く書いていた人にご褒美としてあげる賞に近いのかもしれませんね。

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