柚木麻子 『ついでにジェントルメン』 ― 2022/05/15

なかなか痛快な七編の短編小説集。
かわいい表紙に惑わされてはいけませんよ。
「Come Come Kan!!」
何の間違いか、初めて書いた短編小説「そうめんデッドコースター」で文藝春秋社のオール讀物主宰の新人賞を取ってしまった二十五歳の原嶋覚子。
あれから三年経つというのに、処女作の出版はまだ。担当編集者・佐橋守からのダメだしで、書き直しは十一回目。
今日も書き直しを命じられ、腐って、「一からデビューしなおそうかなぁ」とつぶやくと、後ろから、「そんなの意味ないよ」との声が。
後ろには誰もいなく、あるのは菊池寛の銅像だけ…。
家に帰り、ラインをしようとすると、スマホがない。文藝春秋社のサロンに落としたのか。
次の日、彼氏から覚子のツイッターが荒れているとの連絡が来る。
サロンにスマホを取りに行くと…。
「渚ホテルで会いましょう」
1992年に恋愛小説『永遠の楽園』を書いたベストセラー作家・毛利は、小説の舞台のホテルを訪れる。
『永遠の楽園』は一斉を風靡し、賞を取り、二百部売れ、映画化ドラマ化し、社会現象とまで呼ばれた。
しかし、ホテルは当時とは様子が違い、支配人は『永遠の楽園』ブームでカップルで利用していた客が、今は孫を連れて来るようになったという。
毛利は小説のモデルとなった妻・季見子の姿をホテルのあちこちで見かけ…。
「勇者タケルと魔法の国のプリンセス」
女性専用車両に乗り込んだ剛は、自分は女性の味方だと宣言する。
しかし女たちは彼に降りることを求める。
三ヶ月前、剛は間違えて女性専用車に乗り込んでしまい、その日のショックをSNSに書き、思いがけないほどの賛同者を得、今や剛はネット上のちょっとした有名人だ。
一人の小柄な老女が彼に大声で出て行くように求めた。
すると…。
「エルゴと不倫寿司」
会員制イタリアン創作寿司「SHOUYAmariage」は金の持った男性がリーチがかかった若い女性を連れて行く店。
そんな店に乳児をエルゴ紐で胸元にくくりつけた女がやって来る。
店のオーナーの母親と知り合いで、卒乳したらこのお鮨屋さんに寿司を食べにおいでと言われたと言うのだ。
女は次々と好き勝手に注文をして食べていく。
あまりの場違いさに唖然とするお客たちだったが…。
「立っている者は舅でも使え」
夫と離婚するため、地元に帰ってきた桃のところに、義父がやって来る。
連れ戻しに来たのだと思ったら、そうではなく、彼も家に帰りたくないというのだ。
それから何とも風変わりな義父との同居生活が始まる。
桃は義父を追い出そうと、家事を押しつけることにするが…。
「あしみじおじさん」
たまたま美容外科クリニックにあった「アルプスの少女ハイジ」を読んだ内田亜子は、珍しく本を読むのを楽しめた。
クリニックに勤めている友人に整形は止めて「アルプスの少女ハイジ」の入っている全集を買おうと思うと話すと、クリニックにある全集がただでもらえることになる。
本を読んで、亜子はお金のある老人たちの話し相手になり、スポンサーになってくれる人を見つけたいと考え、友だちにそのことを話す。
そうすると似たような仕事をしている叔母さんを紹介してくれた。
しかし…。
「アパート一階はカフェー」
大塚女子アパートメントは独身女性のためのアパート。食堂からエレベーター、水洗トイレ、共同浴場、シャワールームと何から何までそろっている。
そんなアパートメントの一階にできたカフェは食堂のメニューだけでは物足りない女性のためのカフェ。ちょっとしたお料理やとびきり美味しい珈琲があり、仕事の打ち合わせなどにも使える。
女性だけのアパートメントに何かと寄ってくる男たちがいる。
女をなんだと思っているのやら。
実はこのカフェの出資者は菊池寛。
それなのに、彼は一度もやっては来ない。何故なのか…。
こんな勘違い男っているよね。
自分は女を守るジェントルメンだと思っているんじゃない。
女はもっとしたたかだよ。
男性が読むと、嫌でしょうねぇ。
女性はガハハと大声をたてて笑いたくなるかも。
お勧めです。
ジェンダーに興味のある人もない人も読んでみて下さい。
お願いです。菊池寛については全く知らないので、誰か伝記小説を書いて下さいませ。
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