ちょっと変わった女の子の映画 ― 2023/07/01
育った環境からか、なかなか人と上手く関わることができない20代の女性の映画を見ました。
まずはアメリカの小説を映画にした作品。

ノースカロライナ州の湿地で男の死体が見つかる。
「湿地の少女」と呼ばれている少女・カイアが疑われ、逮捕される。
弁護士のミルトンが彼女を弁護することになる。
カイアは6歳の時から湿地で一人で暮らしている。
母は暴力をふるう父を捨てて出ていき、その後兄も姉も父との同居に耐えきれずカイアを置いて出ていってしまう。
カイアはできるだけ父と接しないようにしていたが、ある日、父もいなくなってしまう。
カイアは雑貨店を営むジャンピンとメイベル夫妻に助けられながら、一人で暮らしていく。
成長したカイアは湿地帯の森で再会したテイトに読み書きを教わる。
カイアは彼に恋心を抱くが、テイトは大学進学のために町を出て行かなければならなかった。
テイトはカイアが描いている湿地帯の生物たちのイラストに出版社が興味を持つだろうと言って出版社の住所を置いていく。
しかし7月4日に戻ると約束したのに、テイトは戻ってこない。
町の有力者の息子・チェイスがカイアに興味を持ち近付いてくる。
孤独なカイアは彼に心を許してしまう。
町に帰って来たテイトはカイアとチェイスの姿を見かけ、心配し、カイアに会いに行く。
怒りに駆られたカイアはテイトに石を投げつける。
テイトはチェイスはダメだとカイアに言うが、カイアは聞こうともしない。
町でカイアはチェイスに偶然出会うと、そばに女性がいた。
なんとその女性はチェイスの婚約者だというのだ。
チェイスに騙されていたと気づいたカイアは彼と別れようとするが、彼はしつこく彼女を追いかけ、果てには暴力を振るうようになる。
そんな時にチェイスの死体が湿地で見つかる。
それにしても人間は醜いですね。
母親は仕方なかったとはいえ、兄や姉たちは自分たちのことしか考えず、カイアを父の元に残して出ていき、町の人々は彼女のことを「湿地の少女」と言って見下してほっておいたのですから。
チェイスはチェイスでカイアのことを軽く見ていて、カイアが気づかなかったら婚約者と結婚していたでしょう。
カイアが何を言おうが町の人々は信じないでしょうし、カイアは母のようにチェイスの暴力に怯えるようになったでしょう。
彼女が湿地で生き残るためには、どうすればよかったのでしょうか…。
湿地帯の自然が美しい映画です。
映画では妙にカイアの服装がきれいなところにちょっと違和感がありました。
先に小説を読んでいたので、最後にそれほどの衝撃はありませんでした。

デンマーク映画が珍しかったので、見てみました。
クリスは両親を亡くしてから叔父と農場を営みながら暮らしている。
高校を卒業するときに叔父が脳梗塞で倒れたため、叔父の介護もしなければならない。
毎日のルーティンは決まっている。
朝起きて酪農の仕事をし、夜は叔父とテレビを見たり、スクラブルをしたりして過ごす。
かつてクリスは獣医になりたいと思っていた。
そのことを知っている獣医のヨハネスはクリスに獣医学の本を貸してくれたり、診察に連れて行ってくれる。
ある日、教会でマイクと出会う。
彼からデートに誘われるが…。
なんのこともない日常生活が淡々と描かれている映画です。
叔父さん、よく食べるわね。何回もムシャムシャとパンを食べる場面が出てきます、笑。
マイクと出会いデートをしたり、獣医にコペンハーゲンに連れて行ってもらったりしますが、クリスは最後まで自分の世界を守り抜き、叔父との生活を崩そうとはしません。
幼い頃に両親が亡くなったこと、特に父親が自殺で急にいなくなったことが、トラウマになっているのでしょうね。
それはわかりますが、新しい世界に踏み出せない彼女にイライラしました。
マイクなんかかわいそうですよ。デートなのに、叔父さんまで来ちゃうんですから。普通なら一回でアウトですよ。
それに叔父さんが倒れた時に親身になってくれているのに、クリスはとんでもないことをします。びっくりですわ。
この映画も風景や農場の様子が綺麗な作品です。
「ザリガニの鳴くところ」と同じように誰にでもお勧めできる映画ではないです。
内容にあまりこだわらず、美しい映像を見たいという方向きです。
<今日のわんこ>

ベッドの上にタオルケットなどを敷き詰め、兄をのせておくと、早速プードルちゃんをイジメ始めます。
ママの膝の上では静かに寝ているのに、なんで一人で静かにしていられないのでしょうね。
畠中恵 『忍びの副業』 ― 2023/07/03
「しゃばけ」シリーズを書いている畠中さんの新刊です。

時は江戸幕府の第十代征夷大将軍の徳川家治の時代(在任1760ー1786年)。
戦国の世、甲賀者は伊賀者と並び活躍していたのに、今や傘張りの内職をしながら百人番所などの役目を務める存在に成り下がっていた。
甲賀忍びの末裔の滝川弥九郎は番所に一日座っているだけの暇をもてあます日々に鬱屈した思いを抱いていた。
忍びの技はひっそりと伝えられているが、それを使って何かをなす機会もない。
余力がある使わない忍びの技は廃れていくばかりで、忍びであり続けるには、忍びの仕事をしなくてはならないのだ。
ある日、上忍の弥九郎と十郎、蔵人の三人は江戸城の表右筆に屋根の上での失せ物探しを頼まれる。
このことがきっかけとなり甲賀の忍びたちは将軍家治のただ一人の和子、西之丸様(家基)の警護役として取り立てられる。
甲賀者たちは一族あげて西之丸様をお護りする決意を固める。
しかし忍びに対する信頼は薄く、やれ甲賀は毒使いだのなんなのと疑われたり、弥九郎たちが何者かに狙われたりと、次々と不穏な事件や事故が起り続ける。
はたして彼らは使命を果たすことができるのか…。
忍びたちが力を持て余し、副業として何かないかと考えるなんて、笑ってしまいました。
ちなみに弥九郎の得意技は打鉤で四本の打鉤を自在にあやつり、十郎は首飾曲玉秘伝占術、蔵人は火薬を使った技だそうです。どういう技か興味を持った方は本を読んでくださいませ。
今も忍びがいたら面白いのですけど、もう秘伝の技を扱う人はいないでしょうね。
意外なお話でそれなりに面白くはあったのですが、如何せん上下に分れていて長く、上巻が読みずらかったのですが下巻はスッと読めました。もっと凝縮してもよかったかも。
三人組の若者はいいキャラしていました。彼らの活躍をもっと読んでみたいと思いました。
シリーズになったら読むかも。
夫がカマキリがいるから写真に撮るようにと騒いでいたので、写真に撮りました。

とても小さなカマキリで1㎝あるかないかです。
赤ちゃんなのかしら?
真紀涼介 『勿忘草をさがして』 ― 2023/07/04
3月下旬から通っていた歯の治療が終わりました。
虫歯は一本だけなのに、なかなか予約が取れず、こんなにかかってしまいました。
治療が終わった途端にホッとしたのか、マスクも眼鏡も忘れて帰ろうとしてしまいました、笑。
歯医者って大嫌いなんです。
四ヶ月か五ヶ月後にチェックに来て下さいとのことなので、面倒ですが(たぶん)行くことにします。

第32回鮎川哲也賞優秀賞受賞作。
植物に関する謎解きのお話ですが、少年の成長物語と言った方がいい作品です。
高校二年生の森川航大はあるトラブルから不本意ながらサッカー部を辞め、それを境に大人たちに不信感を持ち、無気力な生活を送っていた。
ある日、一年前に出会ったお婆さんを探してお礼を言おうと思い立ち、出かける。
「春の匂い」
お婆さんの家はなかなか見つからない。
そんな時に道行く男性に教えてもらった家に行くと、素晴らしい庭があり、その庭の持ち主の園原菊子という人懐っこくておしゃべりなお婆さんと知り合いになる。
彼女に庭に綺麗な沈丁花が咲いていて、お婆さんがひとり暮らしの家を知らないかと聞くと、孫の拓海が知っているのではないかと言う。
拓海は身長が190㎝はありそうな仏頂面の大学生で、彼がこの美しい庭の手入れをしているという。
拓海は航大の話を親身に聞き、一緒に家を探してくれた。
それから菊子に気に入られた航大はお茶に招かれるようになる。
「鉢植えの消失」
航大は友人の美化委員の代わりに校内の鉢植えの水やりをするようになる。
文化祭が近付いた頃、航大は学校の手洗い場に置いてあった鉢植えが少しずつ消えていっているのに気づく。
菊子の家にお茶を飲みに行った時にその話をすると、菊子と拓海は一緒にその謎について考えてくれる。
「呪われた花壇」
友人の陸から、四年前に祖父が亡くなってから母親が育てている花壇の花たちが元気がなく、花付きが悪くなったと相談される。
祖父がかつて見たこともない恐ろしい顔でその花壇の花を踏み潰していたという。
陸は祖父の呪いかなにかではないかと恐がっている。
早速航大は自分でも調べてみた上で拓海にも相談してみる。
「ツタと密室」
友人の将人に漫画を返しに行った時に航大は将人の母親から不思議なことを聞く。
草刈り機を物置から取ろうとしたらツタで覆われていてドアが開かなかった。
たまたま出会った将人の小学校時代の同級生が草刈り機を取ってきてくれた。
しかしその翌日に物置の方を見ると、相変わらずドアも窓もツタで覆われており、どうやって草刈り機を取ったのか不思議だというのだ。
興味を持った航大は物置を見に行く。
「勿忘草をさがして」
菊子によると四年前から十月の下旬頃に妙な郵便物が届くという。
送り主は不明で宛名も『園原様』だけで、封筒の中身はランタナの押し花栞だけが入っているそうだ。
その頃、拓海の様子がおかしい。
菊子に相談すると、航大から拓海に話を聞いてほしいと言われる。
航大は拓海に連絡をし、話を聞くことにする。
無為に時を過ごしていた航大が菊子と拓海と出会うことにより、一歩前に踏み出していくという青春小説です。一応ミステリということになっていますが。
本格的なミステリを望む方は読まない方がいいでしょう。
青春とか家族とかを描いた小説が好きな方なら気に入ると思います。
私は暑さがおさまったらどこか綺麗な庭を見に行きたいなと思いました。
近藤史恵 『幽霊絵師火狂 筆のみが知る』 ― 2023/07/05

江戸が東京になってしばらく経った頃、料理屋「しの田」の二階に、有名な絵師の火狂が居候をすることになる。
彼は見えないものを見、怖い絵を描く。
彼のところに来る客は、何やら曰くありげな絵を持ち込む。
「しの田」の一人娘の真阿は十二歳の時から胸の病だと言われ、部屋から出ることを禁じられていた。そのため彼女の友は絵草紙や赤本だった。
二階に火狂が来たと聞き、好奇心を抑えられず、真阿は彼に会いにいく。
それからの真阿は火狂の描いた絵と共鳴するように不思議な夢を見るようになる。
ちなみに火狂こと興四郎の描いた「怖い絵」は裃を着ている犬の絵、火鉢の横で、猫を抱いている女の絵、上の方を見上げている少年の絵、白い打ち掛けを着た夜鷹の絵などです。
文字にするだけでは怖いと思えませんけど、絵に関係のある人にとってはとても怖い絵なのです。
幼い女の子だといって真阿を馬鹿にしないで、きちんと向き合っていく興四郎に好感が持てます。
興四郎の母と姉のことが出てきましたが、葛飾応為や河鍋暁翠などを思わせられました。
一応ホラーですが、全く怖くありません。
幽霊よりも生きている人間の方が怖いですよね、笑。
人間の性とか悲しみとか色々と考えさせられるお話です。
題名から続きがありそうですね。楽しみに待ちますわ。
三浦しをん 『墨のゆらめき』 ― 2023/07/06

今頃、紫陽花の写真は合いませんが、気分的に涼しくなるように(ならないか)。
それにしても梅雨はどこに行ったの?
図書館の予約本がどっと届いたので、急いで読んでいます。
やっと後二冊になり、ホッと一息。
映画でも見に行こうかとも思ったのですが、暑くて止めました。
東京に住むのが長くなったので、暑さに慣れるかと思ったら未だ慣れません。
この頃汗の量が半端なく多く、黒や濃紺以外の服が着られなくなりました。
暑くて運動もやる気が出ず、体重が3㎏ぐらい増えました。
涼しくなる10月まで、極力体重を増やさないようにしなくては…。

よく人に話しかけられるという特技を持つ続力は西新宿にある「三日月ホテル」に勤めるホテルマン。
お客さまのあらゆるご要望に応えるべく誠心誠意尽くしている。
ある日、続は招待状の宛名書きを頼むために、遠田薫という書道家の家を訪ねなければならなくなる。
遠田は書の技術は一流だが、性格は人懐っこいがとりとめがないという男。
遠田にのせられ、続は遠田の副業である手紙の代筆を手伝う羽目になる。
もちろん遠田が字を書き、続が文面を考えるのだ。
遠田とはただの取引相手だから始めは付き合う気はなかったが、いつしか続の足は遠田の家に向かうようになっていく。
ところが、友だちのような存在になろうという時に、遠田から筆耕士の登録を解除してほしいというメールが届く。
衝動的に遠田に会いに行った続は、遠田の隠された過去を聞いてしまう。
この本はAmazonのAudible(朗読)との共同企画の作品だそうです。
読むよりも耳で聞いた方がいいのかもしれません。
私、耳の集中力がなく、途中で他のことを考えてしまいそうなので、Audibleは聞きません。
聞くことが苦にならない方は聞いてみてください。
お試し期間があったような…?
『舟を編む』や『愛なき世界』のような真面目な、書道家か水墨画家のお話かと思ったら、全く違いました。
男友だちのお話で、芸術がどうのこうのというものではないです。
遠田の過去が重いですが、どちらかというと、コメディタッチ。
しをんさんのエッセイ集が好きだったり、BLとかが好きな方に合うお話だと思います。
私は嫌いではないですが、『舟を編む』風のお話が読みたかったですがね。
俳優の金子信雄さんに似た猫のカネコが出てきます。
どんな猫なのか、とても見たいですわwww。
兄犬、オーブンミトンで遊ぶ♫ ― 2023/07/07
いつも弟とはおもちゃの持って来いをしますが、この頃兄が割り込んできます。
ママの左手を獲物と見なして襲って来るのです。
右手で弟のおもちゃを持って投げ、左手で兄の相手をし、ママは大変です。
兄に噛まれないようにオーブンミトンをつけて対応していると、ミトンが脱げました。
そうすると、すかざず兄が口にくわえます。

兄は口にくわえると離しません。

取ろうとすると、逃げます。
面倒なので、しばらく経つと追っかけるのを止めます。

弟は兄が楽しそうにしているので、おもちゃをほったらかしにしてミトンを取ろうとします。

弟は兄が好きなので、一緒に遊ぼうとしますが、兄が嫌がります。

怒っている兄。(動くので写真が…)
トリマーさんのところでは仲良く遊ぶこともあるそうですが、家では別々に遊ぶことが多いです。
一緒にしておくと、弟は兄を押しのけて、ちゃっかり面白そうなおもちゃを奪い、いい場所(兄のベッドとかママの膝の上)を独占します。兄は弟に負けてます。
そのままにしておくと兄のストレスが溜まりそうなので、パーソナルスペースを分け、クレートもベッドもトイレも別々にしています。
何やら人間の兄弟と似ているような気がします、笑。
西條奈加 『隠居おてだま』 ― 2023/07/08
『隠居すごろく』の続編。

徳兵衛は巣鴨村に隠居家を構え、風雅な余生を送ろうと思っていた。
ところが孫の千代太のおかげで隠居家では徳兵衛が手がける組紐屋『五十六屋』と孫たちが営む子ども商い『千代太屋』、妻のお登勢が師匠を務める『豆堂』という手習い所まで開くようになってしまう。
それなりに充実した隠居生活ではあるが、商いにばかりに目がいく徳兵衛は自分の家族の非常事態に気づかないのだった。
詳しくは書きませんが、出戻り娘のお楽がとんでもないことをしてしまいます。
頑固者の徳兵衛はそういうことが大嫌いで、許せないことを家族たちはよくわかっています。
そのため徳兵衛に内緒にして丸く収めようと考えるのですが、うまくことが進まず、徳兵衛にバレてしまいます。
徳兵衛は自分の性格のせいで周りがそうしたのだとはわかっていますが、どうしても腹の虫が治まりません。
徳兵衛さん、意地を張るのもほどほどにしましょうね。
今回は何回かホロリとくるお話でした。
まだ解決されていないことがあるので、続きがありそうです。
すごろく→おてだまと来たので、次は何かしら?
徳兵衛さんの隠居生活はまだまだ波瀾万丈のようです、笑。
西條奈加 『とりどりみどり』 ― 2023/07/10

万両店の廻船問屋『飛鷹屋』の末弟・鷺之介は十一歳。
母は六歳の時に亡くなり、父は店商いを番頭や長男に任せ、自ら船に乗り、各地に赴いているため年に一、二度しか会えない。
彼にはそれぞれ母親が違う兄と三人の姉ーお瀬巳、お日和、お喜路ーがいる。
「女が三人寄ればかしましい」とはよく言ったもので、この三人、遠慮も気遣いもなく、傍若無人、平気で人前で毒舌を吐き、金遣いが荒く、買物や芝居、物見遊山にたびたび出歩いている。
そのたびに鷺之介は付き合わされ、引き回されるので、早く姉たちが嫁に行って、日々穏やかに暮らせることを夢見ている。
姉たちの行く先々でいつも騒ぎが持ち上がり、それを姉たちが解決していくが、鷺之介は姉たちに振り回されるので、こりごり。
姉たちは聡いんだからよく考えて行動すればいいのにと思いました。
まあ、この時代のお嬢さんたちはやることがなくて暇を持て余しているのでしょうから、暇潰しみたいなもんでしょうかね。
それにしても「貧乏人とのつき合いは、ほどほどにしなさいと言ったでしょ」にはまいりました。
最初はなんて嫌な女たちと思いましたが、読み進めていくと、鷺之介が傷つかないように考えて言っているのがわかりました。
姉たちは鷺之介がかわいくて仕方ないのです。
でも、ちょっと過保護ですよ。
鷺之介は優しさや思いやりなどは十分持っているのですから、世の中の酸いも甘さも噛み分けさせて、強い人になるようにしなければね。
最後の家族の秘密には驚かされました。
知っていて言わないということはありですが、黙っていることは大変です。
それだけ相手を思いやっているということですね。
こういう家族っていいですね。
続けて西條さんの小説を読みましたが、どちらも家族のことを描いています。
雨降って地固まるとなるといいですね。
ほっこりとした家族ものを読みたい人におすすめです。
読んだ日本ミステリ(文庫本) ― 2023/07/11

小松亜由美 『誰そ彼の殺人』
仙台、社乃宮大学法医学教室の解剖技官、梨木楓は准教授の今宮貴継と共に事件や事故の現場に赴き、検屍と司法解剖を行なう。
今回解剖するのは紅葉旅館で見つかった濡れた不審死体、沼地に捨てられた手首と足首が切断された全裸死体、蓮池村の蓮池に浮かんでいた異状死体、轢き逃げされた女子高校生の遺体など。
今宮は解剖結果から犯人を特定していく。
小松さんは臨床検査技師免許を持ち、大学医学部法医学教室で解剖技官を務めているので、解剖に関しての知識は半端ではないのがうかがえます。
しかしデビュー作ゆえミステリとして稚拙な面が見られたのが残念でした。
内藤了 『LIVE 警察庁特捜地域潜入班 鳴瀬清花』
警察庁特捜地域潜入班のもとに、清花の元上司、反町から調査依頼がくる。
青森の旧家で起きた火災現場から”変なもの”が見つかったというのだ。
班長の土井と共に赴くと、焼け残った土蔵に14体の花嫁人形が保管されていた。
その人形を調べて行くと…。
「警察庁特捜地域潜入班 鳴瀬清花」シリーズの二作目。
ゾクッとくることはくるのですが、明らかになった真相が切ないです。
浅倉秋成 『六人の嘘つきな大学生』
IT企業「スピラリンクス」の採用試験の最終選考に残ったのは六人。
一ヶ月後の最終選考ではグループディスカッションが行なわれる。
六人がチームを結成して行なったディスカッションの内容がよければ、六人全員に内定を出すこともあるという。
六人全員の内定を勝ち取るために、六人は交流を深め、連携していくが、急に課題が変更される。六人の中から一人しか選ばないというのだ。
一転して仲間からライバルになる六人。
最終選考で六人の嘘を暴露する怪文書が現れる。
いったい誰が…。
内定を獲得した人物が十年前に最終選考で起きた事件の真相を探っていくというお話です。
もはやだいぶ過去になってしまった採用試験ですが、二度と受けたくないですわ。
その時のことを思い出しながら読んでいきましたが、救いのある話でよかったです。
人の印象なんて簡単に変わるものですものね。
塔山郁 『「舌」は口ほどにものを言う 漢方薬局てんぐさ堂の事件簿』
漢方薬局てんぐさ堂の専務・天草奈津美は新しく雇った宇月啓介に不満を抱いていた。彼は漢方医学に関する知識は豊富で、お客へのカウンセリングも十分だが、如何せん売上げに貢献していないのだ。
しかしやがて奈津美は宇月が様々な悩みを抱えた患者に適切な解決法を与えているのに気づいていく。
薬剤師・毒島花織シリーズを書いた塔山さんの新シリーズ。
宇月は毒島さんと知り合いだったはず。
読むと漢方に関する色々なことがわかります。
奈津美がウザい女で、毒島さんほど魅力的ではないです。薬剤師試験に三回も落ちてるって、そんなことある?
シリーズになりそうなので、これからの宇月の活躍に期待しますわ。
杉井光 『世界でいちばん透きとおった物語』
ミステリ作家の大御所、宮内彰吾が死んだ。
彼の隠し子である僕は宮内の長男からの連絡を受け、はからずも宮内の遺稿探しをすることになる。
評判の本らしく、アマゾンで売り切れになっていて、書店に行ったら品切れになっていました。しばらくしてアマゾンでまた売り始めたので、買いました。
電子書籍(しないとは思うけど)になったとしても、紙で読みましょう。
本の最初と最後がちょっと残念。すべて考えて欲しかったですね。
なるほどと思いましたが、期待が大きすぎたのか、感動はしませんでした。
東野圭吾 『クスノキの番人』
直井玲斗は不当解雇された会社に忍び込み、盗みをして逮捕された。
そこに玲斗の祖母に依頼されたという弁護士が現れる。
依頼人の命に従うのならば、弁護士費用は依頼人がすべて払うという。
コイントスをして、従うことにする玲斗。
そうすると本当に保釈され、弁護士に依頼人が待つホテルに連れられて行く。
ホテルの部屋にいたのは、柳澤千舟という玲斗の母の腹違いの姉だった。
彼女は玲斗に「クスノキの番人」をやることを命じる。
『ナミヤ雑貨店の奇跡』みたいなファンタジー系のお話です。
クスノキの謎は明かされず、玲斗が自分で探っていきます。その過程で、いい加減な奴だった玲斗が変わっていきます。
優美みたいな女に甘いところが今一ですが、笑。
面白い順番ではなくて、読んだ順番に載せています。
どの本も読みやすくて、それなりに面白いので、お暇なときに手に取ってみてください。
読んだ文庫本 ― 2023/07/13
読んだ本がたまっているので、一気に紹介します。
どれもお勧めです。

伊坂幸太郎 『逆ソクラテス』
昨年、読みたいと思ったのですが、図書館の予約がとんでもなく多かったので、文庫本になるのを待っていました。
主人公が小学生というのは伊坂さんの作品では初めてではないでしょうか。
五編の短編集ですが、書き上げるのに十年以上かかったという、なかなか深い内容の本です。題名にソクラテスが入っていますから、哲学的でもあり倫理的でもあり、今までの先入観が崩される内容です。
自分の大事なものを貶されて、納得がいかなかったら、勇気を出して「僕はそうは思わない」と言いましょうね。
白尾悠 『サード・キッチン』
1998年、都立高校を卒業し、アメリカの大学に留学した尚美は英会話の苦手意識からうまくコミュニケーションができないがために友人ができず、留学資金を出してくれた叔母さんとの約束で、全教科でAを取るために図書館に籠もり、一人勉学に励む毎日だった。
しかし、ある日、寮の隣室のアンドレアと仲良くなり、マイノリティの学生食堂、サード・キッチンに招かれる。
そこで様々な差別や多様性に接し、韓国と日本の歴史についてきちんと学んでいないことや自らの中に潜む、無知や無自覚から来る差別意識を知ることにより、彼女は変わっていく。
尚美のことがよくわかります。私も留学したら、彼女みたいになると思います。
英会話、苦手なんです。日本語でよく喋る人は、他の言語でもよく喋ると聞いたことがありますけど。英会話教師に慣れだと言われましたが、どうなんでしょうね。
日本でやっとこの頃、多様性が話題になるようになりましたが、日本にいるとピンときませんよね。この本を読むと、少しはわかると思います。
矢崎存美 『湯治場のぶたぶた』
真面目な本の後に、ホッとする本を紹介しましょう。
そうです、ぶたぶたさんです。
今回のぶたぶたさんはカウンセラー兼里沼温泉という湯治場の経営者。
彼の作る普通のお料理がとっても美味しそう。カレー、肉じゃが、白菜と山の茸の鍋…。スイーツもいいですぇね。スイートポテトとコーヒー。涎が…。
こういう湯治場があれば、お金の続く限り泊まりたいです。
あなたもぶたぶたさんに癒やされてください。
ここからは時代小説シリーズです。
平谷美樹 『貸し物屋お庸謎解き帖<3> 五本の蛇目』
江戸のレンタルショップ「湊屋両国出店」の店主のお庸の店に悩みと秘密を抱えたお客がやって来る。
今回のお客と借り物は、身なりのいい年寄りが借りたいという能管、魚屋になりたいという男が借りる天秤棒、裕福な若い男が借りる蛇目、五本、野良着を着た三十絡みの男が借りたいという生きた猿、お庸が行く湯屋に貸す陰間などです。
いったい何のために借り物をしていくのでしょうね。
お客が怪しいので、追いかけ屋の陰間たちが活躍くてくれます。
伝法なお庸も落ち着き、お客の悩みを聞き、解決していくようになり、このシリーズも安心して読めるようになりました、笑。
風野真知雄 『潜入味見方同心六 肉欲もりもり不精進料理』
今回は風野さんらしい題名が面白いですね。
食にまつわる悪事を調べる味見方担当の月浦魚之進が将軍暗殺を阻むために活躍する様子を描いたお話です。
最初は頼りなかったのですが、この頃は冴えています。
無事に北大路魯明庵を捕らえ、嫁も決まり、いいラストとなりました。
なにやらとぼけた雰囲気が好きなシリーズでした。
篠綾子 『梔子の木 小烏神社奇譚』
近頃江戸に不眠と悪夢に苦しむ患者が増えている。
そのため泰山は原因を突きとめたいと思っているが、如何せん薬が足りないので、梔子の実を使うことにする。
そんな頃、公方さままで不眠に悩むようになる。その上、鵺の鳴き声が聞こえるというのだ。
天海と竜晴は 鵺退治をすることになる。
その一方、町に薬師如来の申し子と呼ばれる少年が現れ、不眠を治すお札を配っているという。
その少年に疑念を抱いた泰山と竜晴は、彼の行方を探ることにするが…。
陰陽師や付喪神など好きなものが出てくるので、楽しみなシリーズです。
大人でも読める江戸物ファンタジーです。
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