ボニー・ガルマス 『化学の授業をはじめます。』 ― 2024/07/13

エリザベス・ゾットは奮闘していた。
アメリカの1950年代から60年代は、女性は劣っているという偏見に支えられた家父長制社会だった。
UCLAで修士号を取ったが、彼女をレイプしようとした指導教官に暴行を働いたため、博士課程進学許可を取り消され、仕方なくヘイスティングズ研究所に職を得た。
彼女は科学者としてヘイスティングズ研究所に勤務しているつもりだったが、与えられる仕事は男性の補助的な仕事ばかりだった。
ある日、ノーベル賞候補にまでなるようなスター科学者であるキャルヴィン・エヴァンズとの幸運な出会いがある。
実態はとんでもない出会いだったが、その後、彼らはつき合い、一緒に暮らし始め、唯一無二の存在として互いに認めあうようになる。
二人の育った家庭は悲惨なものだったが、キャルヴィンは家族になろうとエリザベスにプロポーズするが、断られる。
エリザベスは結婚しないし、子どもも作らないという。
その代わりに、彼らはシックス=サーティという野良犬を飼う。
ところが悲劇が起る。
キャルヴィンが事故で亡くなったのだ。
失意のエリザベスに遺されたのは、思ってもみなかった物だった。
エリザベスは妊娠していたのだ。
社会は未婚で子供を産む女性に対して不寛容で、エリザベスはヘイスティング研究所から解雇される。
最悪なことに科学研究部部長のドナティは後援者からの寄付金を得るためにエリザベスの功績を我が物とする。
解雇されてからエリザベスは自宅に研究室を作る。
生計を立てていくために、自分の名前を出さずに相談に来た元同僚の仕事を代わりにやり、料金をもらうことにしたのだ。
子どもが産まれてから、エリザベスの毎日は修羅場となる。
そんな彼女に隣人のハリエット・スローンという助っ人が現れる。
ハリエットは夫と上手くいっていないが、カソリックであるため離婚をしようとは思わずにいた。
最初はエリザベスの手助けをし、できるだけ家にいないようにしようと考えたのだが、最終的に彼らは友人となる。
エリザベスに転機が訪れる。
それは娘のマデリンのお弁当が誰かに盗まれているとエリザベスが気づいてから始まった。
お弁当を盗んでいたアマンダ・パインの父親でテレビ番組のプロデューサー、ウォルターがエリザベスに料理番組に出演しないかと声をかけたのだ。
背に腹は代えられないとエリザベスは引き受ける。
しかし、料理番組はウォルターの考えるようにはならなかった。
エリザベスは科学的に料理を説くのだ。
はたして彼女の料理番組はどうなるのか…?
1950年代から1960年代のアメリカが描かれています。
前半は読みながら胸クソ悪くなりました。
少し長いですが、本から抜粋します。
「彼らはエリザベスを管理したがり、さわりたがり、支配したがり、黙らせたがり、矯正したがり、指図したがる。なぜ仲間の人間として、同僚として、友人として、対等な相手として、あるいはただ通りすがりの他人として女性に接することができないのか」
「ハリエットに言わせれば、男は女とはほとんど別種の生き物だった。男は甘やかされることを必要とし、すぐに傷つき、自分より知的だったり能力が高かったりする女性を許せない」
自分の言うことを聞かなければ、最後はレイプですか。
エリザベスは言います。
「要するに、女性を男性より劣ったものとして貶め、男性を女性より優れたものとして持ちあげるのは、生物学的な習性ではありません。文化的な習慣なんです」
ふと疑問が湧きました。
なんで今頃、この本が出版されたのでしょう?
「全米250万部、全世界600万部。2022年、最も売れたデビュー小説!」だそうです。
ひょっとして、日本よりも女性が活躍しているアメリカなのに、女性たちには色々と不満があるのでしょうかね。
お話の後半でエリザベスが大躍進し、最後は勧善懲悪でスカッとします。
今、何かやろうと思っても躊躇している人が読むと、一歩踏み出せるようになるかもしれませんね。
最後にハリエットとエリザベスのわたしが好きな言葉を載せておきます。
ハリエット
「家族とは、つねに保守点検が必要なのだ」
エリザベス
「勇気が変化の根っこになりますーそして、わたしたちは変化するよう化学的に設計されている。だから明日、目を覚ましたら、誓いを立ててください。これからはもう我慢しない。自分になにができるかできないか、他人に決めさせない。性別や人種や貧富や宗教など、役に立たない区分で分類されるのを許さない。みなさん、自分の才能を眠らせたままにしないでください。自身の将来を設計しましょう。今日、帰宅したら、あなたはなにを変えるのか、自身に問いかけてください。そうしたら、それをはじめましょう」
ボニー・ガルマスは1957年生まれで67歳になりますが、この本がデビュー作です。British Book Awards Author of the Year 2023をはじめ、色々な賞を取っています。
何歳になっても本が書けるといういいお手本ですね。
500ページを超える本で、最初は翻訳に違和感を感じますが(わたしだけかも)、面白そうと思った方は是非読んでみてください。
後悔はしないと思います(たぶんww)。
そうそう、犬のシックス=サーティは可愛いです。
ボニーさんの愛犬は99だそうです。
犬の名前に数字をつけるのが好きなんですね。
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