乃南アサ 『マザー』2024/10/02

五つの短編集。


「セメタリー」
藤原岬樹は自分の家が「ちびまる子ちゃん」に似た家族だと思っていた。
しかし、最初に兄が、その数年後に姉が大学進学と共に家を出ていき、そして一番下の岬樹も大学に入り、上京した。
そんな家に祖父母と父と母が残っていた。
やがて祖母に介護が必要になり、祖父もボケてきた。
心配する岬樹たちに母は大丈夫だから家に帰ってくるな、自由に好きなように生きなさいと言う。
程なくして祖父、祖母、そして父までもが亡くなる。
コロナ禍も終わり、岬樹は久しぶりに田舎に帰ってみた。
すると、うちの墓がない。

「ワンピース」
冴子の兄は元医師。過労から鬱病にかかり、離婚し、仕事もせず、母と暮らしていた。
昨年、母が亡くなり、遺産放棄をして欲しいと言う連絡があり、冴子は同意する。
そろそろ母の一周忌だというころに、兄から再婚したという連絡がある。
相手は会えばわかるからと、どこの誰だか教えてくれない。
冴子が一周忌の法要の前日に兄のマンションに行ってみると、そこにいたのは…。

「ビースト」
柏木美也子のところに縁を切っていた娘の和美から電話が来る。
住んでいるアパートを追い出されることになり、二人の息子がいるというのに、行き場がないと泣いて言うのだ。
よせばいいのに、ついつい越してくることを承諾してしまう。
越してきたらきたで、生活がとんでもないことに…。

「エスケープ」
上川陽希は母の胎内にいるころから、何故かわからないが、「早く。早く。早く、この女から逃げなきゃ。そばにいてはいけない」と思っていた。
大きくなって気づく。何故かを。

「アフェア」
瀧本は定年延長の期間が切れた途端に、妻に離婚を切り出され、退職金と年金の半分と養育費まで取られ、今はマンションの管理人をして暮らしている。
ある日、佐野という女性から結婚する娘が引越しをするので駐車場を使ってもいいかと尋ねられる。
翌日、娘は越していき、佐野は一人暮らしを始めるが、それから一ヶ月が経つか経たないかの頃から佐野の雰囲気がガラッと変わる。
しばらくして、同じマンションの男性たちと親密な交際をしているという噂が聞えてくる。
心配した娘や息子がやって来るが、佐野の行動はおさまらない。
しかし、ある日…。

心の底からぞくぞくするお話です。
長年、母はこうでなくてはいけないという呪縛に囚われてきて、その咎が外れた女は怖い。
我慢は美徳ではないです。
とにかく私は「アフェア」の佐野さんにあっぱれと言いたい。

お勧めですが、読後感はモロ悪いです。
マザコンの人や母に絶大なる幻想を持っている人は読まない方がいいかもww。