櫻田智也 『六色の蛹』2024/07/16

魞沢泉シリーズの三作目。


「白が揺れた」
魞沢泉は寒那町の<地域おこし協力隊>が『山を生きる、山を食べる』と題して企画したイベントに出席する。
ワークショップの打ち上げを兼ねた懇親会に参加し、そこで知り合った町内の<名人>から<へぼ獲り>を習っていると、名人は途中でへぼが飛んで行ったのとは真逆の方向へ走っていってしまった。魞沢は唯一の教え『とにかく蜂を追え』を守って、蜂を追うと、鹿を撃ち殺したハンターの串呂と出会う。そこに緊急をしらせるホイッスルが鳴り響く。音のする方へ行ってみると、昨日のワークショップに参加していた三木本がいて、猟友会メンバーの梶川がうしろから胸を撃たれて倒れていたという。ホイッスルの音を聞いてやって来た名人が警察を呼びにいったらしい。
梶川は昨日のワークショップで二十五年前の誤射事件の話をし、腰からさげた白いタオルが誤射を誘発した可能性があると言っていたにも関わらず、腰から白いタオルをさげていた。違和感を覚える魞沢。

「赤の追想」
魞沢は花屋の黒板に『ミヤマクワガタ入荷しました』と書いてあるのを見て、花屋に入っていく。彼は勘違いをしたのだ。このミヤマクワガタは植物なのだ。自分の勘違いに気づいた魞沢は苗を買って帰ることにする。
花屋から出ようとすると、急に激しい雨が降り始める。外にある商品を中に入れるのを手伝った魞沢はお茶をすすめられ、花屋の店長、翠里と話をする羽目になる。
彼女から聞いた季節はずれのポインセチアを欲しがった少女の真意は?

「黒いレプリカ」
魞沢は北海道の宮雲市にある<噴火湾歴史センター>の作業員をしていた。
ある日、上輪山の工事現場で埋蔵物が出たという連絡が入る。現場に行ってみると、人の全身骨格の一部が露出していた。
八年前、調査部の田原という男がセンターから持ち出した土器を他人の土地に埋め、遺跡の捏造をしていたという事件があり、事件後しばらくして、田原は行方をくらましていた。
今回の出土も田原が埋めたものなのか?そして人骨は…。

「青い音」
魞沢は友人から誘われたコンサートに行く前に、ある店で没食子インクを見つけ買おうとした時にある男と出会う。
彼に誘われ、喫茶店に入り、話をしているうちに、彼は自分の生い立ちを話し始める。彼のミュージシャンで作曲もしていた父親が亡くなった部屋から楽譜が一枚なくなっていたというのだ。楽譜の行方を魞沢が推理する。

「黄色い山」
寒那町の名人が亡くなったという連絡を受け魞沢は駆けつける。
名人はお棺の中に自分が彫った仏像を納めて一緒に火葬して欲しいといい遺したという。名人が彫った仏像は他にもいくつかあるのに、なぜこの仏像なのか?

「緑の再会」
魞沢は墓参りの後に一度入ったことのある花屋に行く。彼は勘違いをしており、翠里というのは名前ではなく、苗字だった。花屋には店長の娘がいて、母はお寺の墓苑にいるという。それを聞いた魞沢は…。

今回の短編の題名は虫に関するものではなく、色になりました。
「白」のその後を描いたのが「黄色」で、「赤」のは「緑」です。
もやもやとしていたことがスッキリしました。
コミュ障の魞沢くんがよく寒那町で受け入れられましたね。
彼の勘違いの多さにびっくりしましたが、ご愛敬ですww。
題名に「蛹」を使った理由はあとがきに書いてありますので、ご覧下さい。

「赤の追想」に出てくる「ミヤマクワガタ(深山鍬形)」の花は「コトバンク」から頂きましたが、こんな花です。


高山植物で、可憐な花ですね。

「青い音」に出てくる「ピカシェットの家」が気になったので調べてみました。


墓守の男と彼の妻が暮らした家で、男が陶器やガラスの破片を拾い集めて貼り付けて自宅や庭を飾ったそうです。(「4travel.jp」から写真をいただきました)
なんとも美しい家です。

櫻田さんは北海道出身で、今は北海道江別市に住んでいるようです。
単行本はこのシリーズだけみたいです。

魞沢泉シリーズ
②『蝉かえる
③『六色の蛹』