中野京子 『「怖い絵」で人間を読む』2010/08/15

NHK教育放送で「探求この世界 『怖い絵で人間を読む』」という講座をやっていました。この時、テキストを買いそびれた人に朗報です。この時の講座を基にNHK出版生活人新書の一冊として『「怖い絵」で人間を読む』が発売されました。NHKのテキストよりちょっとお値段が高いですが、読みやすくて内容も充実しています。その上、絵がカラーで、見所も書いてあります。お徳です。


帯の絵はベラスケス「フェリペ・プロスペロ王子」です。
誰?と思うでしょう。
彼はスペイン・ハプスブルク家の五世代目の子です。初代カルロス一世→フェリペ二世→フェリペ三世→フェリペ四世→そして彼・・・となるはずでしたが、叔父と姪の近親結婚のためか病弱で四歳で亡くなってしまうのです。四歳のわりには老成したまなざしをしていますね。
この絵を描いた宮廷画家ベラスケスは官使としての仕事が忙しく、好きな絵を描く暇もなく、この絵を描いた翌年に急死したそうです。過労死とも言われているそうです。
中野さん曰く。「描く者も描かれる者も、半ばこの世の人ではなかったからでしょうか、本作には、他の肖像画にはない一種独特の哀歓が漂っています」

私がやっぱり好きなのは、クノップフの『見捨てられた街』です。


ベルギー王室美術館で現物を見たのかどうか記憶にはありませんが、絵の背景を知った今、現物を見たいものです。
ひとつわかったこと。「クノップフは実の妹マルグリットを生涯愛し続け、彼女をモデルに夥しい数の作品を書いている」ことです。
彼女の肖像画がありました。


彼の絵の女性のように美しい人です(モデルだから当たり前ですね)。彼の絵の中にある哀感は妹への思いだったのかもしれませんね。

画家としてはもう一人、ゴヤに興味を持ちました。46歳の時、原因不明の高熱により聴力を完全に失ってしまったそうです。それまでの彼の人生はとんとん拍子によくなっていたのですが。
聴力を失ってから、彼は注文されたわけではないのですが、戦場での残虐行為の数々を描き重ねて言ったそうです。
この頃のスペインはナポレオンが進攻してきて国土は蹂躙されていました。ナポレオンが撤退した後は、王政復古、異端審問が復活、リベラル派の弾圧など目をそむけたくなるような残虐行為が日常的に繰り広げられていたようです。
72歳。大病の後、「聾者の家」を購入し、そこにゴヤは14枚の壁画を残しました。この中の一枚が「我が子を喰らうサトゥルヌス」だったそうです。他の絵ものちに「黒い絵」と呼ばれるほどの、暗い、不吉な雰囲気の、異様な絵です。
ゴヤは四年間「聾者の家」で暮らし、フランスのボルドーへ亡命します。ゴヤにとって心を癒すためにこれらの「黒い絵」は描かなければならないものだったようです。

                                               ゴヤ「魔女の夜宴」

この本の最後の「イーゼンハイムの祭壇画」は圧巻です。宗教画の究極の目的がわかります。
自分が巡礼者だったら・・・。
講座では実際にこの場面をミニドラマにして放送したそうです。ここだけでも見てみたかったです。


中野さんの言うように、「一枚の絵には、その時代特有の常識や文化、長い歴史が絡み、注文主の思惑や画家の計算、されには意図的に隠されたシンボルに満ち満ちて」います。
私達はこれらのことを知ることにより、絵をより深いものとして感じることができるのではないでしょうか。

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